気づいたとき、その船はもう遠くに第1話
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錦戸裕蔵とエッチしたあと、七海春妃はようやくこの言葉の意味を理解した。
――「年を取るほど力強くなる」というのは、本当だった。
陽気でスポーツ好きな男が好みだった彼女だが、急に八歳年上の裕蔵に夢中になってしまった。
しかし、ある日、彼と友人との会話を耳にしてしまう――
「裕蔵、遥さんの『身替わり』にした子、もうすぐ二十四歳だろ?また捨てるか?」
その瞬間、春妃は自分がただ裕蔵の亡き元彼女の身替わりでしかないことに気づいた。
だから、夢を追うために去る決心をした。
でも、「気にしない」と言っていた裕蔵は、予想以上に狂ったように反応した……
* * *
錦戸裕蔵(にしきど ゆうぞう)とエッチしたあと、七海春妃(ななうみ はるき)はようやくこの言葉の意味を理解した。
――「年を取るほど力強くなる」というのは、本当だった。
裕蔵は年上だけど、体力は驚くほどあった。
一晩で七回なんて当たり前。
コンドームも、箱ごと使い切る勢いだった。
春妃は、自分より八歳も年上のこの男に、すっかり夢中になってしまった。
年上だからこそ、やり方も大胆だった。
欲望に駆られれば、裕蔵の社長室から春妃の通う大学まで、あらゆる場所で、あらゆる体位で、二人は貪り合った。
ある日、春妃がオンラインで指導教官に課題の進捗を報告している最中でも、裕蔵の手はスカートの中に忍び込んできた。
「進みをしてるんだけど!何してるの!」
「声、出すなよ。こういうシチュエーションはまだ試してないだろ?人前でって、もっと興奮するかもよ。やってみないか?」
……
年上は優しいなんて、誰が言ったんだろう。
この男、欲望が異様に強いた。
そのあと、春妃は全身が痛くて、まともに動けなかった。
目を覚ますと、裕蔵の姿はすでになかった。
スマホには、彼からのメッセージが届いていた。
【夜恋に来た】
春妃はシャワーを浴び、タクシーに乗って「夜恋」というバーへ向かった。
個室のドアに手をかけた瞬間、中から裕蔵の友人たちの声が聞こえてきた。
「裕蔵、遥(はるか)さんの『身替わり』にしたの子、もうすぐ二十四歳だろ?また捨てるのか?」
手がノブの上で止まった。
裕蔵の、あの落ち着いた声が続く。
「うん、五日後だ」
友人たちは一斉に笑った。
「やっぱりな。あの子、めちゃくちゃ惚れてるのに、まさか年齢縛りとはな!」
「本当にな。今まで何人と付き合った?みんな二十四歳になったら振られたじゃん。泣きながら自殺未遂しても、全然動揺しないんだもんな」
「しょうがないよ。裕蔵ってさ、生まれつき専一な人だから。あの時、遥さんが二十四歳で死んでから、遥さんに似た子しか選ばなくなった。
二十四歳になったら必ず別れる。誰も二十四歳のままではいられないけど、二十四歳の女の子は、いつでもいるからな……」
個室の外で、春妃の顔からすっと血の気が引いていった。
どうやって家に戻ったのか、まるで覚えていない。
震える手でスマホを取り出し、あちこちに連絡して、ようやく当時のことを知った。
梅澤遥(うめざわ はるか)。
裕蔵の初恋。
大学時代に付き合っていたが、二十四歳のときに亡くなった。
それからというもの、裕蔵は狂ったように、遥に似た女の子を探し続けた。
どれだけ似ていようと、必ず二十四歳の誕生日を迎えると別れる。
もう八年も――。
春妃は、五人目の「身替わり」だった。
気づけば、涙で視界がぼやけていた。
裕蔵と出会ったばかりの頃を思い出す。
八歳も年上――
そんな年齢差に、最初はためらいもあった。
けれど、裕蔵は迷う彼女の心に、強引に入り込んできた。
夜中、アイスクリームが食べたいとSNSで呟けば、彼は街中のアイスクリームを買い占めて、届けてくれた。
クリスマスの花火を見逃して落ち込んでいた彼女に、誕生日にはディズニーランドを貸し切り、彼女一人のために花火を打ち上げてくれた。
まだ卒業もしていない、若い女の子だった春妃には、そんな大げさな愛情はあまりに眩しくて、気づけば心ごと持っていかれていた。
だけど――
そんなに優しかった裕蔵が、実、彼女の中に、別の誰かのことを探していただけだとは。
涙がぽろぽろと零れていた春妃は、スマホを手に取ると、コーチに電話をかけた。
「コーチ……よく考えました。やっぱり、オーストラリアに行ってみたいです」
春妃は、かつて競泳選手だった。
八歳で泳ぎ始め、十四歳で全国チャンピオンになり、「天から授かった運命の星」だとまで言われた。
しかし、十六歳のときの事故で負傷した。
体は回復したものの、心の傷は癒えず、競技に戻れなかった。
それで、体育大学に進学し、体育学の道を選んだ。
最近、昔のコーチから声がかかった。
「オーストラリアに、君のようなタイプを専門に指導するトップコーチがいるから、挑戦してみないか」と。
春妃はずっと迷っていた。
怖かったし、何より、裕蔵のそばを離れたくなかった。
でも今なら、もう何も残っていない……
電話の向こうで、春妃の言葉を聞いたコーチは、喜びを爆発させた。
「よかった!確かに今の年齢じゃ少し遅いけど、春妃には天性の才能がある。長距離向きのタイプだし、まだ十分トップを狙える!
ただ、ちょっと急ぐぞ。特定活動ビザを手配するから、五日後には出発だ!」
春妃は、ふっと息を呑んだ。
五日後――
自分の二十四歳の誕生日だった。
これは、自分への誕生日プレゼントにしよう。
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