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真実の愛は、もう還らない第1話

この話は約2605字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

会社が巨額契約を締結するその日、私、久世怜奈(くぜ れな)はひどい風邪で嘔吐と下痢に見舞われ、取引先の顔に汚物を浴びせてしまった。相手は激怒し、その場で契約を取りやめ、会社には20億を超える損失が出た。

社長である恋人の山本颯太(やまもと そうた)は激しく怒り、私を副社長の座から平の営業にまで降格させたうえ、毎日睡眠は三時間まで、それ以外の時間はすべて会社のために身を粉にして稼ぎ、会社の損失を完済するまで働けと命じた。

私は罪悪感を抱えながら、毎日必死に働き、案件を取って金を稼いだ。だが、もうすぐ借金を返し終えられるというところで、喜び勇んで進捗を報告しに社長室へ向かった私は、そこで彼と女性秘書の会話を耳にしてしまった。

「山本社長、あのとき久世さんは私の歩合からたった一円差し引いただけなのに、あなたはこっそり彼女の飲み物に下剤を混ぜて、取引先の前であんな大失態を演じさせたんですよね。そのあとも、巨額契約を失ったのは彼女のせいだって責任を押しつけて、死にものぐるいで損失を穴埋めさせて……さすがに少しやりすぎじゃありませんか?

もう借金もほとんど返し終えていますし、そろそろ許してあげてください。だって、社長は本気で久世さんを愛しているんでしょう?もし久世さんを追い詰めすぎて、本当にあなたのもとを去ってしまったらどうするんですか。私のせいで、お二人が引き裂かれるようなことにだけは……」

井上桃花(いのうえ ももか)の言葉を、彼は遮った。

「だめだ。君は俺の命の恩人なんだ。あのとき交通事故で大出血した俺が、今こうして生きていられるのは、君が輸血してくれたからだろう?

怜奈は、俺がこの世でたった一人愛している女だ。だが、君の歩合を差し引いた以上、罰は受けてもらう。それが20億なら20億だ。一銭たりとも減らすつもりはない。それに、あいつは有能だ。あと一か月もあれば完済できる。そのときはきちんと埋め合わせをして、結婚するつもりだ」

けれど彼は知らない。私には、もう一か月も残されていない。

この数年、彼のいう損失を返すために身体を酷使しすぎたせいで、私は胃がんになっていた。余命は、あと一週間しかない。

それに、あの日交通事故に遭った彼に輸血したのは、桃花ではなく私だった。

* * *

会社が巨額契約を締結するその日、私、久世怜奈(くぜ れな)はひどい風邪で嘔吐と下痢に見舞われ、取引先の顔に汚物を浴びせてしまった。相手は激怒し、その場で契約を取りやめ、会社には20億を超える損失が出た。

社長である恋人の山本颯太(やまもと そうた)は激しく怒り、私を副社長の座から平の営業にまで降格させたうえ、毎日睡眠は三時間まで、それ以外の時間はすべて会社のために身を粉にして稼ぎ、会社の損失を完済するまで働けと命じた。

私は罪悪感を抱えながら、毎日必死に働き、案件を取って金を稼いだ。だが、もうすぐ借金を返し終えられるというところで、喜び勇んで進捗を報告しに社長室へ向かった私は、そこで彼と女性秘書の会話を耳にしてしまった。

「山本社長、あのとき久世さんは私の歩合からたった一円差し引いただけなのに、あなたはこっそり彼女の飲み物に下剤を混ぜて、取引先の前であんな大失態を演じさせたんですよね。そのあとも、巨額契約を失ったのは彼女のせいだって責任を押しつけて、死にものぐるいで損失を穴埋めさせて……さすがに少しやりすぎじゃありませんか?

もう借金もほとんど返し終えていますし、そろそろ許してあげてください。だって、社長は本気で久世さんを愛しているんでしょう?もし久世さんを追い詰めすぎて、本当にあなたのもとを去ってしまったらどうするんですか。私のせいで、お二人が引き裂かれるようなことにだけは……」

井上桃花(いのうえ ももか)の言葉を、彼は遮った。

「だめだ。君は俺の命の恩人なんだ。あのとき交通事故で大出血した俺が、今こうして生きていられるのは、君が輸血してくれたからだろう?

怜奈は、俺がこの世でたった一人愛している女だ。だが、君の歩合を差し引いた以上、罰は受けてもらう。それが20億なら20億だ。一銭たりとも減らすつもりはない。それに、あいつは有能だ。あと一か月もあれば完済できる。そのときはきちんと埋め合わせをして、結婚するつもりだ」

けれど彼は知らない。私には、もう一か月も残されていない。

この数年、彼のいう損失を返すために身体を酷使しすぎたせいで、私は胃がんになっていた。余命は、あと一週間しかない。

それに、あの日交通事故に遭った彼に輸血したのは、桃花ではなく私だった。

……

オフィスの外。

颯太と桃花の会話を耳にした瞬間、私は全身を雷に打たれたような衝撃に襲われ、身体の震えが止まらなくなった。

この三年間、私は毎日三時間しか眠っていない。いや、三時間にも満たない日だって少なくなかった。徹夜で働き続けることも何度もあった。

仕事を取るために、私はほとんど毎日取引先の酒席に付き合わされ、日本酒や焼酎を浴びるように飲まされた。限界を超えれば病院で胃洗浄を受け、退院したその足でまた、命を削るように酒をあおった。

普段も金を浮かせるため、接待のとき以外は蒸しパンのような質素なものだけで飢えをしのぎ、水だけを飲んでいた。会社と家は十キロ離れていたが、私は毎日走って通勤していた。

ただ一日でも早く、自分が会社に与えてしまった20億を超える損失を返しきるために。

その20億を超える損失は、まるで巨大な山のように私の肩にのしかかり、颯太に対する罪悪感と自責の念で、私はずっと押し潰されそうになっていた。

颯太は何もないところから会社を立ち上げ、一歩ずつ会社を上場目前まで育て上げた。その道のりがどれほど苦しかったかは、ずっとそばで支えてきた私が誰よりよく知っている。

だからこそ、取引先の前で失態をさらし、会社に巨額契約の機会を失わせたうえ、上場まで延期に追い込んでしまったあのとき、颯太から厳しい処分を下されても、私はそれを当然の報いとして受け入れた。

この数年、疲れ果ててもう無理だと思うたびに、押し寄せてくる強烈な罪悪感が私を支え、また命を削るように働き続けさせた。

けれど今、最後の案件がまとまろうとしていて、20億を超える損失もまもなく返し終え、この身にのしかかっていた大きな山がようやくどかされようとしていたそのとき、颯太は私にさらに重い一撃を与えた。

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