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潮汐の瞳第1話

この話は約1909字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

清水美羽(しみずみう)には、優しく深い愛情を注ぐ彼氏がいた。

毎日花を贈り、髪を結ぶ手助けも、999回もしてくれた。

三年間一緒過ごし、美羽は一度も同じ髪飾りを付けたことがない。

加藤悠斗(かとうゆうと)のプロポーズを受け入れた夜、彼は嬉しさのあまり酒を飲みすぎ、酔っ払って美羽を抱きしめながら「愛してる」を繰り返した。

周りの祝福と羨望の眼差しの中、美羽は氷のように冷たい気持ちでいた。

彼女は悠斗の完全な告白を聞き逃さなかったからだ。

「愛してる、花音」

彼女の姉、清水花音(しみずかのん)の名前だった。

美羽は踵を返した。「加藤悠斗、もう君を必要としない。汚らわしい」

* * *

清水美羽(しみずみう)には、優しく深い愛情を注ぐ彼氏がいた。

毎日花を贈り、髪を結ぶ手助けも、999回もしてくれた。

三年間一緒過ごし、美羽は一度も同じ髪飾りを付けたことがない。

加藤悠斗(かとうゆうと)のプロポーズを受け入れた夜、彼は嬉しさのあまり酒を飲みすぎ、酔っ払って美羽を抱きしめながら「愛してる」を繰り返した。

周りの祝福と羨望の眼差しの中、美羽は氷のように冷たい気持ちでいた。

彼女は悠斗の完全な告白を聞き逃さなかったからだ。

「愛してる、花音」

彼女の姉、清水花音(しみずかのん)の名前だった。

……

美羽は無理に笑顔を作り、周りの祝福に応対した。幸い悠斗は酔い潰れていたため、彼女は早めにその場を離れるができた。

駐車場まで悠斗を支えながら歩く途中、彼は何度も美羽の髪を撫で、ふと痴態のように頭を垂れて髪の匂いを深く嗅ぎ、「いい香りだ、花音」と満足げに呟いた。

もともとふらふらと歩いていた美羽は驚いてよろめき、悠斗は倒してしまった。

荒い息を吐きながら、美羽は地面に倒れた男を茫然と見つめた。さっきまでの上機嫌とは打って変わって、悠斗は体を丸め、顔を覆ってすすり泣いていた。

起き上がる気配がないのを見て、美羽はその場に座り、赤くなった目で彼の涙を拭いながら、嗄れた声で尋ねた。

「悠斗、どうして泣いてるの?プロポーズ成功したじゃない?」

すると手が悠斗の温かい手に握り返された。彼は顔を寄せながら、唇で手のひらをそっとキスした。

「離れないで、花音。他の人と結婚しないで……僕、変わるから。あなたが好きなように変わるから」

美羽は手のひらに伝わる悠斗の唇の温もりと、絶え間ない涙を感じていた。

もう一方の手でさっと自分の涙を拭い、美羽はかすかな期待を込めて声を震わせた。

「それなら、どうして清水美羽と一緒にいるの?彼女のこと……愛してた?」

「花音に似てるからだ。それに、花音の妹だから、これで僕は花音の家族でいられる」

美羽の最後の希望も、悠斗に冷たく打ち砕かれた。脳裏を駆け巡るのは「花音の妹」という言葉ばかり。

この三年間、悠斗の目に映っていたのは、美羽という一人の女性だったのか、それとも姉の代わりに過ぎなかったのか。

一ヶ月前、彼女が結婚の話をした時、悠斗は「急がないで、二年待とう」と言っただけだった。

数日前、南アフリカにいる姉が突然電話をかけてきて、「一生を共にしたい人ができた」と告げ、近々帰国して両親に紹介する予定だと言った。

そしてその日から、悠斗はプロポーズの準備を始めたのだった。

彼女が待ち望んでいた結婚は、悠斗の悔しさを晴らす手段になってしまった。

涙が乾くのを待ち、美羽は手を引き、苦労して悠斗を助手席に座らせた。

家に帰り、ソファに座らせると、悠斗はそのまま寝入ってしまった。だが携帯が床に落ちた。

悠斗は美羽に全く警戒心を持っておらず、全てのアカウントのパスワード、銀行カードの暗証番号まで教えていた。だから彼女は悠斗を疑ったことなどなかった。

しかし、初めて悠斗の携帯を覗いた美羽は、隠しアルバムを見つけた。

悠斗から教わった全てのパスワードを試したが、全て失敗。

最後に姉の誕生日で、アルバムは開いた。

そこには花音の写真ばかり、笑っている顔、怒っている顔、ぼんやりしている顔……

そしてアルバムの説明欄には、悠斗が編集した一文が。「あなたの髪の香りを嗅ぎ、毎日結ってあげたい」

美羽は自分の乱れた長髪を見下ろし、崩れ落ちそうになった。

悠斗に出会う前、彼女はロングヘアの手入れが面倒で耳までのショートカットだった。一方、姉は腰まで届く長髪だった。

悠斗と付き合い始めた時、彼はこう言った。

「これからは僕があなたの髪を手入れして、結ってあげる。長く伸ばせ」

それから三年。この長髪は、ただ姉に似せるためだったのか。

以前の美羽なら、悠斗の着替えを手伝い、体を拭き、お吸い物を作ってベッドに運んだはずだ。

だが今、彼女は「花音」と呟く男を一瞥すると、黙って二階の寝室へと向かった。

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