燃える心第3話
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私はふっと唇を引き裂くように笑った。
「大丈夫、あなたたちを巻き込みたくない」
教室を出た途端、私は秋津とその取り巻きに無理やり、校庭の隅にある器具室へ押し込まれた。
そこに、あまりにも見慣れた顔があった。
綺星だ。
秋津は彼女の横に立ち、顎で私を指した。
「お前の家に恩があるから、威張り散らしてる姉ってのは、こいつだろ?」
「うん」
綺星は淡々と答えた。
「でも、あんまり彼女をいじめすぎないで。私、彼女みたいにはなりたくないから」
その姿勢は、ひどく強情で気高く見えた。前世で泣きながら秋津に別れないでと縋った彼女とは、まるで別人のようだった。
生まれ変わって、彼女にも分かった。秋津のような下衆は、相手にされないほど逆に執着するのだ。
案の定、彼女の冷淡な態度に、秋津はますます心をくすぐられたようだった。
綺星は深呼吸し、あたかも諌めるふりをして言った。
「それに、お姉ちゃんは何年もバイオリンを習ってきたの。手は一番大事なものだから」
「大事なもんほど、壊したときに面白えだろ?」
秋津は鼻で笑い、私を押さえつけている二人に手を振った。
「今日ここで、こいつの指を一本ずつへし折れ。二度とバイオリンなんか弾けないようにな」
その言葉に、綺星の目には抑えきれない喜色が溢れ出ていた。
彼らは強引に私を段違い平行棒のそばに押しつけ、床に転がっていた重たいダンベルを持ち上げた。
今まさに振り下ろされようとした瞬間、私は口を開いた。
「馬鹿ね」
「何だと?!」
私は微笑みを浮かべて、秋津を見据えた。
「もし私があなただったら、周防家の株式配分が決まる大事な時期に、学校でこんな愚かな騒ぎは起こさないけどね」
彼の瞳孔が一瞬にして収縮した。
私は心の中で静かにカウントした。
3、2、1……
器具室のドアが乱暴に蹴破られた。
だが、現れたのは私が手配した人ではなかった。
私は目を向け、愕然としてドア口に立っている数人の女子を見つめた。
先ほど教室で、勇気を振り絞って投げかけた一言が、もう彼女たちにできる精一杯のことだと思っていた。
しかし、そうではなかった。
響が深呼吸すると、隣の子の腕を掴み、震える手で古びたガラケーを掲げた。
その声は震えていたが、目は固い決意に満ちていた。
「警察に通報しました」
沈黙が数秒間流れた。
そして、秋津が堪えきれず笑い声を漏らした。
「お前……浅草響って言う名だろ?どうやら前のお仕置きが足りなかったみたいだな。正義の味方気取りか?
警察?お前、俺の身分知らねえのか?警察なんかが俺に手を出せると思うのか?」
その冷たい嘲笑に晒され、響の顔は血の気を失って真っ青になった。
だがその時、外からさらに威厳ある女の声が響いた。
「警察が無理でも、私ならどうかしら?」
深い藍色のシルクのワンピースをまとった女が、ハイヒールを鳴らしながら中へ入ってきた。
「秋津。家の大事な時期に余計な問題を起こすなって、私、言わなかった?」
彼女を見た瞬間、秋津の傲慢な態度は一気に消え失せた。
「……姉さん」
周防彩錦(すおう あかね)は腕を組み、冷たい表情で弟を見下ろした。
「彼女を放しなさい。家に帰るわよ」
秋津は歯を食いしばり、不満を押し殺すように言った。
「姉さん、だってこれはアイツが先に……」
「理由なんてどうでもいいの。物事を行うには、手段をわきまえるべきよ。そしてタイミングを見極めること。
今ここであなたを止めたけれど、将来は必ずしもそうとは限らないわ」
そうだ。彩錦は私が匿名の手紙で呼び寄せたのだ。
先月、周防家の大旦那様が亡くなったばかりだった。
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