果てない夜、揺らめく心第1話
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森田鈴奈(もりた れいな)は、京央市で最も注目を集める令嬢だ。
鈴奈は並外れた美貌を持ち、その流し目ひとつだけで、多くの男を虜にする。彼女に魅了された男たちは、街を埋め尽くすほどの列をなすと言われている。だが、鈴奈は向けられる熱い視線にも、一瞥すらくれようとはしない。
そんな中、親友である千代田夕美(ちよだ ゆみ)が彼女に賭けを持ちかけた。「鈴奈、もし私のおじさんを落とせたら、私のガレージにある車、好きに選ばせてあげる!」
夕美のおじさんである千代田慎也(ちよだ しんや)は千代田グループを率いる若き社長であり、冷徹で禁欲的で、気高い人物だ。その姿は数多くの令嬢にとって、まさに手の届かぬ存在だ。慎也に近づけられる女性は、ただの一人もいなかったという。
それに対し、鈴奈は笑った。彼女が欲しいと思ったものを、これまで手に入れ損ねたことは一度もないのだから。
だが、計画は常に思い通りには進まないものだ。
* * *
森田鈴奈(もりた れいな)は、京央市で最も注目を集める令嬢だ。
鈴奈は並外れた美貌を持ち、その流し目ひとつだけで、多くの男を虜にする。彼女に魅了された男たちは、街を埋め尽くすほどの列をなすと言われている。だが、鈴奈は向けられる熱い視線にも、一瞥すらくれようとはしない。
そんな中、親友である千代田夕美(ちよだ ゆみ)が彼女に賭けを持ちかけた。「鈴奈、もし私のおじさんを落とせたら、私のガレージにある車、好きに選ばせてあげる!」
夕美のおじさんである千代田慎也(ちよだ しんや)は千代田グループを率いる若き社長であり、冷徹で禁欲的で、気高い人物だ。その姿は数多くの令嬢にとって、まさに手の届かぬ存在だ。慎也に近づけられる女性は、ただの一人もいなかったという。
それに対し、鈴奈は笑った。彼女が欲しいと思ったものを、これまで手に入れ損ねたことは一度もないのだから。
だが、計画は常に思い通りには進まないものだ。
賭けが成立した初日、鈴奈は薬を盛られた慎也に偶然出くわした。もともと彼に近づくつもりだった鈴奈は、図らずも彼の「解毒剤」となった。
あの夜を境に、慎也の胸の内に秘めた恋心も、芽生え始めたようだ。
三年間、二人は親密な関係を続けてきた。
鈴奈の心も、幾度も重ねた肌の触れ合いの中で、少しずつ沈んでいった。
彼女は、この人々に神様のように崇められる男も、自分のものなのだと思っていた。
だが今夜、車の中で交わした後、彼のサファイアのカフリンクスが落ちているのに気づき、鈴奈は拾って彼に届けようとした。
廊下の突き当たりにある個室の扉は半開きになっている。押して入ろうとしたその時、中から談笑の声が聞こえてきた。
「慎也、今しがた森田のところから出てきたばかりだろ?あいつって普段はわがままで、誰にも構わないって感じなのに、君の前じゃ妙に甘くて可愛らしくなるんだな。羨ましい。いつ彼女と結婚するつもりなんだ?」
鈴奈の足が止まり、胸が高鳴った。
そして、あの冷たい声が聞こえた。
「体の関係だけだ。どうして結婚する必要がある?」
軽く放たれた言葉だが、氷で研がれた刃のように、真正面から鈴奈の心臓を突き刺し、一瞬で血に染め上げた。
個室の中は沈黙に包まれた。どうやら彼の仲間たちでさえ、そのあまりに率直で残酷な言葉に驚いているらしい。
どれほどの時間が経ったのか、やがて誰かが恐る恐る沈黙を破った。「ま、まさかだろ、兄貴?もう三年だぞ……まだ……初恋を……」
初恋?
鈴奈の頭が真っ白になった。
慎也に……初恋の女性がいるの?
魂を抜き取られた人形のように、鈴奈は呆然と扉の外に立ち尽くし、慎也が淡々と「うん」と答えるのを聞いた。
「別れたとき、彼女は言ったんだ。この三年間、彼女は他の男と付き合ってみるから、俺も他の女を探してみろって。もしそれでも互いを好きでいられたら、また付き合おうってさ。
彼女は気まぐれで不安が強い。だから望み通りにしてやった。
三年だ。俺はもう、試すことは終えた」と、彼は一瞬言葉を切り、声にはかすかな、それでいてはっきりと分かる期待が滲んでいる。「彼女も、そろそろ戻ってくる頃だろう」
鈴奈は雷に打たれたようだ。全身が凍りつき、指先まで震えている。
この三年間。幾度となく心が通じ合っていると信じていた瞬間。それらすべてが、彼にとってはただの実験に過ぎなかったのか。
「じゃあ森田はどうするんだ?あの性格じゃ、もし彼女が知ったら……」
ドンッ!
言い終わる前に、扉が鈴奈によって勢いよく押し開けられた。
中にいる全員が驚き、一斉に入口の方へ視線をやった。
鈴奈はそこに立っている。顔色は驚くほど青白く、ただその魅力的な目だけが、血を滴らせそうなほど赤く染まっている。
彼女はほかの人など見ていない。視線はただ、主席に座っているその男に釘付けだ。
慎也は端正なスーツを着こなし、背筋をまっすぐに伸ばし、悠然とした姿勢を崩していない。
彼女が突然現れても、驚きも動揺も一切見せず、凛とした佇まいを保っている。
だが、その冷静さこそが、鈴奈の血まみれの心にとどめの一撃を与えた。彼が少しでも彼女を好きなら、今この瞬間、そんな反応のはずがないからだ。
鈴奈は彼の前まで歩み寄り、この三年間愛してきた顔を見つめ、かすれた声で言った。「慎也……私に言うことは、何もないの?」
慎也は視線を上げ、静かに彼女を見た。
「説明することはない。君が聞いた通りだ。
俺たちは体の関係だけだ。君はずっと分かっていると思っていた。
君は夕美と賭けをしたんだろう。俺を落とせたら、彼女のガレージにある高級車を好きに選べるって。もしそれでも足りないなら……」
彼は長い指でスーツの内ポケットからある黒いカードを取り出し、鈴奈の前のテーブルにそっと押しやった。
「ここに二十億円ある。この三年間の……関係の対価だと思えばいい。
これで、俺たちの関係は完全に終わりだ」
そう言うと、彼は立ち上がり、立ち去ろうとした。
だが、彼が鈴奈の横を通り過ぎようとした瞬間、鈴奈は突然手を伸ばし、彼の手首を強く掴んだ。
彼女の手は氷のように冷たく、力を込めすぎて指の関節が白くなっている。
慎也は足が止まった。
そして彼は聞いた。あれほど誇り高い彼女が、今はまるで全身の力を振り絞り、必死に浮き木にすがりついているように、口を開いた。彼女の声はかすれ、砕け散るようだが、静まり返った個室にくっきりと響き渡った。
「でも……私は好きになったの!」
慎也、私はあなたを好きになってしまったの!
いつ心を奪われたのか、自分にも分からない。
冬、面倒で靴を履かずにいると、彼が半ばしゃがみ込んで温かな掌で自分の冷えた足首を包み込み、スリッパを履かせてくれた時かもしれない。
自分が虫垂炎の手術で痛みに朦朧とし、目を覚ました時、最初に見えたのがベッドの傍らで見守り、目の下に淡い隈を浮かべていた彼の姿だったからかもしれない。
あるいは、幾度となく迎えた深夜、接待から戻り、ほろ酔いの酒の匂いを纏いながらも、雷が怖い自分を抱き寄せてくれた時かもしれない。
一つ一つは些細でありふれた瞬間だが、それらが積み重なり、荒れ狂う波となり、自分を完全に飲み込んだ。
それなのに今、彼は軽々しく、自分とはただ体の関係だけだったと告げてきた。
慎也、なんて残酷なの!
慎也が薄い唇を動かし、何かを言おうとしたその瞬間、スマホが鳴った。
彼はスマホを取り出した。画面が点灯し、新着メッセージのプレビューが鈴奈の目に飛び込んできた。
【慎也、三年よ。試してみたけど、やっぱりあなたしか好きになれなかった。やはり付き合おう】
その瞬間、鈴奈は自分の世界が完全に崩れ落ちたと感じた。
慎也の視線がしばらく画面に留まり、やがて彼はゆっくりと、鈴奈が掴んでいた指を一本ずつ外していった。
「すまない」と、彼は言った。「俺は好きにはなれなかった」
そう言い残し、彼は未練なく振り返り、大股で立ち去った。
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