狂気御曹司に囚われた身代わりに第1話
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十八歳のとき、草場哲弘(くさば てつひろ)は私を、児童売買が行われている福祉施設から救い出してくれた。
それ以来、私は彼の別荘に住むことになったが、決して救われた幸運な存在とは言えなかった。
彼は私に、別の少女の古い服を着せ、彼女の好むピアノ曲を無理やり覚えさせ、話し方までもまねさせた。
そして、私がまったく別の人間になるその日に、彼は一人の女を連れてきた。
彼女は美しい白いドレスをまとい、笑うと目が細くなり、眉骨のあたりに小さなほくろがある。私とまったく同じだ。
「菊地星那(きくち せな)、こっちに来なさい」
「青沢星来(あおざわ せいら)が戻ってきた。もうお前は必要ない。これまで付き合ってくれたことを考えて、草場家でメイドをしてもいい」
それ以来、星来という名の女は、哲弘のすべての愛情を受けてきた。
彼女が料理の味が薄いと言うと、哲弘は私にひざまずかせ、何度も作り直させた。
彼女が不注意でつまずくと、哲弘は「お前が手を抜いた」と責め立て、戒尺で私の全身を打ちつけ、青紫に腫れ上がらせた。
私は黙って、すべてを受け入れた。
――あの年、彼がそう言ったから。
「俺に恩を返したいのか?
なら、星来の身代わりとして、百回、俺と寝ろ」
私はうつむきながら、残っているコンドームの数を数えた。
あと一回だけ。
あと一回で、私は身代わりという影から、ついに逃れられる――
* * *
十八歳のとき、草場哲弘(くさば てつひろ)は私を、児童売買が行われている福祉施設から救い出してくれた。
それ以来、私は彼の別荘に住むことになったが、決して救われた幸運な存在とは言えなかった。
彼は私に、別の少女の古い服を着せ、彼女の好むピアノ曲を無理やり覚えさせ、話し方までもまねさせた。
そして、私がまったく別の人間になるその日に、彼は一人の女を連れてきた。
彼女は美しい白いドレスをまとい、笑うと目が細くなり、眉骨のあたりに小さなほくろがある。私とまったく同じだ。
「菊地星那(きくち せな)、こっちに来なさい」
「青沢星来(あおざわ せいら)が戻ってきた。もうお前は必要ない。これまで付き合ってくれたことを考えて、草場家でメイドをしてもいい」
それ以来、星来という名の女は、哲弘のすべての愛情を受けてきた。
彼女が料理の味が薄いと言うと、哲弘は私にひざまずかせ、何度も作り直させた。
彼女が不注意でつまずくと、哲弘は「お前が手を抜いた」と責め立て、戒尺で私の全身を打ちつけ、青紫に腫れ上がらせた。
私は黙って、すべてを受け入れた。
――あの年、彼がそう言ったから。
「俺に恩を返したいのか?
なら、星来の身代わりとして、百回、俺と寝ろ」
私はうつむきながら、残っているコンドームの数を数えた。
あと一回だけ。
あと一回で、私は身代わりという影から、ついに逃れられる――
……
水晶のシャンデリアが星来の白いドレスを照らし、彼女は銀のフォークでステーキを軽くいじった。
「哲弘、このソース、酸っぱすぎて歯が浮くわ。私、お腹が弱いのに……星那が……?」
哲弘の表情が一瞬で冷たくなり、私を鋭く見つめた。「作り直せ」
私はエプロンを握りしめた。昔、塩を入れすぎてしまった時のことを思い出した。
彼は笑いながら皿を引き寄せて言った。「星那が作ったなら、どんなにしょっぱくても美味しいよ」
あの時の眼差しは、どこまでも優しかった。けれど今思えば、全て恋人代わりの私への偽りの愛情に過ぎなかった。
星来が戻ってきてから、仕掛けた冤罪は十件を下らない。それでも哲弘は、一度も私を信じようとしなかった。私の説明すら聞こうとしなかったのだ。
「待って」星来が哲弘の腕をそっと掴み、声を柔らかく落とした。
「哲弘、責めてるわけじゃないの。ただね、彼女が立ってると、あなたが昔、私に料理を作ってくれたときのことを思い出して……胸が苦しくなるの」
哲弘の表情はさらに曇った。「跪いてやれ。星来の気分を害するな」
私はその場で膝をついた。大理石の床の冷たさが骨の芯まで染み渡る。
福祉施設で痛めた膝は、冬になるとまだ疼く。去年の冬、彼は執事に私に湯たんぽを持たせて言った。「女の子の膝は冷やすなよ」
――それなのに今、私を跪かせることにためらいはない。
星来がすれ違いざまにヒールで私の手の甲を踏みつけ、低く笑った。「可哀想ぶっても無駄よ。哲弘の優しさは、いつだってあなたには向かないんだから」
調理台が高すぎて、私はつま先立ちでケチャップを取ろうとした。その瞬間、肘で押されてしまい、ガラス瓶が床に落ちて割れた。ソースが星来の白いドレスに飛び散った。
彼女の目に涙が滲み、哲弘の袖を掴んだ。「哲弘!私は助けてあげようとしただけなのに、押されたの……!」
哲弘は駆け寄り、目を氷のように冷たく光らせた。「お前、どうしてそんなに性根が悪いんだ?星来を妬んでるのか?」
私は黙って俯き、ポケットの中の最後のコンドームを握りしめた。
「哲弘、もう責めないであげて」星来は挑発的な目で私を見つめた。
「星那は手先が不器用なの。働きで指先が荒れてるんだもの。私のピアノを弾く手とは比べものにならないわ。ねぇ、昔、いつも私の手をきれいだって言ってくれたでしょ?」
「黙ってるのか?」
哲弘は戒尺を拾い上げた。「この家では、星来の言うことが絶対だ」
戒尺が背中に落ちた。私は唇を噛みしめ、声を漏らさなかった。
星来が隣で少し鼻で笑った。「哲弘、そんなに強くしちゃダメよ。重症になったら料理してくれる人がいなくなっちゃうじゃない。まあ、星那は体が丈夫だから平気かしら?」
哲弘の手の力がさらに強まった。
私は床に広がったソースを見つめながら、ぼんやりと思い出した。
哲弘が私にソースの作り方を教えてくれた日、彼はこう言った。「焦らなくていいよ。ゆっくりで大丈夫。俺は待てるから」
しかし、今は冷酷な暴力だけが存在している。
やがて戒尺が止まり、哲弘は向きを変え、星来のドレスの汚れを拭いながら、まるで蜜のように柔らかい声で言った。
「もう怒るなよ。好きな和食を食べに行こう。彼女には片付けを任せとけ」
二人が出て行った後、私は這うようにして破片を拾った。指先が割れたガラスで切れて、血が滲んだ。
そのとき、星来が突然戻ってきて、私を見下ろしながら隣のガラスの破片を蹴った。
「星那、立場をわきまえなさい。あなたなんて、私がいない間、彼の暇つぶしに使われるおもちゃよ」
私は料理台に手をついて立ち上がった。背中の痛みでまっすぐに立てなかったが、必死に耐えながら片付けを終えた。
夜が更けていく。ポケットに手を入れると、胸がまだ少しざわついている。
夜半、私は哲弘の部屋のドアをノックして入った。
中では星来が彼の腕の中にいて、ワイングラスを揺らしながら笑っている。
「星那、お湯は38度にしてね。一度でも違うと眠れないの。失敗したら、哲弘が怒るでしょ?」
哲弘がうなずいた。「星来の言う通りにしろ」
私は浴室に入った。水の音が外の笑い声をかき消している。
鏡の中に映るのは、三年間ずっとものまねメイクを続けてきた自分。哲弘が優しく接してくれた日々を思い出し、胸が締めつけられた。
湯を張り終えたとき、哲弘が私の手首を掴んだ。
「今日は星来の体調が悪い。代わりにやってくれ。これが最後だ」
私はポケットからコンドームを取り出し、洗面台の上に置いた。「……わかった」
扉の外から星来の甘い声が響く。「哲弘、そんなに乱暴にしないでね。彼女にとって、長く私の代わりを務められるなんて幸運なことなんだから」
哲弘が私を壁に押しつけた。背中の傷がタイルに触れ、私は息が詰まった。
彼は耳元で低く囁いた。「おとなしくしろ。お前には、星来のようなわがままを言う権利はない」
私は目を閉じ、心の中でそれを繰り返した。
――これで、最後。
あと一回だけ。
この一回だけでいい。
この檻から、星来の身代わり役から、かつての救いで今や刃となる優しさから、私は逃げられるのだ。
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