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燃え尽きた誓い第1話

この話は約3331字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

婚約者である藤原和也は、融通の利かない杓子定規な男で、何よりも原則を重んじていた。

母の心臓発作が起きたあの日、彼は自ら車を運転して母を病院へ送ると言ってくれた。だが、道中は歩行者を優先し、車線変更も割り込みも一切せず、のろのろと病院へ向かった。

私がたった一言急かしただけで、彼は怒りに任せてハンドルを叩き、自分の信念を曲げるような真似をさせないでくれと喚き散らした。そして、私と母を車から降ろすと、そのまま走り去ってしまったのだ。

治療の最適なタイミングを逃した母が帰らぬ人となったその時、彼の秘書はSNSで新たな報告を投稿していた。

【親から結婚を急かされて大喧嘩しちゃった。勢いで、市役所に一番乗りで来てくれた人と結婚するって言ったら、なんと社長が時速百八十キロで車を飛ばして、十分で駆けつけてくれたの!免許取り消しになっちゃったみたいだから、結婚で報いるしかないよね!】

投稿された写真には、市街地での速度超過による反則金の通知画面が大きく写し出され、私の身の程知らずを嘲笑っているかのようだった。

私が夜通し帰らなかったことに気づき、ようやく彼から慰めの電話がかかってきた。

「雪菜、SNSを見たんだろ。お母さんの病気は医者が治せるが、琴音が間違った相手と結婚したら一生を棒に振ることになる。優秀な人材が道を踏み外すのを、黙って見ていられるわけがないだろう?

俺が気づいていないとでも思っているのか?お母さんが仮病を使って結婚を急かしていることくらい分かっている。後で琴音の親をきっちり説教して、間違った考えを正したら離婚する。それからお前と結婚すれば、お母さんも計画通りになって、病気なんて綺麗さっぱり治るはずだ」

私は火葬場の炉の中で燃え盛る炎を見つめていたが、その瞳からはすでに光が失われていた。

彼は知らない。私がもう二度と、彼を必要としないことを。

* * *

婚約者である藤原和也(ふじはら かずや)は、融通の利かない杓子定規な男で、何よりも原則を重んじていた。

母の心臓発作が起きたあの日、彼は自ら車を運転して母を病院へ送ると言ってくれた。だが、道中は歩行者を優先し、車線変更も割り込みも一切せず、のろのろと病院へ向かった。

私がたった一言急かしただけで、彼は怒りに任せてハンドルを叩き、自分の信念を曲げるような真似をさせないでくれと喚き散らした。そして、私と母を車から降ろすと、そのまま走り去ってしまったのだ。

治療の最適なタイミングを逃した母が帰らぬ人となったその時、彼の秘書はSNSで新たな報告を投稿していた。

【親から結婚を急かされて大喧嘩しちゃった。勢いで、市役所に一番乗りで来てくれた人と結婚するって言ったら、なんと社長が時速百八十キロで車を飛ばして、十分で駆けつけてくれたの!免許取り消しになっちゃったみたいだから、結婚で報いるしかないよね!】

投稿された写真には、市街地での速度超過による反則金の通知画面が大きく写し出され、私の身の程知らずを嘲笑っているかのようだった。

私が夜通し帰らなかったことに気づき、ようやく彼から慰めの電話がかかってきた。

「雪菜、SNSを見たんだろ。お母さんの病気は医者が治せるが、琴音が間違った相手と結婚したら一生を棒に振ることになる。優秀な人材が道を踏み外すのを、黙って見ていられるわけがないだろう?

俺が気づいていないとでも思っているのか?お母さんが仮病を使って結婚を急かしていることくらい分かっている。後で琴音の親をきっちり説教して、間違った考えを正したら離婚する。それからお前と結婚すれば、お母さんも計画通りになって、病気なんて綺麗さっぱり治るはずだ」

私は火葬場の炉の中で燃え盛る炎を見つめていたが、その瞳からはすでに光が失われていた。

彼は知らない。私がもう二度と、彼を必要としないことを。

火葬炉の中で揺らめく炎が、まるで私の心臓を焼き焦がしているかのようだった。

私は手を振り上げ、力任せに自分の頬を張り飛ばした。

もし私に免許があれば。もし和也を信じたりしなければ。母は死なずに済んだかもしれないのに!

電話の向こうで乾いた破裂音を聞いた和也は、私が癇癪を起こしてスマホを投げつけたのだと勘違いし、苛立たしげに言った。

「いい加減にしろ。琴音はお前が思い詰めるんじゃないかと心配して、わざわざ俺に電話をかけさせたんだぞ。お前たち、仲良くできないのか?」

仲良く、だと?

頬の熱い痛みが、私の意識をこの上なく鮮明に引き戻した。

一年前、和也は高校中退の藤原琴音(ふじはら ことね)を異例扱いで会社に採用した。私が少し疑問を呈しただけで、琴音は私を憎むようになった。

私が出張で八万円使ったのに八千円しか経費を落とさなかったり、私のプロジェクト企画書をわざと改ざんしてクライアントを激怒させ、私にその後始末をさせたりした。

そのたびに和也に訴えたが、彼は私が大げさだ、わざと難癖をつけているとしか思わなかった。琴音は真面目に仕事をしている、せいぜい善意が裏目に出ただけだ、と。

だが今日、琴音は嫌がらせのように、百枚もの結婚式の招待状の束を送りつけてきた。

新郎新婦の欄には、堂々と和也と琴音の名前が連名で記されており、それを見た母はショックのあまり心臓発作を起こしたのだ。

なのに和也は、どの口で私と琴音に仲良くしろなどと言えるのだろうか。

私は掠れた声で問い返した。

「私の母の命は、命じゃないの?」

電話の向こうは一瞬沈黙したが、和也は最後まで彼女を庇うことを選んだ。

「お母さんが仮病で結婚を迫ってきたのを、俺が承諾しただけでも十分顔を立ててやってるだろう。琴音が気を利かせて招待状の準備をしてくれたのに、ちょっとしたミスをいつまでもネチネチと責めるつもりか?名前を書き直せば済む話だろ」

私は自嘲気味に笑った。

「ええ、分かったわ。もう二度と彼女とは喧嘩しない」

琴音と和也を取り合い、何度も尊厳を踏みにじられる日々には、もううんざりだった。

彼は安堵の息を吐いた。

「ああ、物分かりが良くて何よりだ。早く帰ってこい。そのうち一緒に、お母さんの様子を見に行ってやるから」

機嫌を直せたと思ったのか、彼は電話を切った。

だが私はすぐさま、国際電話をかけた。

「もしもし。私、そちらに転職します」

電話の向こうで、人事担当者は驚きと喜びに声を弾ませた。

「本当ですか!雲川さん、我が社はいつでもあなたを歓迎いたします!」

大学を卒業した時、この海外の大手企業から内定をもらっていた。

だが和也が私の腰にすがりついて泣きながら、遠距離恋愛は耐えられないと懇願したため、私は歯を食いしばって残り、彼の起業を支える道を選んだのだ。

その後も大手企業から何度も誘いを受けたが、ずっと丁重に断り続けてきた。

今なら、何の未練もなく離れることができる。

ずっしりと重い骨壺を抱えて家に帰った頃には、すでに午前四時を回っていた。

家の中は煌々と明かりが点いており、眩しさに思わず手をかざして目を細めた。

和也はソファに深く沈み込み、スマホをいじりながら誰かとメッセージをやり取りしていた。持て余すほど長い脚が、窮屈そうに投げ出されている。

私の姿を認めても、その口元の緩みは収まらないまま、機嫌よさそうに声をかけてきた。

「遅かったね。お母さんの具合はどう?」

彼はよほど機嫌がいいのか、気前よくアプリで二千円を送金してきた。

ふと何かに気づいたのか、いつもの癖で「貸付金」とメモを添えた送金を取り消し、再度送り直してきた。

「今回は貸しじゃないよ。お母さんに何か栄養のあるものでも買ってあげて。俺からの気持ち」

胸がぎゅっと締め付けられ、ひどく苦いものがこみ上げてきた。

和也は昔から「金銭感覚はきっちり分けるべきだ」と言って、私との間でも一円単位で計算し、送金のたびに必ず「貸付金」という名目をつけていた。

交際して七年、気づけば私は彼に多額の借金を背負わされていることになっていた。

昔はそんな彼の几帳面さも面白いと思っていたけれど、今ならはっきりと分かる。彼は一度だって、私を家族として見てくれたことなどなかったのだ。

私は送金の受け取りを拒否して、静かに口を開いた。

「今日帰ってきたのはね、別れようって伝えるためよ」

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