毒家族を捨てた専業主婦、最高の幸せを掴む第2話
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拓海は痛ましいものを見るような目で私を見つめ、ただ黙って私の手を強く握り返した。
退院後、体を壊した私と小さな未熟児の生活が始まった。
拓海は相変わらず会社に泊まり込みで、育児はすべて私の肩にのしかかった。
何度かベビーシッターを雇ってみたものの、目を離した隙に子供を危険な目に遭わせるような外ればかりで、心から信頼できる人はいなかった。
この小さな命を守れるのは私しかいない。
そう覚悟を決めた私は、復職の道を完全に断ち切り、専業主婦として自分のすべてを翔太に捧げた。
その血を吐くような努力が報われたのは、翔太が初めて言葉を発した日だった。
小さな唇を動かして、一生懸命に紡いでくれた「ママ」という二文字。
あの時の胸が震えるような感動と、溢れ出した熱い涙を、私は一生忘れない。
この子のためなら、どんな苦労も耐えられると本気で思っていた。
……それなのに。
あんなにも愛おしく呼んでくれていた「ママ」という特別な称号を。
今、私が命を懸けて産んだその子は、全く別の女に向けて無邪気に放っている。
その事実が、私の心を冷たく、そして確実に殺していった。
頬を伝って落ちる涙が、私の視界をぐしゃぐしゃに滲ませた。
ぼやけた視界の先、エントランスでは、拓海が少し慌てた様子で「子供の言うことだから」と澄香に謝りながら、翔太を軽く睨みつけていた。
しかし澄香は全く気にする素振りも見せず、むしろ愛おしそうにしゃがみ込み、翔太を抱き上げてその鼻先をツンとつついた。
誰が見ても、完璧に幸せそうな家族三人の光景だった。
三階の窓から、髪を刈り上げられ、顔中に油性ペンで落書きをされたピエロのような私が彼らを見下ろしていることなど、誰も気づいていない。
その瞬間。
私の中で渦巻いていた怒りや絶望が、嘘のようにスッと引いていくのを感じた。
ああ、そうか。
私はもう、この結婚も、この家族も……手放すべき時が来たんだ。
胸の奥にこびりついていた重たい泥のようなものが、静かに溶けていくような、不思議な安堵感があった。
私はふらつく足でスマホを取りに行き、離婚弁護士をしている親友の白石結衣(しらいし ゆい)に電話をかけた。
「結衣……お願いがあるの。離婚協議書を作って。私、離婚するわ」
死んだように淡々とした私の声とは対照的に、電話越しの結衣は悲鳴のような声を上げた。
「はあ!?離婚!?あんた、何の悪い冗談よ!」
「冗談じゃないわ。拓海と離婚する。……家も、車も、お金も……それに、翔太の親権も、何もいらない」
その言葉を聞いた瞬間、結衣の声はさらに跳ね上がり、歯がゆさと怒りで爆発した。
「ちょっと待ちなさいよ!あんたが離婚すること自体は別に反対しないわ。でもね、どうして全部向こうに渡して、身一つで追い出されなきゃならないのよ!
そもそも、あいつが起業するって騒いだ時、あんたが自分のために貯めていた結婚資金を全部差し出したんでしょ!?
結婚式だってまともに挙げず、安いチェーンのファミレスで、おもちゃみたいなベールを被って私たちとお祝いしただけじゃない!
一度目の起業に失敗した時だってそう!あいつ、わざとあんたを妊娠させて、正社員だったあんたの信用枠を使って銀行から多額の借金をさせたわよね!?
私があなたの職場へ様子を見に行った時、休憩室で水道水と塩むすび一個だけの昼食を食べてた姿……私、今でも悔しくて忘れられないんだけど!
今になってようやくあいつが成功して、あんたも専業主婦になれたっていうのに。何もかも捨てて出て行くなんて、あんた本気で言ってるの!?」
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