死後3年目、ようやく私の冤罪は晴らされた第1話
この話は約2525字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
3年前、私・篠原澪(しのはら みお)は東都中央大学で最年少の考古学者として活躍していた。
新たな遺跡の調査に向かった私は、そこで思いもよらない事実を知る。夫・篠原晴臣(しのはら はるおみ)が大切に想い続けていた女性である吉川紗奈(よしかわ さな)が、文化財密売組織と手を組み、遺跡からの出土品を海外へ持ち出そうとしていたのだ。
計画を私に知られた紗奈は、私を20回以上も刺したうえ、証拠を隠すために遺跡を爆破した。
さらに紗奈は晴臣に、私こそが文化財密売組織と手を組み、彼女を殺そうとした、という嘘を吹き込む。そして、彼女自身は命からがら逃げ延びた被害者で、私はすでに逃亡したのだと言った。
それを聞いた晴臣は、歪んだ正義感を振りかざし、私の身に覚えのない罪を上層部へ報告した。
その結果、私は国際指名手配犯として追われる身となり、「国を裏切った犯罪者」という汚名を着せられることになった。
そして3年後――再び発掘調査が開始されたあの遺跡から、白骨化した私の遺体が発見されたのだった。
* * *
「遺跡の再調査をめぐり、現在、全国で大きな注目が集まっています。
3年前、東都中央大学の最年少考古学者である篠原澪(しのはら みお)さんが、文化財密売組織と結託し、貴重な出土品を海外へ持ち出そうとしたうえ、事件の証人を殺害しようとしたという報道が、世間を大きく騒がせました。
さらにその後、この澪さんの夫である篠原晴臣(しのはら はるおみ)教授が自ら上層部へ彼女の罪を告発したことが、彼女の罪を裏付ける決定的な証言として扱われました。
かつては考古学界の期待の星として称賛されていた彼女でしたが、一転して世間から激しい非難を浴び、『国を裏切った犯罪者』という烙印を押されることになったのです。
そして3年が経った現在……この遺跡の再調査には、澪さんの夫だった篠原教授と、事件の証人が自ら調査隊を率いて参加する予定だそうです」
「……」
私は宙に浮かびながら、記者が淡々と読み上げる、私が3年前に犯したとされる罪を聞いていた。
そのニュースはライブ配信されていて、数百万人という人が見ていた。コメント欄には「国を裏切った犯罪者」という言葉が次々と流れていく。その一つひとつが、まるで刃物のように私の心をえぐった。
中には、文化財を不法組織に渡したのだから、きっと大金を受け取って海外へ逃げたに違いない。そうでなければ、3年もの間、捕まらないのはおかしい、と勝手な憶測をする人までいた。
私は今すぐにでも、彼らに向かって叫びたかった。私は文化財密売組織とも繋がっていない。「国を裏切った犯罪者」なんかじゃない、と。
でも、私にはもう何もできない。
私は3年前、すでに死んでいるのだから。
遺跡が爆破されたあの日、すべての真実は瓦礫と土の中に埋もれた。
そして私の魂もまた、遺跡の中に3年間閉じ込められていたのだが、遺跡の再調査が始まったことで、今日ようやく、私は外へ出ることができたのだった。
私は当初、今回の再調査は遺跡に残された文化財を探すためだけではなく、きっと私の遺骨を見つけるためでもあるのだと思っていた。
しかし違った。『年前、吉川紗奈(よしかわ さな)は私を殺しただけではなく、すべての罪を私になすりつけ、私を犯人に仕立て上げていたのだ。それどころか、10年間連れ添った夫までもが、彼女の嘘を信じ、私を告発していたなんて……
紗奈の言葉が人々に私への疑念を抱かせ、晴臣の証言が決定打となったのだろう。それによって私は、世間から永遠に許されない罪人としての烙印を押されていたのだ。
この3年間、どうやら私は濡れ衣を着せられ続けていたようだ。
「篠原教授、かつて爆破されてしまったこの遺跡を、なぜ今改めて調査することにしたんですか?」
紗奈を連れた晴臣が姿を現すと、すぐさま記者団が取り囲んだ。
「3年前は発掘技術が不十分で、遺跡の崩壊した部分を調査できませんでした。しかし、今は技術も向上し、遺跡に埋もれた残りの遺物と、例の文化財密売組織の手がかりを掴める可能性があると思ったんです」
晴臣は以前と変わらず、澱みのない冷静さで質問を返している。
「奥様である篠原澪さんは、3年間、篠原教授に一度も連絡を取っていないのでしょうか?」
私のことが出た瞬間、晴臣の表情が険しいものになった。まるで、私の名前自体が忌まわしいドブネズミだと言わんばかりに。
「彼女は国際指名手配犯です。きっと人目のつかない所に隠れてるのでしょうから、僕に連絡などできるはずがありませんよ。
それに……」
晴臣は一呼吸置き、その冷徹な瞳で真っ直ぐにカメラのレンズを覗き込んだ。
「彼女が少しでも僕に連絡をとってきたら、その時は迷うことなく警察に通報します。
この国を裏切った犯罪者を許してはいけませんから」
コメント欄には、まるで晴臣を崇めるかのような言葉、と私の裏切りを非難する言葉だけが溢れる。
私はただ呆然と晴臣の姿を見つめていた。なぜだか、彼がまるで知らない人のように思える。
告発したのが晴臣だということは、記者の読み上げる記事を聞いていたから知ってはいた。それでも、彼の口から直接語られる現実を目の当たりにした今、心臓が握り潰されるような痛みに襲われた。
晴臣と働いて6年間、結婚してからは4年。
10年も一緒にいたのに、どうやら私は彼からの信頼を得られていなかったようだ。
すると、紗奈が晴臣の横に立ち、記者に向けて穏やかに付け加えた。「篠原先輩の人柄は私たちが一番理解しています。彼は決して、犯人を匿うような人ではありません。
では、作業がありますので。失礼いたしますね」
晴臣は紗奈の顔を見て頷き、二人は息の合った様子で手袋をはめると、作業服を身につけ、遺跡へと向かって歩き出す。
その光景を見て、私は少し唖然としてしまった。
あの頃、私と晴臣は一番お互いを理解し合える最高の相棒だったのに。
私は今やただの彷徨える魂。そして晴臣の隣には、私を死に追いやった張本人が平然と立っている。
遺跡の奥へ進む晴臣たちのあとを追い、私も遺跡に入った瞬間、アシスタントの野口直也(のぐち なおや)が声を上げた。
「篠原教授、吉川さん!急いでこちらに!人骨を発見しました!」
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)