流産したら元夫がライブ配信で追ってきたけど、今さら遅い第3話
この話は約1720字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
正直なところ、今どき歩いて出勤する人なんてほとんどいない。
信号が青に変わった瞬間、ちょうど角を曲がってきた電動スクーターの運転手も、まさか横断歩道に人がいるとは思わなかったのだろう。
次の瞬間――ドンッ。
まともにぶつかり、私は地面に倒れ込んだ。
手足と額にそれぞれ擦り傷ができ、じんじんと痛みが広がる。
病院で手当てを受けると、看護師が額に薬を塗り、パッドを貼りながら言った。
「しばらくはなるべく水に触れないようにしてくださいね。お風呂も控えて、薬は忘れずに塗ってください」
診察を終えた私はタクシーを拾い、会社へ向かった。
助手席を見ると、運転手のスマホが二台セットされている。一台はナビ、もう一台は――美優のライブ配信。
画面のコメント欄には、リスナーたちの心配する言葉が流れている。
「ああ〜、みんな心配してくれてありがとう♡美優にゃん、無事だよ〜!おにぃがすぐ来てくれたから、病院に行かなくても大丈夫だったの〜。
ないよ〜!まだおにぃに告白してないもん〜!みんな、変なこと言わないでよ、おにぃが横で見てるんだからね!そうそう、おにぃってめっちゃ優しいんだよ〜!」
私はスマホを取り出し、亮介から届いたメッセージを確認する。
「今日のプロジェクト会議、お前いなかったらしいな?どこ行ってた?早く会社に来い。
ちょっと一人で歩いてもらっただけだろ?何キレてるんだ?」
……本当に、都合のいい人間だ。
――夜。
薬を塗り終え、ソファでテレビを見ていると、玄関の電子ロックが解除される音がした。
「やっぱりな。最近妙におとなしいと思ったら、こうやって待ち伏せしてたのか」
亮介の声は、どこか嘲るような響きを帯びていた。
テレビの音がうるさかったのか、彼はすぐにリモコンを探そうとするが、見つからなかったらしく、直接コンセントを引っこ抜いた。
「遥、お前、頭おかしいのか?このプロジェクト、準備に半月かけたんだぞ。それが今日の会議で進まなかったせいで、どれだけ会社に損失が出ると思ってる?」
彼の声には、苛立ちと嫌悪が滲んでいた。
私はゆっくり顔を上げ、彼と視線を交わす。
――その瞬間、彼の表情が固まった。
亮介の視線は、私の額に貼られた絆創膏へと向かい、その後、むき出しになった腕や足の傷へと移動する。
眉を寄せながら、低い声で聞いた。
「……その傷、どうした?」
「別に。ただ、会社へ行く途中でバイクとぶつかっただけ」
何気なく答えると、亮介の目が僅かに揺れる。
彼は少し気まずそうに近づき、手を伸ばして傷を確認しようとした。
「なんで俺に電話しなかった?」
私は手を引き、淡々と笑った。
「これくらい、大したことないでしょ?それより、社員のほうが大事なんじゃない?」
――電話したところで、何になる?
きっと、開口一番で怒鳴られ、文句を浴びせられるだけ。
彼が本当に、私のことを気にかけて電話を取ったことなんて、一度でもあっただろうか?
――昔も呼んでも来なかった人が、今さら何を言うの?
亮介は私の言葉に苛立ち、冷笑を浮かべた。
「お前、いちいち嫌味っぽい言い方するのやめたら?俺が悪かったよ。でもな、いい大人が歩いててバイクにぶつかるか?」
……呆れたような言い方だった。
何を言っても、どう伝えても、彼にはまともに受け取る気がない。
言葉を返すのも馬鹿らしくなって、私は立ち上がる。
足を引きずるように歩く私を見て、亮介は小さく息を吐き、私の腕を取った。
「今夜、一緒に寝るぞ。お前の様子を見ててやる」
――彼が、日付が変わる前に寝室に来るなんて、どれくらいぶりだろう。
それもそのはず。
美優は「リスナーに叩かれるのがつらい」と泣きつき、亮介に「一緒に配信を見てほしい」とせがんだからだ。
毎晩、亮介は仕事そっちのけで、書斎にこもり、美優の配信を観る。
たまに通話でつながり、視聴者の前で甘い掛け合いをする。
――一度、喧嘩になった。
私は、彼に抗議した。
「ただの仕事だろ。お前はいつも大げさなんだよ」
最終的に、亮介は離婚をチラつかせて私を黙らせた。
――私は、何も言えなくなった。
そんな彼が、今さら「一緒に寝る」と言い出しても。
私が、まだ以前と同じように従うと思う?
私は静かに息を整え、口を開いた。
「亮介、離婚しましょう」
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