桜は散り、かつての愛は灰となった第1話
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離婚して5年目、私はT市の街角で再び木村城士(きむら じょうじ)に出会った。
私は支社を視察に来た女社長で、彼は野良犬と食べ物を奪い合うホームレスになっていた。
当初、私たちが離婚したのは、一杯のカップ麵が原因だった。
私は車の窓を下ろし、カップ麵を彼に投げた。「賞味期限切れだけど、ただだよ」
城士の濁った目に、突然涙が溢れた。「聡花、まだ俺を恨んでる?」
私は顔を上げずに言った。「カップ麵はたった500円、とても安い。でもあのとき、私の片方の腎臓を無理やり取られそうになったのよ。
城士、あなたを恨まないわけないでしょう?」
* * *
離婚して5年目、私・神原聡花(かんばら さとか)はT市の街角で再び木村城士(きむら じょうじ)に出会った。
私は支社を視察に来た女社長で、彼は野良犬と食べ物を奪い合うホームレスになっていた。
当初、私たちが離婚したのは、一杯のカップ麵が原因だった。
私は車の窓を下ろし、カップ麵を彼に投げた。「賞味期限切れだけど、ただだよ」
城士の濁った目に、突然涙が溢れた。「聡花、まだ俺を恨んでる?」
私は顔を上げずに言った。「カップ麵はたった500円、とても安い。でもあのとき、私の片方の腎臓を無理やり取られそうになったのよ。
城士、あなたを恨まないわけないでしょう?」
私の問いかけに、城士は何か言ったようだった。
風の音が大きくて、私は聞き取れなかった。
隣で運転手の小林(こばやし)の声が聞こえた。「社長……あのホームレスの人、知ってるんですか?」
私は答えなかったが、5年前のT市の話をゆっくりと語り始めた。
……
あの時、私と城士は6平米のアパートに住んでいた。
家賃は毎月3万円だ。窓もなく、壁の塗装はカビだらけで、夏は蒸し風呂のように蒸し暑く、冬は氷室のように寒かった。
でも私はそれを甘んじて受け入れていた。
城士は「君がいる場所が天国だ」と言ったからだ。
あの時、彼は24歳で画家だった。
絵が売れる画家ではなく、部屋いっぱいに絵を描いても、一枚も売れない画家だった。
23歳の私はコンビニでアルバイトをして、毎日10時間立ちっぱなしで、足は大根のように腫れていた。
だが、私たちは幸せだった。
少なくとも、私はそう思っていた。
あの日、退勤間際で、私はちょうどお客さんに理不尽な扱いを受けたところだった。しかも、3か月分の給料を賠償した。
空腹で胃が痙攣する体を引きずりながら家に帰ったとき、私の唯一の願いは、熱々のカップ麵を一杯食べられることだ。
私はすでに3日間、まともに食事をしていなかった。
それは、何日も我慢してようやく買った「贅沢品」だ。
しかし、引き出しをすべて探しても、そのカップ麵は見つからなかった。
ふとゴミ箱を見ると、すでに食べられて空になっていた。
私の心が一瞬で冷え切った。
家には食べられるものが何もなかった。
私はしゃがみ込み、生活費を入れた缶を探った。
中にはまだ最後の500円が残っているはずだ。それは、明日買い物に行くときの生活防衛資金だ。
開けた瞬間、中は空っぽだった。
その時、ドアが押し開けられた。
城士は玄関に立ち、全身が興奮に満ちていた。
彼は腕に一本の絵の具をしっかり抱え、目には輝きが宿っていた。
「聡花!見て!」
彼は私の前に駆け寄り、その絵の具を私の目の前に差し出した。
「ついに手に入れた!ゴッホもこれを使ってたんだ!」
私は彼を見つめ、飢えで声が震えた。
「城士、お金はどうしたの?
家にあった最後のカップ麺は?」
彼の興奮した表情は一瞬凍りつき、やがて少し苛立った。
「カップ麺は食べちゃった。お金は絵の具を買うのに使った」
彼は堂々と言い放ち、私の異変にはまったく気づかなかった。
「聡花、いつもそんなに俗っぽく考えないでくれよ。この絵の具があれば、世界で一番美しい星空を描けるんだ!」
私は彼を見つめた。
半生をかけて愛したこの男を見つめた。
「世界で一番美しい星空?」
私の声が震えた。
「城士、私たちは明日の食事さえ食べられないのよ。あなたの描く星空で飯が食べられるの?」
私は崩れ落ちるように彼に叫び、涙が顔中を覆った。
城士は眉をきつく寄せた。
「こんな小さなことで泣くのか?君がこんな俗っぽい女だと知ってたら、あの時、令嬢たちの告白を断るべきじゃなかった!
彼女たちはこの絵の具の色合いにしか驚嘆しない。そして、俺と一緒に夜通し絵を描き、俺の芸術と才能を賞賛する!」
彼は話すほどに自分が不遇だと感じ、私の鼻先を指差して叫んだ。
「彼女たちは君のように、毎日食べ物ばかり気にして低俗な欲望で文句を言ったりしない!
聡花、君の今の姿は、俺にふさわしくない!」
そう言い放つと、彼は力強くドアを閉めて出て行った。
私は力なく床に滑り座った。
床は冷たく、その冷たさが骨を伝って体中に広がった。
頭の中は彼の言葉でいっぱいだ。
私は彼にふさわしくなかった。
しかし、この数年間、城士の夢を支えるために、私は毎日せいぜいパン一個しか食べなかった。
その結果、胃が完全に機能しなくなってしまった。
床に散らばる桜の画稿を見つめながら、私は突然学校時代のことを思い出した。
学校の桜が満開の頃、彼は自閉症の私に付き合うために、パリ美術学院の合格通知書を公然と破り捨てた。
さらに、多くの令嬢たちが約束した千万のスポンサー資金も断った。
その日も、彼は片膝をついて、工事現場で稼いだバイト代で買った桜の髪飾りを、私の髪にそっと差し込んだ。
彼はこう言った。
「画材がなくなったらまた買える。前途多難でも、頑張ればいい。でも君がいなければ、俺の世界は廃墟だ。
君がいれば、たとえボロアパートに住んでいても、そこは天国だ」
私は信じた。
そして、両家の親に頼み込み、この結婚を決めた。
母は私の手を引き、心配そうに言った。「聡花、もう一度考え直しなさい。絵の道は厳しいよ。彼はまともな仕事もない……」
私は笑顔で遮った。「母さん、城士は私のために海外留学を諦めたんだよ。彼は私にこんなに尽くしてくれたから、きっと一生私を大事にしてくれるよ!」
一生だ。
でもその一生は、たった5年だった。
私は長く座り続け、体がしびれてきた頃、ようやくスマホを取り出してから、番号を押した。
「もしもし、鈴木先生ですか?ちょっと相談したいんですが……離婚協議書の作成について……」
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