猛毒の愛、地獄へ堕ちた父子第2話
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私は朔陽の手を払い除け、独りで寝室へと戻った。
結局その夜、晴也は病院に運ばれた。自らの食い意地を抑えられず、マンゴーキャンディーを口にしたせいだった。
子供は隠し事ができない。病気で意識が朦朧とする中、彼はうわ言を繰り返していた。
「千愛ママがいい……お家には帰りたくないよぉ」
一言一言がナイフとなって私を切り裂く。医師から注意事項を聞き終えたばかりの私は、危うくその場に崩れ落ちそうになった。
私は書き留めたメモを朔陽に押し付け、溜息をついた。
「離婚しましょう。彼の望み通り、千愛を呼べばいいわ」
朔陽は鼻で笑った。
「子供の戯言だよ。君もそんなの真に受けるな」
彼は私の瞳を覗き込み、真実と嘘を織り交ぜたような口調で弁解を重ねる。
「千愛のことは君だってよく知っているだろう。俺たちが結婚してからは、彼女とは一切関わっていない。
前回、晴也を連れて彼女と少し一緒に過ごしたから、この子の頭の中で記憶が混ざってしまったんだろうな。久しぶりに会うと、どうしても新鮮味を感じてしまうものだから」
私が言い返す間もなく、千愛が血相を変えて駆け込んできた。彼女は真っ先に晴也の元へ飛び込む。
彼女は心底痛ましそうに晴也を抱きしめ、私を責め立てた。
「瀬奈さん、どうして晴也にマンゴーアレルギーなんて出させたの?この子はあんなに聞き分けがいいのに、なぜこんなに苦しませるのよ……つい二日前までは、私があんなにふっくらと元気に育てていたのに」
周囲の人々が次々と足を止め、ひそひそと囁き合う。
「やっぱり継母は実の親には敵わないわね、可哀想な子……だから安易に離婚なんてするもんじゃないのよ」
私の視線があまりに鋭かったことに気づいたのか、彼女は慌てて取り繕った。
「瀬奈さん、変な意味で言ったんじゃない、気を悪くしないで。ただ、晴也のことが心配で……どうしていつもこの子ばかり、こんなに辛い目に遭わなきゃいけないのかと思っただけ」
私は踵を返し、トイレへ向かった。冷たい水で顔を洗い、ようやく震える心を落ち着かせる。
晴也がこれほどの苦痛に耐えているのは、私から逃れ、千愛に会うためなのだ。
三歳の頃から、今日に至るまで、ずっと……
病室に戻り、中に入ろうとした私の耳に、楽しげな笑い声が飛び込んできた。
「ねえパパ、僕、千愛ママともう数日一緒にいたいよ」
晴也は実に親しげにそう呼びかけ、千愛もまた期待に満ちた表情を浮かべている。
だが朔陽は考える間もなく拒絶した。
「ダメだ。こんな風に勝手に来られるのは困る。瀬奈に知られたらまずいと言っただろう」
千愛は下唇を噛み、甘えるようにすがりついた。
「今回だけ、お願い。瀬奈さんとは顔を合わせないようにするから。晴也の体が無事だと確認できたらすぐ帰るわ。私、年に三ヶ月しかこの子に会えないのに。たった数日増えるだけじゃない」
朔陽は彼女の瞳を見つめ……ついに折れた。
「今回だけだからな」
私は自嘲気味に笑った。これではまるで、私が彼ら三人の睦まじい家庭を壊す泥棒猫になった気分だ。
そこへ医師が入り、朔陽に向き直る。だが朔陽は何を聞かれてもしどろもどろで、何一つ答えられない。医師は隠そうともせず苛立ちを露わにした。
「お子さんの既往歴はどうなっているんです?以前服用していた薬の種類は?最も重篤だった時の症状は……?親なのに、そんなことも把握していないのか」
千愛はもじもじと指を絡ませ、朔陽は気まずそうに私へメッセージを送ってきた。
その時、私はドアを押し開けて中へ入った。
「私に説明してください。私はこの子の……」
……いや、もうどうでもいい。
私は医師に晴也のこれまでの状況を事細かに伝えた。自分のお腹を痛めて産んだ子だ。病に苦しむ姿を、やはり見過ごすことはできなかった。
説明を終えて病室に戻ると、千愛はわざとらしく帰る素振りを見せた。
晴也は私を見るなり、わあわあと泣き叫んだ。
「嫌だ、嫌だ!千愛ママがいい!」
耳を劈くような泣き声が病室に響き渡る。分かっている、彼らは一芝居打っているのだ。
私を追い出し、彼らに場所を譲らせるための。
溢れそうになる涙を必死にこらえ、私は晴也を見つめた。
「……分かったわ。もう二度と、来ないから」
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