死んだ後、偏愛の両親は後悔した第1話
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物心ついた頃から、俺の世界は不平等でできていた。両親は弟を懐に抱き、俺だけを田舎へ置き去りにした。
ようやく彼らの元へ引き取られても、両親は弟の機嫌ばかりを優先し、俺を邪険に扱った。
「兄さんには躾がなっていない」と弟は嘲笑う。奴は他人に自分を殴らせ、それを俺の暴力だと訴えた。両親は盲目的に、愛する弟の虚言だけを信じた。
そうして俺は、あの「全寮制学校」へと送られた。
両親の黙認と、弟の教唆。教師と呼ばれた男たちは、俺に非人道的な「教育」を施し続けた。
ついに、彼らの願いは叶ったのだ。
俺は、立派に「更生」された。
――そうして、死んだ。
* * *
物心ついた頃から、俺の世界は不平等そのものだった。両親は弟を連れて都市へ出て、俺だけを田舎へ置き去りにした。
ようやく彼らの元へ引き取られても、両親は弟の機嫌ばかりを優先し、俺を邪険に扱った。
「兄さんには躾がなっていない」と弟は嘲笑う。奴は他人に暴行を受けさせ、それを俺の暴力だと訴えた。両親は盲目的に、愛する弟の虚言だけを信じた。
そうして俺は、あの「全寮制学校」へと送られた。
両親の黙認と、弟の教唆。教師と称する男たちは、俺に非人道的な「教育」を施し続けた。
ついに、彼らの願いは叶ったのだ。
俺は、立派に「更生」された。
――そうして、死んだ。
……
俺の「亡骸」がこの街で、最も人の目につかぬ場所、深山へ打ち捨てられる――その瞬間を、俺はただ見ていた。
肉体は滅んだというのに、不思議と意識だけは鮮明だった。
死後、三日目の朝を迎えていた。
寄る辺なく彷徨ううち、吸い寄せられるように、俺は早坂家の前に佇んでいた。
ちょうど、あいつらが帰宅したところだったらしい。
家族揃って早坂朔也(はやさか さくや)を海へ連れ出し、誕生日を祝ってきたのだ。――俺一人を残したままだ。
クルーズ船から望んだ絶景がいかに素晴らしかったか、彼らは楽しげに語り合っている。俺が生きている間、ついぞ目にすることのなかった光景だ。
俺は黙ってその傍らに立ち、姉の早坂由莉(はやさか ゆり)が漏らす不満を聞いていた。
「ねえ、郁也まだ帰ってないの?お腹ペコペコなんだけど。家に着いたらすぐご飯が食べられると思ったのに」
母の早坂瑞世(はやさか みずよ)が眉根を寄せ、俺の名、早坂郁也(はやさか いくや)を呼ぶ。当然、返事はない。
「また留守なの?学校なんて二日前に休みになったはずじゃない。本当にあの子の性格、誰に似たのかしら。うちはみんなきちんとしてるのに、一人だけ田舎育ちの異物が混じっているわ」
「どうせまた、あのゴロツキ共とたむろっているんだろうさ」
父の早坂哲夫(はやさか てつお)がソファに深く身を沈め、吐き捨てるように言った。
「この前、由莉に『迎えに来て』って電話をかけてきたじゃない?由莉が行かなかったから拗ねてるのよ、きっと」
瑞世は土産物を乱雑に扱いながら、苛立ちを隠そうともしない。
「あの子には、私たち十分に尽くしてきたはずよね?わざわざ田舎から引き取ってやったというのに。だいたい、朔也はまだあんなに幼いのよ?実の兄なら可愛がるのが道理でしょう。
朔也があんなに我慢してあげてるのに、あろうことか不良仲間を引き連れて朔也に怪我させたわ。それで自分で転んだなんて、よくもそんな白々しい嘘をつくわね。
――あんな子、やっぱり産むんじゃなかった」
その言葉に、全身が粟立った。俺は、じっと瑞世を見つめる。
由莉が取り繕う声がした。
「ま、まあまあ。郁也が帰ってきたら、ちゃんと言い聞かせればいいじゃない。それでもダメなら、また全寮制の学校に放り込むとか」
瑞世の怒りは収まらない。憎々しげに言葉を吐き出す。
「全寮制に入れて、矯正されるならいいけど。あんな捻じ曲がった性格じゃ、外に連れ歩くのも恥ずかしいわ」
瑞世の顔に張り付いた、俺への深い失望と嫌悪――それを見据えながら、俺は目を伏せた。脳裏によぎるのは、まだ田舎に預けられていた頃の記憶だ。
あの日、俺は重い病に伏せっていた。町の小さな病院ですら匙を投げるほどの重篤な状態だった。
両親の仕事の邪魔をしたくなくて、俺はずっと耐えていた。電話一本かけなかった。
やがてどこからか話を聞きつけたのか、「もう少しの辛抱だ、すぐに街へ連れて行って大きな病院に入れてやる」という連絡が来た。
俺は一縷の望みに縋り、ひたすら待った。
雪が降り積もっても、二人は現れなかった。
あれで命を繋げたのは、奇跡としか言いようがない。
街へ引き取られてから、真実を知った。俺を迎えに来る手はずを整えていた矢先、朔也が「雪が見たい」と駄々をこねたらしい。あいつらは愛しい末っ子に根負けし、行き先を北国へと変えたのだ。
雪遊びに興じて、楽しく帰宅して、田舎で死にかけているもう一人の息子が必死に待っていたことなど、欠片も思い出さずに……
どうでもいいなら、なぜ俺を産んだ?
……
やがて夕食の時間になった。テーブルには彼らが持ち帰った海の幸が並び、食欲をそそる芳香が漂う。
瑞世は甲斐甲斐しく朔也のために海老の殻を剥いてやり、哲夫までもが相好を崩して味を尋ねている。
由莉が何度も時計に目をやり、不機嫌そうに口を開いた。
「郁也、また門限破りね、本当に躾がなってないわ。朔也はこんなことしないのに」
瑞世が眉を吊り上げ、語気を荒らげる。
「まったく、いつもそうよ。こっちに来たら分別をつけなさいって、あれほど言ったのに。聞く耳持たないで、田舎の悪癖まで持ち込んでいるんだから」
由莉が深く、わざとらしいほど大きなため息をついた。
「もっと早くから引き取ってれば、こんなふうにならなかったかもしれないのにね」
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