灰になった恋第2話
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私は相変わらずグラスを受け取らなかった。
その場の空気が少し気まずくなり、数秒間、時が止まったようになった。
奏多は鼻で笑い、そのグラスを手に取った。
「胃が悪いだと?」
彼は私の耳元に顔を寄せ、低くしゃがれた声で言った。
「お前は俺に十年間付き添って、寝るのも、パシリも、レースの帯同も、ずっとうまくやってきたじゃないか。たかが一杯付き合えと言ってるだけなのに、何をもったいぶってるんだ?
ほら、凛……」
私の顎が彼に掴まれた。
彼は有無を言わさず私の口に酒を流し込み、冷ややかに口角を上げた。
「いい子にしてろ。知ってるだろ、俺は言うことを聞く女が好きなんだ」
祖母を連れて安全に逃げ出すまでは、ここで彼と完全に決裂するわけにはいかない。
私は目の奥が熱くなるのを感じながら、それ以上拒むのをやめ、食いしばっていた歯を緩めた。
強い酒が喉を通り、胃が刃物で掻き回されるように痛む。
私は口元を押さえて洗面所に駆け込んだ。ドアを閉める余裕もなく、洗面台の前で身をかがめ、内臓が千切れるほど激しく嘔吐した。
酒と胃酸が混ざり合い、むせ返って涙が止まらない。
私の無様な姿を見て、周囲からドッと笑いが起きた。
「さすが奏多さん、言うこと聞かせますねぇ」
奏多はタバコを指に挟み、椅子の背もたれに寄りかかって怠惰な表情を浮かべていた。
「あいつはな、昔からこうなんだ。
聞き分けがいいのが最大の長所だ。まあ、ガキの頃から俺の後ろをついて回ってたからな、多少は俺に依存してるんだろうよ。
だから時々強情になるのは、実は俺の気を引きたいだけなんだ」
彼がそう言い放つと、周りはまた冷やかしの声を上げた。
洗面所のタイルに膝をついたまま、胃はまだ痙攣していたが、耳だけが焼けるように熱かった。
かつて一度、酒の席で誰かが私に無理やり飲ませようとした時、彼はその場で怒りをぶつけた。「こいつは胃が悪いんだ、俺が飲む」と。
あれは私への愛情だと思っていた。
だが今、彼は私に無理やり酒を飲ませ、振り返って笑いながら「あいつはこういう奴だ、絶対に出て行かない」と言っている。
突然、携帯が震えた。私と祖母のビザが下りた知らせだった。
あと三日。
祖母を連れて、このすべてから永遠に立ち去る。
だが今はまだ、この茶番劇が終わるのを耐え忍ばなければならない。
三十分後、私は顔を洗い、彼らと一緒に温泉リゾートへ向かった。
……
リゾートの入り口では、チーム全体が紬を取り囲んでいた。
「奥さん、こっちです」
「奥さん、こんなに美人だなんて思いませんでしたよ。奏多さんは本当に幸せ者です!」
私は機材ケースを持って入り口に立ち尽くし、まるで透明人間だった。
誰かが私を一瞥し、ついでとばかりに濡れたタオルを数枚、私のケースに押し込んだ。
「奏多さんのアシスタントだろ、ぼーっとしてないで手際よくやれよ。これ、バックヤードに持ってって」
その時、紬も笑顔で振り返り、手に持っていた紙袋を私の胸に押し付けた。
「アシスタントのお姉さん、これ重くて。中まで運んでくれない?」
私は何も言わず、ただ荷物の山を抱え、背を向けてバックヤードへと歩き出した。
背後から男の声が悠々と響いた。
「それでいい。何かやりたくないことがあれば凛に言いつければいい、自分が疲れることなんてないんだぞ、わかったか?」
奏多だ。
私は足を少し止めたが、振り返らなかった。
彼は昔、こんな人じゃなかった。
あの年、彼は足を捻挫していたのに、私を背負ってホテルまで歩き続けた。何も持っていない自分についてくる私が苦労しすぎているからと。
彼は少しも痛くないと言った。ただ私が疲れるのが怖い、私が辛い思いをするのが怖いと。
あの頃の彼は、レースで転倒しようが、リタイアしようが、破産しようが、私が人前で誰かに見下されることだけは許さなかった。
今、私は名もなき雑用係のように、誰からもこき使われている。
指示通り、アロマとバスタオルを大浴場へ届けに行った。
鍵はかかっておらず、私はそっとドアを開けた。
熱気が顔に当たる。
荷物を置いてすぐに立ち去ろうとしたが、微かな水音と、耳を塞ぎたくなるような喘ぎ声が聞こえてきた。
紬が浴槽の縁に寄りかかり、濡れた髪が顔に張り付き、水面が激しく揺れている。
奏多は彼女の後ろに座り、うつむいて彼女の肩に口づけを落としていた。
「奏多さん……激しすぎ……誰かに聞かれちゃう……」
「聞かせればいい」
彼の声は低く濁っていた。
「俺たちは今日、婚約したんだ。
それに……お前が俺の女だって知られて、何が悪い?」
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