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死んでも、母に恩知らずと罵られた第1話

この話は約2404字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

僕が死んだその日は、母である神原雅子(かんばら まさこ)の誕生日だ。

雅子は珍しく、僕のために大きなケーキを残してくれていた。

僕はよだれを垂らしそうになりながら、そのケーキの前を漂って匂いを嗅いだ。

だが次の瞬間、そのケーキは弟である神原悠斗(かんばら はると)の前に差し出された。

「悠斗、早く食べなさい。春森(はるもり)って、やっぱり運が悪いわね!」

そう言い終えると、雅子は横で撮影している父である神原直彦(かんばら なおひこ)の方を見た。

「ちゃんと撮れた?あの恩知らずが帰ってきたら、しっかり見せてあげなきゃ。またえこひいきだなんて言わせないからね!

しかも、よくも家出なんか真似したね!

やっぱり、甘やかしちゃダメよ!本当に根性があるなら、一生帰ってこなければいいんだから!」

雅子は冷笑しながら机を叩いて、僕を罵った。

だが、ケーキを抱える悠斗の顔が恐怖で引きつっていることには気づかなかった。

そして、彼の少し乱れた髪や、袖口に点々と残る血痕にも気づかなかった。

その血は、僕のものだ。

* * *

僕が死んだその日は、母である神原雅子(かんばら まさこ)の誕生日だ。

雅子は珍しく、僕のために大きなケーキを残してくれていた。

僕はよだれを垂らしそうになりながら、そのケーキの前を漂って匂いを嗅いだ。

だが次の瞬間、そのケーキは弟である神原悠斗(かんばら はると)の前に差し出された。

「悠斗、早く食べなさい。春森(はるもり)って、やっぱり運が悪いわね!」

そう言い終えると、雅子は横で撮影している父である神原直彦(かんばら なおひこ)の方を見た。

「ちゃんと撮れた?あの恩知らずが帰ってきたら、しっかり見せてあげなきゃ。またえこひいきだなんて言わせないからね!

しかも、よくも家出なんか真似したね!

やっぱり、甘やかしちゃダメよ!本当に根性があるなら、一生帰ってこなければいいんだから!」

雅子は冷笑しながら机を叩いて、僕を罵った。

だが、ケーキを抱える悠斗の顔が恐怖で引きつっていることには気づかなかった。

そして、彼の少し乱れた髪や、袖口に点々と残る血痕にも気づかなかった。

その血は、僕のものだ。

……

雅子が団地の遊び場で、僕が家に帰らないことを怒鳴っていたとき、野次馬の年寄りが大勢集まっていた。

その中の一人の婆様が、孫娘を抱きながら不機嫌そうに口を開いた。

「春森はあんなに聞き分けがいいのに、どうせまたあんたがえこひいきしたんでしょ。子どもをなだめもしないで、ここで怒鳴るなんて、母親としてどうなのさ」

雅子は目をつり上げ、振り向きざまに怒鳴り返した。

「このくそババア、何をでたらめ言ってんだい!」

婆様の孫娘は雅子に驚かされ、口をへの字にして泣き出しそうになった。

婆様は慌ててその子の耳をふさぎ、眉をひそめて負けじと反論した。

「どこがでたらめよ!

この前スーパーに行ったとき、あんたは悠斗を抱っこしてたのに、春森にはたくさんのものを持たせたじゃない!

春森は汗だくでへとへとだったよ。これでえこひいきしてないって言えるの?」

婆様が言い終わると、周りはざわっと騒ぎ出した。

「そう言われてみれば、私も見たことある気がするな」

「その子、痩せちゃってて、肌も黒ずんでるし、元気が全然なさそうだよね。それに、歩くのもふらふらしてて……」

僕はブランコにしゃがみ込み、うつむいて自分の爪をいじっていた。

死ぬ直前にもがいたせいで、僕の爪は一枚一枚めくれ上がっていた。

今は幽霊となっても、この傷はそのままで、血まみれになっている。

ただ、もう痛みはなかった。

雅子は面子を何よりも大事にする人間だ。だからその話を聞くと、彼女の顔は真っ赤になり、声はますます甲高くなった。

「ちょっと物を持たせたくらいで何だっての?家の手伝いしたら死ぬのかい!

袋の中身は全部お菓子だよ。あいつが食べたがってたものなんだから、自分で持って何が悪い!」

違う。

僕はむしゃくしゃして、ブランコを強く蹴った。

あの日の買い物袋は本当に重くて、僕の指が紫色になるほど締め付けられた。

中に入っていたのは、悠斗の好きなお菓子と、雅子の好きなコーラと、直彦の吸うタバコばかりだった。

あの日、僕はよろめきながら雅子の後ろを歩き、額の汗が目に流れ込んだ。そのせいで、目がひりひりと痛んでいた。

雅子に抱っこされていた悠斗は、ソフトクリームを掲げて、顔じゅうベタベタにしながら、楽しそうに食べていた。

そして振り返り、満面の笑みで言った。

「お兄ちゃん、食べる?」

僕は欲しそうに唇を舐めた。

すると雅子はすぐに悠斗の顔を前に向けた。

「相手にしなくていい。自業自得でしょ。テストで赤点取ったくせに、口答えなんかするからだよ」

家に帰ると、両親と悠斗はソファに座ってアニメを見ていた。

僕はバルコニーに閉じ込められて、反省としてテストをやり直していた。

空腹のせいで、僕の腹がきりきりと痛んだ。

リビングでは、雅子が悠斗にご飯を食べさせ、あんなにも優しく笑っている。

その笑顔は、僕には一度も向けられたことがない。

突然、ある考えが頭をよぎった。

僕は血まみれの爪から手を離すと、顔を上げて、雅子を見た。

雅子は他人と激しく言い争っている。その整った目の奥には、消えることのない炎が燃えているようだ。

もしママが、僕が死んだことを知ったら、後悔するだろうか。

僕のために泣いてくれるだろうか。

たった一度でいいから、悠斗を抱っこするみたいに、僕を抱いてくれるだろうか。

ブランコを降りると、僕は雅子のそばへ漂い、手を伸ばして触れようとした。

次の瞬間、雅子は勢いよく手を振り払った。

もちろん、それは僕を振り払ったわけじゃない。

他人と口論するときの、ただの癖の動作だった。

「それは私の息子よ。どう躾けようが私の勝手でしょ!

外で野垂れ死にしたいなら、勝手に死ねばいい!その方がせいせいするわ!」

僕は自分の透けた指をしばらく見つめ、やがて静かに手を引っ込めた。

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