深夜の救急現場に夫の不倫を目撃した話第3話
この話は約1559字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
「なんも持ってないクセに、よくも田和家に嫁ぐことができると思ったな!?
身の程をわきまえろ!」
周囲の囁きが耳に刺さり、穴があったら入りたい思いだった。無力感と恥ずかしさが、私を押し潰さんばかりに襲ってきた。
そんな絶望のどん底で、白シャツの青年が猛然と駆け寄り、私の前に立ちはだかった。
「父さん!惚れたのはこっちだ!告白したのも俺だ!
由希絵がいなかったら、俺は生きてなかった!彼女は俺の命の恩人で、一生愛する人だ!
なんで彼女をそんなふうに言うんだ!
俺は彼女が好きなんだ。父さんが何と言おうと、好きなんだ!
俺は彼女と結婚する!」
あの夏の日、午後の光の中、全世界に逆らってくれた青年。
彼はその瞬間、私の心に住み着いた。そして十年、そこに居続けた。
……
手の甲に走る鋭い痛みに、私は目を覚ました。机の上の結婚写真を見つめ、ある決意を胸に刻んだ。
好司……十年前のあなたのために……
どんなに痛くても、この結婚に最後のチャンスを与えよう。
あなたが私に真実を話してくれるなら。あの人と完全に縁を切ってくれるなら。
私は全ての苦しみと悔しさを飲み込もう。
――あなたがまだ私を愛しているなら。
どうやって家まで車を走らせたのか、覚えていない。
魂が抜けたようにドアを開け、家に入った。
見慣れた室内。漂うのは今朝買ったばかりのバラの香り。
十年間、毎年の結婚記念日には、私が朝一番に花を注文し、彼が目覚める瞬間に届くようにしていた。
今朝も変わらず、好司は花束を抱え、幸せそうな表情で私を抱きしめて尋ねた。
「一生大事にしてくれるよな?
その気持ち、ずっと変わらないよな?」
その時、私は彼をしっかりと抱きしめ、約束した。
「そうよ、私を信じて〜」
たったその一言だった。多くを語る必要はないと思った。
十年連れ添った私たちには、言葉を超えた通じ合いがあると信じていたから。
今でも理解できない。今朝まであんなに確かで穏やかな幸せが、たった十数時間でなぜ完全に崩れ去ったのか。
家で十周年を祝うのを待っているはずだった彼は、今、他の女性との密会が原因で病院にいる。
そして痛みのあまり混乱していた記憶が、次第に鮮明になる――
今、ようやく思い出した――好司がしっかり抱きしめ、半昏睡状態でも名前を呼んでいたあの女性は、彼が以前話していた会社の新人だったのだ。
あれだけ長く会社に勤めていながら、彼が職場の噂話を私に話すことなんて、ほとんどなかった。
しかし一年ほど前、彼は仕事から帰るときに一輪の花束を持って、満面の笑みで家に入ってきた。
私を見た瞬間、彼の表情が一瞬硬くなった。
「今日は早いんだね?」
確かに、その時間は通常、私は病院で残業している。
答えずに、私は微笑んだ。
「きれいな花ね」
すると好司の表情に、かすかな緊張が走った。
「会社の新人がくれたんだ……彼女が担当した案件を手伝ってあげたら、お礼にって……」
「好司、大丈夫よ、何も疑ってないから」
私が言えば言うほど、彼は余計に焦ったように言葉を重ねた。
「本当に何もないんだ。それに彼女を手伝ったのも、十年前の君に少し似てるからで……」
元々は大したことではない一件が、この言葉を境に変な色合いを帯びてしまった。
私はそれ以上何も言わず、問いただすこともしなかった。
しかし大谷雪穂(おおたに ゆきほ)という名のその女性は、一年の間に私たちの生活の隅々に入り込んできた。
彼女からの花、差し入れ、ときには彼女の上着さえ。
好司が出張中に電話をかけたら、雪穂が出たこともあった。
「好司さんは今取り込み中です。私がご用件をお伝えしましょうか?」
私は静かに電話を切り、胸のざわめきを全て飲み込んだ。
自分に言い聞かせた――好司を信じよう、十年間の絆を信じよう。
だから私は一度も問いたださず、調べず、彼の携帯を見ることさえしなかった。
けれど今……
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