母よ、来世で愛を第3話
この話は約1889字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
肺が焼けつくような痛みに襲われた瞬間、巨大な力が母さんを僕から引き剥がした。
祖母の嗄れて震える声が響いた。「正気か!あいつのために、また一生を棒に振るつもりか!一回で十分だろ......!」
母さんは祖母の腕の中で崩れ落ち、壊れたような嗚咽を漏らした。「お母さん!お母さん!もう耐えられない!こいつだって、あのレイプ犯みたいに悪い奴なの!?」
祖母は母さんを強く抱きしめながらも、その目は僕の方を見ていた。
一瞬、祖母が僕のわずかに開いた目を見たと思った。
だが、祖母はただ静かに呟いた。「もう寝なさい」
母さんの嗚咽は次第に遠ざかっていった。
僕は横になったまま、大きく息を吸い込んだ。そして布団を被り、寝返りを打った。
どれほどの時間が経っただろうか。夜明け前、祖母が大きな椀を持って部屋に入ってきた。
中には、湯気の立つ熱々の鶏スープが入っていた。
朝っぱらから鶏スープなんて、おかしい。でも祖母は、僕のベッドサイドにそれを置くと、顔の皺と同じくらい静かな声で言った。「飲みなさい」
僕には分かった。
なんて焦っているのだろう。
あと数日待てば、僕は誰にも知られずに死ねたはずなのに。
今こうしたら、僕が死んだ後、彼女たちはどれだけ面倒なことになるだろうか。
だが、僕は何も言わなかった。手を伸ばし、重たい椀を掴んだ。椀の縁が熱くて焼けるようだ。
僕は顔を上げ、その鶏スープを、ごくり、ごくりと、喉の奥へと一気に流し込んだ。
スープの異様な苦味が、舌先から心臓の奥まで広がっていく。
椀が空になった。
僕はそれをテーブルに戻し、再び布団を被り、静かに最期の時を待った。
祖母は空になった椀を手に、僕を数秒見つめた後、何も言わずに部屋を出て行った。
薬の効き目は早かった。まず、腹の中で無数の手が引き裂くような激痛が走り、次に、全身を震わせるほどの底冷えが襲ってきた。歯がガチガチと鳴る。視界がぼやけ、聴覚も遠のいていく。
祖母が部屋に出入りする足音、誰かが電話をしているような声。そしてやがて、耳障りな救急車のサイレン、混乱した人々の声、眩しいライトの光。
病院の真っ白な光の下、胃洗浄のチューブが乱暴に喉に挿入され、僕は引き裂かれるように嘔吐した。涙と鼻水で顔中がぐちゃぐちゃだ。若い医師が僕と、顔面蒼白で立つ祖母を見て、眉をひそめた。
「一体どうしたんです?このスープの中には......」医師は声を潜め、疑念を込めて尋ねた。
僕は最後の力を振り絞り、医師の白衣の袖を掴んだ。声はほとんど聞こえないほど嗄れていた。「僕が......自分で薬を飲んだ、んです......」
医師は目を見開いて固まり、複雑な表情で僕を見た。
僕は手を離し、ベッドにぐったりと倒れ込み、天井を見つめた。
死ににくい、というのも呪いなのだろう。死を願うことさえ、贅沢になってしまった。
祖母はベッドの脇に立ち、背中を丸めていた。白髪が、痩せた頬の上で揺れていた。
僕が目を閉じる直前、祖母の乾いた目尻から、一筋の濁った涙が滑り落ち、冷たい床に落ちるのを感じた。
退院した後の家は、まるで冷たい墓場だった。壁は相変わらず真っ白で、家具も整然と並んでいる。だが、そこにいる全員から、生気が吸い取られたようだった。
僕は前例のないほど従順になった。黙って飯を食い、黙って学校に行き、黙って家事をこなした。
自分自身を、音のない影のようにして、可能な限り空間を占めないように生きた。
僕は、あの馬鹿な弟にまで説教を始めた。
「いいかい、お母さんを怒らせちゃだめだぞ」僕は彼の口元の飯粒を拭ってやりながら、珍しく穏やかな声で言った。
弟はきょとんとした顔で僕を見つめ、その瞳には、少しだけ依存の色が見えた。
そして、生まれたばかりの妹。母さんは、僕を泥棒を見るかのように鋭く警戒していた。
だが、僕はこっそりと町で一番ご利益があるとされる小さな神社へ行った。
ようやく貯めたわずかなお金で、小さな赤い「お守り」を買った。
母さんが昼寝をし、台所でぼんやりしている隙を狙って。僕は幽霊のように忍び込み、その小さなお守りを、妹の産着の隅にそっと忍ばせた。
どうか、妹が健やかに育ちますように。
そして、僕は決めた。ここを出て行こう。
ああ、認める。僕は臆病者だ。死ねないのなら、消えるしかない。
もう、別れの挨拶なんて必要ない。
夏の午後、太陽が眩しく照りつけ、目がくらむほどだ。僕は貯水池沿いの埃っぽい道を、目的もなく歩いていた。
その時、静寂を切り裂くように、甲高い、音程が外れた叫び声が響いた。
「兄ちゃーん!」
僕は弾かれたように振り返った。弟が、足を踏み外し、貯水池へ落ちていくのが見えた。
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