桜は散り、かつての愛は灰となった第3話
この話は約1996字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
私は目隠しをされ、車に押し込まれた。
車はずっと走り続けた。あまりに長くて方向感覚がわからなくなった。
再び目を開けると、私は薄暗い部屋の中にいた。
鼻を突く消毒液の匂いと、目に刺さる冷たい光、錆びついた手術器具がある。
そして、粗末な手術台が置かれている。
「横になれ」
私は手術台に押し上げられ、背中から全身にかけて冷たい感覚が広がった。
医師は中年の男で、マスクをしており、目にはまったく感情がなかった。
痩せこけた私の体を見て、彼は眉をひそめた。
「小娘よ、麻酔は一回500円だ。使うか?」
500円ね。
私は一銭も持っていなかった。
しかも返済用の残りの500円は、直接城士の口座に振り込まれることになっていた。
それが彼らのルールだ。腎臓を売る人が後悔しないよう、金は必ず家族に渡さなければならない。
私は首を振った。
「いいえ、結構です」
医師は一瞥して黙った。
メスが皮膚を切る瞬間、私は口の中の白い布を必死で噛みしめた。
痛い。
骨の隙間から突き出るような痛みだ。
私はメスが体内を這う感触を感じ、臓器が剥がされていくのを痛みとともに知った。
白い布は噛みちぎれた。歯茎に歯がぶつかり、口中は血だらけになった。
真っ白な天井灯を見つめていると、幻覚が目の前に浮かんだ。
桜が満開の木々が目の前に広がる。
城士が木の下に立ち、微笑んでいた。
「君がいれば、たとえボロアパートに住んでいても、そこは天国だ。
君がいなければ、俺の世界は廃墟だ。
この一生、俺は君だけを欲しい」
私は笑った。
笑っているうちに、涙が流れ落ちた。
これは天国にいる感覚なのか。
死にたいほどの痛みだ。
麻酔のない手術で、メスが私の心を一刀ずつ切り刻む。
私の愛する人は、どこかで酒を飲み、楽しんでいる。こんな事態が起きていることに、全く気づいていない。
時間がどれだけ経ったかわからないが、手術は終わった。
私は手術台から押し下ろされた後、車に乗せられ、ボロボロのアパートに放り戻された。
腰の傷口はまだ血を滲ませ、包帯はすぐに染みた。
私はそのままソファに寄りかかり、意識が徐々に曖昧になった。
どれくらい経ったか分からないが、私は興奮した叫び声で目を覚ました。
城士がドアに立ち、手に袋を提げていた。
その顔に興奮の笑みを浮かべ、私の前に駆け寄った。
「聡花!見て!」
彼は袋を私の目の前に差し出した。
中にはカップ麵があった。
「君の大好きなカップ麵を買ってきた!」
彼はカップ麵を私の手に押し込み、さらに説明した。カップ麵は、大物社長が約束した収益、500円で買ったものだ。
「たった500円だけど、これは始まりだ!これから、良い日がやってくるぞ!」
彼は興奮して話し、私の異変には全く気づかなかった。
私は彼を見つめた。
半生をかけて愛したその顔を見つめた。
そのお金は、大物社長の約束の収益ではなく、私が腎臓を売って残した500円だ。
私はゆっくりと座り直すと、腰の包帯を引き剥がして、思い切り城士の顔に投げつけた。
包帯は血まみれで、彼の顔にべっとりと貼り付いた。
「城士、目を覚まして!このカップ麺は、私が腎臓を売って手に入れたお金で買ったものよ!」
城士は呆然とした。
血まみれの包帯を見つめてから、私を見た。
そして笑った。
「聡花、それは笑えない」
彼の口調に叱責が混じった。
「まだ俺がカップ麺を食べたことに怒ってるだろう。それでも、腎臓を売ったなんて嘘をついて俺を騙すな。
もうすぐ出世するんだ!もうすぐ俺は億万長者だ!その時、カップ麺いくらでも食べていい!」
彼はますます興奮し、目が恐ろしいほど輝いた。
私は私の腎臓を一つ奪ったこの狂人を見つめた。
私は半生をかけて彼を愛したのに、彼は私を地獄に叩き落とした。
そして、私はそんな彼を見ながら泣いた。その後、全力で彼の頬を平手打ちした。
彼は殴られてよろめき、顔を押さえながら、信じられないという表情で私を見つめた。
私はソファの下から離婚協議書を取り出し、床に投げつけた。
「離婚だ」
その書類が、私たちの間に叩きつけられた。
城士は呆然とした。
そして彼の表情が変わった。
「離婚したければ勝手にしろ!」
彼は叫び声を上げ、その声は狭いアパートの中で響き渡った。
「もうすぐ億万長者だぞ!俺が君なんか気にすると思うか?
泣くことと文句を言うことしかできない女が、俺から離れたらどうやって生きるか見てやる!」
彼は離婚協議書を手に取り、見ずに署名した。
そして書類を私の顔に投げつけ、振り返らず去っていった。
私の世界は、ついに完全に静まった。
回想は終わった。
隣で私の話を聞いていた運転手の小林が泣きじゃくっていた。
「社長、なんでこんなに苦しい思いを……
あの木村城士、ほんとクズです。思いっきり殴ってやりたいです」
言い終わるか終わらないかのうちに、車が城士に無理やり止められた。
雨が激しすぎて、彼の顔がよく見えなかった。
しかし、ふと先ほどの彼の言葉を思い出した。
それは……
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