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私が研究枠を後輩に譲った後、彼は取り乱した第3話

この話は約1492字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

少しばかり、無視された後のような不安がそのまま滲んでいた。

紗月はそれを見るや、慌てて彼の腕を揺らした。

「土屋さん、ねえ、この関数、ちょっと見てくれない?」

呆然と立ち尽くしたままの時彦は、半ば強引にして紗月のデスクへと引きずられていった。

会議室のドアを閉め、私は全神経を会議に集中させた。

会議が終わると、中世古教授が先頭に立ち、熱帯雨林プロジェクトのメンバーたちが小さな送別会を開いてくれた。

皆とても熱心で、少し酒も入って、雰囲気はとても良かった。

酒の匂いをまとって家に戻った時には、すでに夜の十一時近くだった。

リビングの灯りがついていた。

時彦は真っ黒な顔でソファに座っていた。まるで門番みたいに。

「どこ行ってたんだ?こんな遅くまで帰らない上に、酒まで飲んで?」

彼はすぐに立ち上がり、声には抑えきれない怒気が満ちていた。

「明日俺は出発だぞ。早く帰ってきて荷物の準備くらい手伝ってくれてもいいだろ!」

酒は臆病者を強気にすると言うけれど、いま目の前にいる時彦を見ていると、私はただただ疲れ果てて、言葉を発する気力すら湧かなかった。

静かに息を吐いた。

「時彦、何度も調査に行ってるんだから、あなたのほうが経験は豊富でしょ。何を持っていくべきで、何が要らないのか、あなた自身が一番分かってるはず」

私の静かな声に刺されたのか、時彦の声音は思わず荒くなった。

「前はいつも君がやってくれただろ!」

そう、前は全部、私だった。

その頃の私は、彼が道中でどんなトラブルに遭うかと気が気でなく、飢えたり、凍えたり、少しでも辛い思いをするのが怖くてたまらなかった。

長い時間離れることを思うだけで、胸がぐしゃぐしゃに軟らかくなってしまった。

家中のもの全部を、彼のスーツケースに詰め込みたかった。

できることなら──私も一緒に行きたかった。

でも、いまは……

「あなたはもう大人でしょ。子供じゃない。これくらい、自分でできると私は思ってる」

真剣な眼差しと信頼の響きは、今の彼には刃のように刺さったらしい。

時彦は私を睨み付け、その視線はまるで私の顔に穴を開けようとしているみたいだった。

「いいだろう、優未。やれるものならやってみろ。後悔するなよ!」

そう言い捨てて、ソファの上の上着を掴み、ドアを思いきり叩きつけるように閉めて出て行った。

こめかみを押さえながら、私は彼を追うことなく、熱帯雨林プロジェクトの資料整理を続けた。

それほど時間も経たないうちに、スマホが狂ったように鳴りはじめた。

消音にして、目の前の作業を終えてから、ようやく画面を開いた。

全部、時彦からだった。

彼と紗月がアウトドア用品店にいる写真。写真の中で、紗月はつま先立ちして彼のハードシェルジャケットの襟を整えている。

二人の距離は近く、姿勢は親しげだった。

さらに、紗月が二色の保温ボトルを手に持ち、首を傾げながら満面の笑みを浮かべている写真もあった。

正直に言えば──どっちの色もなかなか可愛い。

ショッピングサイトで売っているか調べようとした瞬間、時彦のメッセージが飛び込んできた。

【君が一緒に装備を買いに行ってくれないからだぞ。仕方なく、夜遅くに紗月に付き合わせるしかなかったんだ】

どことなくにじむ責め口調。

だけど、買い物が嫌いで、女の買い物は面倒くさいって、そう言ったのは、ほかならぬ彼自身だった。

今さら私のせい?

画像をスライドさせると、また新しいメッセージが続いた。

【まあ、別に大したことじゃない】

【明日、ちゃんと見送りに来るなら、君が今日拗ねてることは全部許してやる】

【今回は化石を一つ持って帰ってやるよ。絶対に見たことないやつ……紗月も持ってないやつを】

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