涙色の優しい別れ第2話
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柊木優璃はどうやって家に帰ったのかも覚えていなかった。
家はがらんとしていて、錦戸恭佑は一向に戻ってこない。
彼は約束したはずだったのに――どんなに遊んでも必ず帰ると。
時計の針がゆっくりと進み、深夜になっても恭佑の姿は見えなかった。
優璃は一晩中恭佑に電話をかけ続けたが、ずっと呼び出し音だけが響く。
夜中3時半、ようやく繋がった。
「どこにいる?なんで帰らないの?」
「ごめん、恭佑はシャワー中だけど......」
電話を取ったのは月島澪だった。
シャワーの音が流れ、その意味は明白だった。
優璃が沈黙すると、澪は軽蔑したように笑い、電話を切った。
彼女は目を見開いたまま携帯を見つめ、ふとSNSを開いたら。
あるトレンドワードが目に飛び込んだ。
『京市の御曹司が猛烈に女を口説き!』と
コメント欄に、月島澪のファンが投稿した写真や動画が溢れていた。
投稿の断片から、優璃は事実をつなぎ合わせた。
恭佑が全国中のデパートの大型スクリーンを買い占めた。
一日中、澪の美しさの映像を流していた。
そして京市の上空には千台のドローンが飛び、色とりどりの煙で模様を描きながら、澪への愛を示していた。
さらに恭佑は自分のSNSアカウントで公開謝罪した。
「澪、ごめんなさい」というハッシュタグも同時にトレンド入りした。
一方、優璃が押さえ込んだはずの『謎の大物が飛行機を止めて恋を追う』というトピックが、勢いよく上位に躍り出した。
「ヤバイ、ロマンティック!」
「まさかリアルなラブコメを見られるとは!」
「大物と澪ちゃんの仲、超キュートじゃん?こんなカップル、最高」
「なんで私にもこんなラッキーなことが起こらないんだろう?」
......
ネットユーザーは恭佑の澪への愛情に羨望していた。
澪のクールな発言はさらに議論を沸かせた。
「邪魔しないでください。許さないです。三年間の思いはもう捨てたんです」
この返事で皆は彼女を称えた。
「澪ちゃん、すごすぎじゃん?セレブが謝罪してきたのに、断っちゃうなんて、本物のヒロイン!」
「男目当ての女優ども、見習え!これこそが女優の正しい生き方だろ!」
「今からは月島クイーンと呼ぶべき!冷徹で決断力抜群、男に頼らない。悪くしたらすぐにサヨナラ、傷つけたら後悔するぞって!」
......
優璃はこれらのコメントを読み、自嘲の笑みを浮かべた。
一夜明けてやっと恭佑がプレゼントボックスを抱えて帰宅した。
彼の顔には、申し訳なさが浮かんでいた。
「優璃、このネックレス、誕生日のプレゼントだよ」
「ごめん、昨日は忙しくて、忘れちゃった」
恭佑の手が宙に浮いたまま、優璃はプレゼントを受け取らなかった。
スマホを恭佑に突きつけた。トレンド上位に踊る刺激的なニュースが並んでいた。
「外の女が両家に影響を与えないって約束したでしょ?」
恭佑は画面をちらりと見て顔を曇らせた。
「ただのトレンドワードじゃないか。しばらくすると消えるから、気にするな」
「いつからこんなにこだわり始めたんだ?」
優璃は苦しそうに笑った。
「そう、私がこだわりを張って、月島澪と別れてって言ったら?」
彼女の充血した目から涙が零れそうになった。
恭佑はしばらく沈黙し、視線をそらしてから、嗄れた声で呟いた。
「試さなかったわけじゃない」
「でも、前回彼女が別れを切り出した時は、俺は死にかけたんだ」
そう言って恭佑はプレゼントを投げつけ、背を向けた。
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