母よ、来世で愛を第2話
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「死ぬ」という考えが浮かんでから、足取りが妙に軽くなった。どうすれば迷惑をかけずに、痕跡も残さずに死ねるか、真剣にシミュレーションしてた。
しかし、計画は途中で頓挫した。パトロール中のお巡りさんに補導されて、家に連れ戻された。
ドアを開けたのは母さんだった。
ドアが閉まり、僕は俯いたまま、母さんの目を見ないようにしていた。聞こえてきたのは、彼女の氷のような声だ。「どうして外でさっさと死ななかったのよ?」
いつもの癖で言い返そうとしたが、言葉は喉の奥で詰まった。
でも、人間ってのは、結局卑しいよな。母さんの背中を見ながら、僕はモジモジしながら尋ねたんだ。
「もし、もしも、僕が本当に......死んだら、母さんはどうなるの?」少しでも、悲しんでくれるかな?
「はっ、できるもんならとっくに死んでるわよ。私は嬉しくてたまらなくなるわ」
母さんは振り返りもせず、弟と妹の部屋に入ってドアを閉めた。
僕はリビングでしばらく立ち尽くした後、ボロボロの顔を拭って笑った。よし。今年の誕生日プレゼントは、母さんが絶対気に入ってくれる。
一緒にゴミ拾いをしてた幼馴染の聡(さとし)は、あちこちで施しを受けて育った孤児だった。
彼は頭が切れて、道端の些細なことからうまく金を稼ぐ方法を見つけるのが得意だった。
だから、放課後、僕は彼にアイスキャンディーをおごった。
路肩に座り込んで、声を潜めて聞いたんだ。「なあ、どうやったら、人を痕跡残さずに殺せると思う?」
聡は怪訝な目で僕を一瞥し、食べかけのアイスを僕に押し付けた。「お前、俺から離れろ。犯罪に関わることなんて絶対やらないからな」
僕は驚いて、二本のアイスキャンディーを掲げた。「は?何言ってんだ?
えーっと、じゃあ、どうすれば『事故死』に見えるか、教えてくれよ。
うん......できれば、あんまり苦しくないやつ。そいつ、痛いの嫌いそうだからさ」
聡は息を呑み、立ち上がって逃げようとした。
僕はアイスキャンディーを気にせず、彼を捕まえて離さなかった。
「知らん!僕のアイス食ったんだから、聡は僕のモンだろ!
どうにかして、方法を教えろ!」
聡は抵抗できず、地面に座り込んで泣き言を言った。「おい、アニキ。頼むからやめろ!お前にはちゃんと親がいるだろ!なんでそんなこと考えるんだよ!
確かに、よく殴られているけどさ、飯だって食わせてもらっているだろ。見てみろよ、お前の腕、俺より逞しいぞ!」
僕の喉の奥に息が詰まるような感覚があった。
本当は言ってやりたかった。親の「悪」は、決定的なものではない。だからこそ、僕はこんなにも苦しいのだと。
特に、自分の出自を知ってしまった今、あれほど抱くはずの恨みの根拠すら失われたんだ。もう生きていけない。
だが、それを口にすれば母さんに迷惑がかかる。だから、僕はわざと荒い声で言い返した。「黙ってろ!手伝うか、手伝わないか、言え!」
聡は悲鳴を上げた。「アニキ!お前、お母さんを殺そうとしているのか!?どうやって手伝えばいいんだよ!」
僕は一瞬固まり、地面に座り込んでいる聡を不思議そうに見下ろした。
いつ、僕が母さんを殺すと言った?
だが、反論する間もなく、遠くから聞き覚えのある、甲高い泣き声が響いた。
「うわあああ!意地悪な兄ちゃんが、ママを殺そうとしている!」
僕の頭はフリーズした。ゆっくりと声のする方へ顔を向けた。
僕の、あの馬鹿な弟だ。
泣きながら、片方の靴も履かずに走っていくところだった。
その夜、家の中では殴打の音が夜遅くまで響き続けた。
母さんは、僕を仇敵でも見るかのように、目を真っ赤にして箒を振り下ろしてきた。
でも、僕は見たんだ。母さんの目尻から、涙がこぼれているのを。
以前もその涙を見たことはあったが、当時は「ワニの涙だ」と決めつけ、強情に母さんの腹に頭突きを食らわせ、「大きくなったら絶対殺してやる」と叫んだものだ。
だが今は、僕はただ体を丸めて、冷たい床に動かずにいた。
ついに、母さんは疲れたのか、ほうきをガシャンと床に落とした。しかし、僕の方を見ることなく、よろめきながら自室に戻っていった。
しばらくして、僕はゆっくりと体を起こそうとした。その時、母さんの部屋から、必死に口を塞いでいるにも関わらず漏れ聞こえてくる、崩壊した嗚咽が聞こえてきた。
その泣き声は僕の胸をナイフで抉るように響いた。
顔の痛みよりも、体が重くのしかかって、僕は再び床に崩れ落ちた。片手を顔に当ていると、手の甲が湿った。
涙ではない。血と埃が混じったものだ。僕の体と同じように、汚れている。
「あなたの母さんもね、十九歳の時、同じように床で泣いていたんだよ」
僕はハッと顔を上げた。祖母が、いつの間にか玄関に立っていた。その濁った瞳は、僕を見ているようで、過去の、ある瞬間に向けられているようだった。
「あの夜、あの子の服はボロボロでな......体中、青あざだらけだった。
声は出さなかった。ただ唇を噛みしめて、血を流してた」
僕の呼吸が止まった。
「その後、あの子はあなたを中絶しようとした。だが、体が弱いせいで受け付けなかった。
そしてあなたが生まれた後、私は一度、あなたを捨てた。だが、夜が明けて、警察が赤ん坊を抱いてやってきたんだ。
『遺棄は犯罪だ。懲役になるぞ。定期的に様子を見に来る』ってね」
僕の人生は、あまりにも滑稽で、笑えるほど不条理だ。誰も僕の誕生を望んでないのに、しぶとく十二年間も生き延びてしまった。
祖母はいつものように僕の傷の手当てをしてくれた。
祖母は顔をやつれさせ、まるで昔話をするように呟いた。「お母さんを責めるな。あの子は辛いんだ。あの子は、何もかもを許せずにいる」
僕は頭を垂れて、笑った。「おばあちゃん、もう責めていないよ」
僕が母さんを憎まなくなったとしても、母さんは僕を憎み、死を望んでいる。
彼女が僕の顔に枕を押し当てた時、僕は実はまだ起きていた。僕は、彼女が震える手で枕を押し付けているのを感じていた。
僕は抵抗せず、目を閉じたまま静かに死を待った。
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