私が去ったあと、クズ社長は狂うほど後悔した第1話
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高梨蓮(たかなし れん)はかつて、私のために家族と決裂し、百億円規模の財産まで手放して、破産した孤児だった私・篠原綾香(しのはら あやか)と結婚した。
誰もが言った。
私は彼にとって、何よりも大切な存在なのだと。
けれど、彼が白石美咲(しらいし みさき)を連れ帰ってきた日から、すべてが変わった。
美咲が花粉アレルギーだと言えば、蓮はその夜のうちに、私たちの愛の象徴だった薔薇園を取り壊した。
美咲が野菜中心の食事にしたいと言えば、蓮は私の体調管理のために用意されていた療養食をやめさせた。
美咲が私を見るだけで気分が悪いと言えば、蓮は私を湖畔の屋敷に閉じ込めた。
私は、蓮がただ私に飽きただけなのだと思っていた。
もう愛が冷めたのだと思っていた。
彼が人と笑いながら話しているのを聞くまでは。
「これはただの賭けだ。先に白石美咲を落としたほうが勝ちなんだよ。綾香?適当に機嫌を取っておけばいい」
私は下腹に手を当て、笑った。
いいわ。
そんな遊びをしたいなら、付き合ってあげる。
私は彼の前で、誰よりも従順で物分かりのいい女を演じた。
彼の遊びが終わる日を待ちながら。
けれど、私を待っていたのは医師の冷たい宣告だった。
――胎児の心拍は、すでに確認できません。
* * *
表向きの私・篠原綾香(しのはら あやか)は、従順な妻だった。
けれど本当は、高梨蓮(たかなし れん)が白石美咲(しらいし みさき)に夢中になっていく様子を冷めた目で眺めながら、彼がいつこの遊びに飽きるのか、心の中で数えていた。
プールサイドのパーティーは、華やかに着飾った人々でにぎわっていた。
私はグラスを手に、プールの端に静かに立っていた。
きれいに置かれているだけで、誰の目にも留まらない置物のように。
少し離れた場所で、蓮は自分で焼いたステーキを小さく切り分け、美咲の口元へ運んでいた。
美咲は嬉しそうに笑いながら、恥ずかしがるふりをして彼の手をそっと押し返した。
「蓮、こんなに大勢が見ているのに」
蓮は、私には一度も向けたことのない優しい眼差しで美咲を見つめていた。彼は彼女の頬を軽くつまみ、聞いているこちらが胸やけしそうなほど甘い声で囁いた。
「気にするな。俺の女だ。誰にも文句なんて言わせない」
周囲から、羨望まじりの冷やかしが一斉に上がった。
私はただ、蓮を見つめていた。
彼もそれに気づいたのか、ふとこちらへ目を向けた。
目が合った、その一瞬。
私はほんの少しだけ、心が揺れた。
もしかしたら、彼の心にはまだ、私の居場所が少しは残っているのかもしれない。
そう思った次の瞬間、どぼん、と大きな水音が響いた。
美咲がプールに落ちていた。
悲鳴が、パーティーのざわめきを切り裂く。
私は、彼女に一番近い場所に立っていた。
「綾香さん、どうして私を突き落としたの!」
美咲は水の中でもがきながら、目を真っ赤にして叫んだ。
今にも泣き出しそうな声だった。
私が口を開くより早く、黒い影が駆け寄ってきた。
蓮はプールへ飛び込み、美咲を一気に抱き上げた。
ずぶ濡れになった彼女を抱きしめ、自分が着ていた高価なオーダーメイドのジャケットを脱いで、彼女の身体をしっかり包み込む。
彼は美咲を抱いたまま岸へ上がってきた。
その一歩一歩が、私の砕けた心を踏みつけていくようだった。
彼は私の前で足を止めた。
「そんなに美咲が目障りなのか」
彼は私に説明する隙さえ与えなかった。最初から、私が悪いと決めつけていた。
冷たい風が吹き抜け、薄いドレスが肌に張りついた。骨の芯まで冷え切っていく。
蓮の視線は私をかすめただけで、少しも留まらなかった。
まるで私は、そこにあってもなくても同じ飾り物にすぎないかのようだった。
彼は顔を伏せ、指先で美咲の頬に残った水滴をそっと拭った。
その仕草はあまりにも大切そうで、まるで壊れやすい宝物に触れているようだった。
「蓮、私、寒い……」
美咲は彼の腕の中で小さく震え、ひどく心細げな声をこぼした。
「大丈夫だ。すぐ帰ろう」
彼は優しくなだめながらも、次の瞬間、私のアシスタントである佐藤へ冷たい視線を向けた。
「お前の上司は、ずいぶん卑劣な真似をするんだな。今すぐ美咲に謝らせろ」
空気が一瞬で凍りついた。
佐藤の顔は真っ青になり、唇を震わせながら私のために何か言おうとした。
私は目を上げ、視線だけで彼女を止めた。
もういい。
最初から私が悪いと決めつけている相手に何を言ったところで、惨めになるだけだ。
私が何も言わないのが気に入らなかったのだろう。蓮の口元に、冷たい笑みが浮かんだ。
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