潮汐の瞳第3話
この話は約1387字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
食事会は順調に進み、悠斗もこれまで通りの優しい彼氏として振る舞っていた。しかし、やはり何かが違っていた。
悠斗は美羽の隣に座りながらも、注意力は常に花音に向けられていた。
花音の言葉には一つ一つ反応し、たとえ彼女からまともに見られなくても気にしない様子だった。
一方、悠斗は美羽には食べられない辛い料理を山ほど取ってくれた。美羽の胸に込み上げるのは、やりきれない悔しさだった。
夜、家に帰ってからも悠斗の興奮は冷めやらず、結婚式の話を続けた。ほとんど彼一人の話だった。
「悠斗、ちょっと疲れたから先に寝るね」
美羽は疲れを感じ、悠斗を残して寝室に入った。
しばらくして、悠斗は温かいミルクをを持ってベッドサイドに現れ、低い声で謝った。
「ごめん、美羽。昼間は僕が悪かった。ただ嬉しすぎて、眠れないならミルクでも飲んで」
美羽は目を閉じたまま無視した。悠斗の足音が遠ざかってから、ゆっくりと目を開ける。
ベッドサイドのミルクはまだ湯気を立てていた。これは3年間、二人の習慣だった。悠斗は毎晩寝る前に温かいミルクを作ってくれていた。
彼の気持ちと思い、ミルクが苦手な美羽も毎晩飲み干していた。
だが今夜はもう、自分を犠牲にする必要はないと感じた。
美羽はコップを手に取り、ミルクを洗面所で捨て、そしてベッドに戻り、再び目を閉じた。
しばらくして、悠斗がそっとベッドに入り、美羽をきつく抱きしめた。彼の呟きが聞こえる。
「たとえあなたが僕と結婚しなくても、少なくとも新郎の立場であなたが歩いてくる姿を見られるだけでいい」
「花音、会いたくてたまらない、美羽はあなたに似てるけど、やっぱりあなたじゃない。今日も髪を切ろうとしてた。そうしたらもっと似なくなっちゃう」
「あなたの妹を見た時まるで救われたように感じたんだ。わざと彼女がよく餌をやる野良猫に薬を仕込んで近づいた。完璧な代わりを見つけたと思った」
「抱きしめてるのが本当にあなただったら、毎晩美羽に睡眠薬を飲ませて、あなたの代わりをさせることなんてしなくて済むのに」
悠斗の熱い告白が続く中、美羽は全身が凍りつくような感覚に襲われた。
目をぎゅっと閉じていても、涙は止まらなかった。
「わざと近づいた」なんて残酷な真実だろう。最初から、彼女はただの代用品に過ぎなかった。
臨市大学には多くの野良猫がいて、美羽はよく餌をやっていた。
あの日、懐いていたキジトラ猫が突然泡を吹いて倒れた。
慌てて連れて行ったのが、悠斗の動物病院だった。多くの動物を保護している彼に一目惚れし、連絡先を交換した後、悠斗の方から積極的にアプローチしてきた。
両想いの運命的な出会いだと思っていたが、すべては計画的に仕組まれた罠だった。
下唇を噛みしめ、血の味がしても泣き声を堪えた。しかし体の震えは止まらない。
悠斗は無意識に美羽を強く抱きしめ、背中を優しく撫でた、これまで何度もそうしてきたように。
だが、もう次はない。代用品として結婚することなどできない。
翌朝、美羽は目が腫れているのを感じた。しかし、それでも学校からの海外留学の打診に返事を出すのに支障はなかった。
悠斗にプロポーズされる数日前、学長から留学の話を受けていた。当時は悠斗と離れたくないと思い、悩んだ末に断った。
だが今は迷いがない。自分を愛していない男のために人生を無駄にするわけにはいかない。
出発は半月後、ちょうど結婚式の当日だった。
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