死の三日前、私はついに家族が求める完璧な女になれた第2話
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翌朝、激しい痛みに襲われながら目を覚ました。癌細胞が燃え盛る炎のように体を蝕んでいたが、鎮痛剤のおかげで表面上は平静を保てていた。
無理やり体を起こす。今日やるべきことが山ほどあるからだ。
階段を降りると、リビングから萌花の笑い声が聞こえてきた。彼女は美優の膝の上に座り、二人で絵本を読んでいた。
「美優ママ、このお姫様すっごくきれい!」
「そうね、萌花みたいにきれいよ」
美優は優しく彼女の額にキスした。
私に気づいた萌花は、ちらっと一瞥をくれただけで、また絵本に目を戻した。まるで私は通りすがりの他人みたいだった。
「おはよう、萌花」
私は声をかけながらそっと近づいた。
「おはよう」
彼女はそっけなく答え、美優の手を引いた。
「美優ママ、お庭でちょうちょ見ようよ!」
「ちょっと待って、萌花」
美優は私の顔を見て、わざとらしく心配そうに言った。
「君のママ、何か話したいことあるかもよ」
「聞きたくない」
萌花は口を尖らせた。
「ママ、いつもお仕事ばっかで遊んでくれないもん」
胸が裂けるような痛みが走った。たしかに、ここ数年、会社のことで手一杯で娘と過ごす時間なんてほとんどなかった。その間、美優はいつも萌花のそばにいてくれた。
「いいのよ、二人で行ってらっしゃい」
私は無理に笑みを浮かべた。
手をつないで庭に向かっていく二人の背中を見送りながら、私は壁に手をついてようやく立っていた。身体の痛みだけじゃない。心まで軋んでいた。
ダイニングでは蒼汰が経済ニュースを見ていた。私が入ってきたのに気づくと、彼はチラリとこちらを見ただけだった。
「顔色悪いな」眉をひそめた彼が言う。「無理するなよ」
「大丈夫よ」私は椅子に腰を下ろしながら答えた。「あなたと話したいことがあるの」
「何だよ」彼はiPadをテーブルに置き、不機嫌そうに顔を向けた。
「私たちの婚前契約のこと」私は用意していた書類を取り出した。「内容を変更したいの」
蒼汰は書類を受け取り、目を通すと眉をひそめた。
「紗季……君、財産分与の権利を放棄するって?」
「そうよ」私は穏やかにうなずいた。
「もし私に……何かあったときは、すべての財産をあなたに譲りたい。両親が残した信託基金も含めて。
それと、私の美術品コレクションも美優に譲るつもり」私は続けて伝えた。
「は?おい、あのモネの本物までも?君のおばあさんの形見だろ!」
「美優は芸術が好きだし、あれを管理するには彼女の方が向いてるわ」
私は静かに微笑んだ。
「結婚祝いの前倒しだと思って」
その場の空気が一瞬で凍りついた。
蒼汰は私を鋭い目で見つめた。
「紗季……君、一体何を考えてるんだよ」
「もう疲れただけ」私は淡々と答えた。「全部、手放したくなったの」
「気づいてたのか……」彼の顔色が変わった。
「ホテルの防犯カメラ、クレジットカードの明細、それに萌花が美優ママって呼んだこと」
私は自嘲気味に笑った。
「蒼汰、私が何も知らないと思ってたの?」
彼は黙り込んだ。
「責めてなんてないわ」私は続けた。
「私が悪いの。会社のことでいつもあなたと衝突して、強く当たってばかりだった。美優は優しくて、あなたの言うことにも逆らわないものね。あなたには、彼女の方が合ってるわ」
「紗季……!」
「午後、会社に行って、正式に持ち株を美優に譲るって発表するつもり」
私は立ち上がって言った。「彼女を取締役にするわ」
「正気かよ!?それ、400億円の株だぞ!」
「正気よ」
私は窓の外を見つめる。そこには、庭で笑い合う美優と萌花の姿があった。
「私は、あなたたちが幸せになることを願ってるだけ」
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