来世では、二度と出会わぬように第2話
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ベッドから這い出し、パジャマを整えてから、私は電話の向こうの言葉を静かに待った。沈黙に耐えかねて問い返そうとしたその時、恩美から一枚の写真が送られてきた。
それはニュースサイトのスクリーンショットだった。そこには、密会中のキス写真を撮られたことで、交際を正式に発表した時安の姿があった。
皮肉なものだわ。彼女であるはずの私本人が、その事実を全く知らされていなかったなんて。しかも、公式に発表された「恋人」の女性には見覚えがあった。時安が「ただの妹だ」と言い張っていた乃愛だった。
恋人が世間に向けて交際宣言をした。けれど、彼女であるはずの私は、何一つ知らされていない。なら、私は彼の何だっていうの?
「時安は一体どういうつもりなの?二股じゃない……」
裏切られた当本人である私よりも、恩美の方が激昂していた。対照的に、私はただ静かに「……そうね。その通りだわ」とだけ返した。
ネット上は瞬く間に時安の熱愛一色に染まり、その勢いは猛烈な嵐のように、あらゆるSNSのトレンドやニュースサイトを独占していった。
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#佐藤時安の恋人は期待の新星・成瀬乃愛
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電話を切ると、私は時安のメッセージ画面を開いた。【説明して。どうして私の彼氏が交際宣言したのを、私が知らないの?私はあなたたちの茶番のエキストラにでもされたのかしら】
返信はすぐに届いた。【昨日、乃愛が飲みすぎて俺に誤ってキスをしてしまった。それをパパラッチに撮られたんだ。彼女は今が大事な時期の芸能人だ。あんな写真が出れば、彼女のキャリアは終わってしまう。安心して。必ず君にはケジメをつけるから】
【その腐りきった脳みそ、いっそどこか地の果てにでも捨てて、少しはまともな神経に取り替えてきたらどう?
単細胞のくせに、二兎を追うような欲深さだけは人一倍なんて、本当に救いようがないわ。別れましょう。あなたに捧げた五年間は、手切れ金代わりにでもしてちょうだい】
彼が逆上して喚き散らす隙さえ与えぬよう、畳みかけるように別れを突きつけた。すぐさまLINEをブロックし、電話番号も着信拒否に放り込んだ。それだけでは飽き足らず、万が一を考えてSIMカードまで新調し、彼との繋がりを根こそぎ断ち切った。
一方的に絶縁を済ませた後、私は彼に買い与えられたマンションを後にした。合鍵はパッケージに詰め、宅配便で彼の手元へと送り返してやった。そして、その足ですぐに海の見える街へと向かうチケットを買った。どうしても、海が見たかった。
かつて、彼と一緒に海を見に行きたいと何度も言った。けれど時安はいつも「時間がない」と拒んでいた。それなのに、その翌日には乃愛を連れて海辺へ行っていたのだ。ただ、彼女が海辺で写真を撮りたがったという理由だけで。
実は、時安に最初に出会ったのは私の方だった。当時の彼はデビューしたばかりで、初々しさの残る顔立ちと不器用な話し方が、人々の庇護欲を掻き立てていた。私は一目で彼に惹きつけられた。
私は業界でも名の知れた脚本家だった。私が書く脚本はことごとくヒットし、キャスティング会議でもそれなりの発言権を持っていた。
愛する人の力になりたい一心で、私は有名な時代劇監督である樋口裕二(ひぐち ゆうじ)に彼を推薦した。彼はそのチャンスを完璧にものにし、瞬く間に誰もが知るスターへと駆け上がっていった。
時安の人気がうなぎ登りに上がる一方で、私は五年間、ただひたすらに彼を追いかけ続けた。脚本家としての立場をフルに活用し、裏方としてのサポートはもちろん、業界の有力者とのパイプ役まで買って出た。
六年目。ようやく私の情熱に根負けしたのか、彼は私の想いを受け入れてくれた。
「時安、私の彼氏になって」
「いいよ」
その時、私は彼が本当に自分を愛してくれたのだと信じていた。実際、私たちの関係は理想そのものに見えた。
彼は私のピーナッツアレルギーを常に気にかけてくれたし、マンゴーやメロンが大好物であることや、セロリが苦手なことなど、些細な好みもすべて完璧に把握していたから。
どれほど多くの「愛の証明」を積み重ねてこようと、彼の情熱に「鮮度」があるという残酷な事実を覆すことはできなかった。
付き合って四年目。期待の新星として乃愛が彗星のごとく現れ、瞬く間にスターダムを駆け上がった時、私はようやく思い知らされた。自分は彼の退屈を紛らわせるための、単なる「暇つぶし」に過ぎなかったのだと。
彼に心底愛されていた時間を、私は誰よりも知っている。だからこそ、その熱がわずかでも冷めれば、肌を刺すような違和感ですぐに気づいてしまう。
恋人という肩書きがあるはずなのに、二人の前ではまるで自分が「邪魔者」であるかのように感じ、いつだって救いようのない部外者でしかなかった。
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