満開の中、想いは無言に募る第3話
この話は約1612字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
秀年は眉をひそめ、手を振った。「芙由子、彼女にやれ。
君、堀田家に来たばかりだろ。養女としての振る舞いをするべきだ」
彼は私の赤く充血した目を見て、少し間を置いた。
「その代わりに、来月の旅行のときは、もう少し君に合わせるよ」
その瞬間、私は目の前が真っ暗になり、胸の奥が激しくうねった。まるで無数の蟻が心臓を食い荒らしているかのようだ。
私は激しく咳き込み、血がすぐに口の端から流れ落ちた。
秀年は慌てて前に出ようとしたが、一花に手首をつかまれた。
「秀年……怖い……」
彼は足を止め、それ以上は近づかなかった。「芙由子、渡したくないなら……」
「渡しますから!」
私はきっぱりと言い切ったが、秀年は一瞬言葉を失い、私の決断に不満そうだ。
秀年が一花をなだめる言葉も聞かず、私はポケットの中の赤い薬を取り出して飲み込み、そのまま背を向けて立ち去った。
それ以来、秀年が帰ってくる回数はどんどん減り、互いに目を合わせることも、言葉を交わすことも少なくなっていった。
このまま、二度と話す機会はないのではないかと思うほどだった。
出発の三日前、一花が荷物を整理しているとき、私の引き出しの中から彼女がなくした結婚指輪を見つけた。
「ちょっと!私が秀年を奪ったのが気に入らないのは分かるけど、今の彼の正妻は私よ。あなた、ただの堀田家の養女でしょ!
時間の長さで言えば、私と秀年は幼なじみだよ。あなたこそ後から来た人間じゃない?
ただ本の著作権を取っただけで、私と秀年の結婚指輪まで盗もうとするなんて!
ネズミのくせに、そんなに私と秀年の幸せが目障りなの?」
一花は矢継ぎ早にまくし立て、言葉の隙を一切与えなかった。私は何度か反論しようとしたが、喉に詰まって言葉が出なかった。
秀年の両親が来て、秀年もすぐ後に続くと、一花の涙が一気にあふれ出した。
「秀年に頼まれて君を堀田家に入れたのだぞ。好き勝手させるためじゃない!」
秀年の父親である堀田隆志(ほった たかし)の声は怒りを帯びている。
私は言い返そうとしたが、秀年が口を開いた。
「芙由子、一花に返してやれ。欲しいものがあるなら、俺が買ってやる」
彼らの視線が突き刺さり、手のひらにある結婚指輪がやけに熱く感じられた。
口を開こうとしたが、涙が二粒こぼれ落ちた。
ただ心臓が締めつけられるように痛い。
私は階段のそばへ歩み寄り、心臓を強く押さえながら、秀年の目を見つめ、指輪を一花の前に差し出した。
「ごめんなさい。返します。
堀田家からは、出て行きますから」
一花は、私が罪を認めるとは思っていなかったのか、しばらく呆然としてから指輪を受け取った。
私は階下へ向かおうと振り返ったが、秀年に手首を強くつかまれた。彼の声は震えている。
「芙由子、俺は……」
一花はすぐに駆け寄って私を抱こうとした。
「林さんに出て行ってほしいわけじゃないの。ただ指輪をなくして焦っていただけで……」
頭の中が騒がしくなり、私は無意識に手を振り払ったが、一花は突然床に倒れ込み、額に大きな青紫の痕ができた。
「芙由子!」
秀年の両親の罵声が耳元で炸裂した。
秀年は反射的に私を振りほどき、倒れている一花を支えに行った。
だがその拍子に、私を階段の方へ突き飛ばした。
私は足を踏み外し、そのまま階下へ転げ落ちた。
視界は暗くなり、足の間から温かい流れが次々と溢れ出してくるのを感じた。
最後に聞こえたのは、ほとんど絶望に近い切迫した「芙由子!」という叫びだった。そのまま私は意識を失った。
ようやく、周りが静かになった。
ぼんやりとした意識の中で、病室の外の会話がはっきりと聞こえてきた。
「堀田さん、林さんはもともと凝固障害があり、体力も非常に弱いです。このまま輸血しなければ、命が危険です」
医者は穏やかに諭したが、秀年の口調は固く、少しの揺らぎもなかった。
「一花の血は使えない。採血を多くすれば彼女の心臓に負担がかかる。俺は許さない。
一花以外で適合する血を探せ。誰でもいい、急げ!」
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)
第4話は公式アプリで
当サイトでの試し読みはここまでです。アプリをインストールし、下のアプリ用コードを入力すると、この作品の第4話からそのまま読み進められます。
R65131- 下のボタンから公式アプリをインストールします(無料)。
- アプリを開き、「コードを入力」にこのコードを入れると、この作品が本棚に入ります。
作品ページへ戻る 当サイトに掲載しているのは試し読みの章だけです。