桜花散りて春暮るる第2話
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浩也の瞳孔が収縮し、感情の波に胸が激しく上下した。
「どこだ? すぐに住所を教えろ」
温が背後から呼び止めるが、彼は聞こえていないかのように携帯を握りしめ、大股で外へと向かった。
私の魂は無意識に、彼の傍に漂って付いていった。
車のスピードは速く、彼は唇を結び、ハンドルを握る手は震えが止まらない。
浩也、私に会いたい?
でも残念だけど、あの人は私じゃない。
だって三年前、私はもう人気のない路地裏で死んでしまった。遺骨がどこに捨てられたのか私自身さえわからないのだから。
浩也はすぐに現場に着いた。車を路肩に適当に停めると、信号を待たずに道路を横断し、クラクションの嵐を巻き起こした。
花屋の前で、彼は静かに女の背中を見つめた。
白いワンピース、肩まで伸びた黒髪。
遠目には、体型も後ろ姿も私にそっくりだった。
ふと、その人が振り向き、優しい横顔に微笑みを浮かべた。
浩也が息を呑み、驚愕した表情を浮かべた。
「遥、やっと見つけた!」
二、三歩で彼女の所まで辿り着き、女の体を掴んで振り向かせた。
怒りに満ちた瞳は、見知らぬ顔を見た瞬間、空虚なものへと変わった。
「すみません、お知り合いですか?」声まで違う。
浩也の表情が硬直し、喉が詰まったような声で言った。
「すみません。人違いでした」
「はるか、どうした?」
男の声が聞こえ、浩也の呼吸が止まった。
振り向いた浩也は息を呑んだ。「はるかって言った?」
思いがけない出会いだった。
「圭、なぜお前がここに?」
私も呆然とした。まさかこんな時に会えるなんて。今来た男は宗方圭(むなかた けい)、私の幼馴染だ。
圭は浩也を無視し、手に持っていたコーヒーを女に手渡し、優しく微笑んだ。
「好きなやつだよ。甘さMAXで」
「牛乳は入ってないわよね?」女が彼の腕を取って尋ねた。
「入ってない。君は牛乳アレルギーでしょ、覚えてるよ」
浩也の目には信じられないという色が浮かんだ。
なぜなら、それは私の好みと全く同じだったから。
私も牛乳アレルギーで、甘いものが好きで、コーヒーには砂糖をダブルで入れる。
浩也は女の手を強く掴み、歯ぎしりしながら言った。「お前は一体誰だ?」
「狂ったのか? 彼女は俺の恋人、神谷春花(かみや はるか)だ」
圭は浩也を押しのけた。それでも、浩也は「はるか」がどの字で書いているかと食い下がった。
答えを得た後、彼は俯いた。
春花が最後に店内で花を買う際にユーストマを選ぶのを見て、彼はまた長い間呆然としていた。
昔、私が一番好きだった花もユーストマだった。
彼はよく私を笑った。赤いバラが好きじゃない人なんているのかって。
私は言った。激しい感情より、誠実で変わらない愛の方がいいって。
電話が鳴り、相手は開口一番謝罪した。
「社長、申し訳ございません。人違いでした。
あの女性が桜庭遥にあまりにも似ていたもので」
この言葉は彼の心に響いた。
私も不思議でならなかった。
容貌こそ違うが、雰囲気や癖、そして横顔まで、春花と私は瓜二つだった。
「神谷春花を調べろ。あらゆる情報を知りたい」
探していた人を見つけられず、浩也の目には殺気が宿り、声には怒りが滲んだ。
電話を切ると、彼は拳で傍の木を殴りつけた。
白い包帯がまた鮮血で赤く染まった。
「遥、お前はどこにいる?
俺にあわせる顔がないと思ってるのか?
神谷春花とお前の関係を突き止めたら、絶対に見つけて追い詰める」
憎悪が彼の瞳を赤く染めた。
私は手を伸ばして彼を慰めようとしたが、空を切るだけだった。
伝えたかった。私はあなたを裏切っていないと。
でも今の私は、ただの魂魄に過ぎない。何もできない。
彼がとある口座に金を振り込むのを見て、私は初めて知った。三年前から彼が私を探すために私立探偵を雇っていたことを。
それも三年間、ずっと。
いつでも、どこでも、私の情報さえあれば、彼は全てを放り出して駆けつけた。
だが、何度も失望を味わった。
浩也はバーに向かい、温が着いた時には既に泥酔していた。
彼女は目に涙を溜めて怒り、意識のない男を引っ張り起こして詰め寄った。
「なぜあなたを捨てた女のことを忘れられないの?
彼女はあなたが必要な時に、あなたのお金を持って他の男と逃げたのよ。そんな薄情な人、こんなに執着する価値なんてないわ」
温は顔を涙でぐちゃぐちゃにして泣いた。
「ずっとあなたの傍にいたのは私なのに。どうして私を見てくれないの。私はあなたのために全てを捧げたのよ。私に申し訳ないと思わないの?」
彼女の涙声が浩也の心を打ち、罪悪感が湧き上がった。
「すまない。俺は真相を知らなきゃいけない。そうじゃないと諦められない。
君に悪いと思ってる、温。でも必ず君と結婚する。それは変わらない。
待っててくれ。もうすぐ真相がわかるから……」
彼は温を抱きしめ、顔を彼女の首筋に埋めた。
「いつか必ず、彼女のことを忘れる。
信じてくれ!」
その言葉を口にした時、浩也の目に宿った葛藤を、私は捉えた。
心が痛くて息ができないほどだったが、私はもう死んでいることを理解している。
たとえ彼がいつか真相を知ったとしても、何年か経てば私のことも忘れてしまうのだろう。
私たちの間には別れの言葉すらなく、もう生と死の境を隔ててしまった。
しばらくして、温は彼を支えて立ち上がった。「家に帰るわ」
私はこうして二人が遠ざかるのを見ていた。一定の距離を置きたいが、魂が謎の力で強く引き寄せられる。
私は浩也の傍を離れられない。
深夜、温は彼の腕の中で眠っていたが、彼は全く眠っていなかった。
短い着信音が鳴り響くと、彼は音もなくベッドを降りた。
春花の詳細な資料が、彼の携帯に送られてきていた。
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