来世では、二度と出会わぬように第1話
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肺がんの末期。私、白石一花(しらいし いちか)は最後となった誕生日に息を引き取った。
厳冬のさなか、大きな牡丹雪が空からひらひらと舞い落ちる。私は冬が好きだ。そして、この季節に永眠できることを、どこか幸運だとも思っている。
人生の最期の瞬間。頭に降り積もる雪を見つめながら、私はようやく、佐藤時安(さとう ときやす)と「白髪を共にする」という願いを叶えたような気がした。
私の方へと駆け寄ってくる時安を視界に捉え、私は微かに唇を動かした。「さようなら」
来世では、あなたに出会わないように。そして、あなたを愛したりしないように。
* * *
肺がんの末期。私、白石一花(しらいし いちか)は最後となった誕生日に息を引き取った。
厳冬のさなか、大きな牡丹雪が空からひらひらと舞い落ちる。私は冬が好きだ。そして、この季節に永眠できることを、どこか幸運だとも思っている。
人生の最期の瞬間。頭に降り積もる雪を見つめながら、私はようやく、佐藤時安(さとう ときやす)と「白髪を共にする」という願いを叶えたような気がした。
私の方へと駆け寄ってくる時安を視界に捉え、私は微かに唇を動かした。「さようなら」
来世では、あなたに出会わないように。そして、あなたを愛したりしないように。
……
静まり返った家に取り残され、時安が元カノの成瀬乃愛(なるせ のあ)にかかりきりで、正月だというのに私の元へ戻ってこないのがこれで何度目か、もう数えることさえ止めてしまった。
たとえ私たちが肌を寄せ合い、どれほど甘く切ない時間を過ごしていようとも、乃愛から電話一本あれば、彼は迷うことなく私を振り切って彼女の元へ駆けつけてしまう。
そのたびに彼が口にする理由は、「彼女が怖がっているから」あるいは「彼女は一人きりだから」というものだった。でも、彼は忘れている。私だって一人なのだし、一人きりで家にいる夜を、心底恐れているということを。
「いつになったら、私だけを見てくれるの?時安」
テレビで毎年恒例の新春スペシャル番組が放送されていた。画面から溢れ出す華やかな笑い声は、今の私にはあまりに空々しく、自分だけが不協和音のようにそこから浮き上がっているのを感じた。
まるで、私を取り巻くこの空間ごと、世界から置き去りにされてしまったかのようだった。
そう思った瞬間、肺を引きちぎらんばかりの激しい咳が込み上げてきた。あまりの勢いに、このまま内臓を吐き出してしまうのではないかという錯覚さえ覚えた。だが、私はそれをただの風邪か何かだと思い込み、大して気に留めることもなかった。
テレビに没頭していたせいか、あるいは彼の足音がそれほどに静かだったのか。不意に隣のソファが沈み込むのを感じ、気づけば時安が私を後ろから抱き寄せていた。彼は幾度となく口づけを強請るように顔を寄せてきていた。
首筋の敏感なところに熱い吐息が吹きかかる。私は体の不調を理由に、彼を拒んだ。
甘い情熱を湛えていたはずの彼の瞳が、一瞬にして凶暴なまでの険しさを帯びた。隠そうともしない不快感を露わにして、彼は突き放すように言い放った。
「またその話か?そうやって理屈をこねて……何度も言っただろう、乃愛は俺にとってただ妹のような存在なんだ」
時安は、誰もが認める名実ともにトップスターだ。私は彼を五年間想い続け、猛アプローチの末にようやく交際まで漕ぎ着けた。
付き合い始めた頃、何度も関係を公表してほしいと頼んだが、返ってくるのはいつも「キャリアに響くから」という言葉だけだった。
本当は、最初から気づいていた。彼が公表をためらうのは仕事のせいではなく、公表したい相手が私ではないからなのだと。何度も拒まれるうちに私も分をわきまえ、それ以上その話題に触れることはなくなった。
しかし今、どこから湧いてきたのか分からない勇気を振り絞って、私は言い返した。
「どうしてお金持ちのお坊ちゃんたちは、揃いも揃って元カノを妹扱いしたがるのかしら。随分博愛主義ね。いっそのこと、世界中の女の子を救ってあげたいヒーローだ、とでも言えばいいじゃない……」
自嘲気味に笑い、私は喉を潤そうと水を汲みに立ち上がった。いつからだろうか。胸の苦しさと息切れがひどくなり、所構わず激しい咳が込み上げるようになったのは。
私の言葉が癇に障ったのか、時安の瞳はさらに冷徹さを増した。
「一花、忠告しておく。そうやって言いがかりをつけて俺を困らせるのは、もうやめてくれないか。乃愛は俺にとってただの妹なんだ!勝手にしろ。俺は行くよ!」
時安は吐き捨てるように言い残して、家を出ていった。どうせまた、あのろくでもない遊び仲間たちと夜を明かすのだろう。
真っ暗なリビングに、再び重苦しい静寂が居座る。窓から差し込む月光が私を照らし出しているというのに、光の中にいても骨の髄まで凍えるような寒さを感じ、私は毛布をきつく巻き直した。
彼と迎える五度目の正月だというのに、私はまたしても独りきりだ。窓の外に広がる家々の明かりを眺めながら、自分がいかに孤独で、寄る辺ない身であるかを思い知らされる。
突然、スマホの通知音が私の思考を遮った。乃愛から送られてきた写真だった。
画面に映し出されていたのは、時安が抜群のスタイルを誇る乃愛を優しく抱き寄せ、穏やかに微笑んでいる姿だった。二人のあまりに整った容姿は、まさに「美男美女」という言葉がこれ以上ないほど似合っている。
彼の笑顔は、春に咲き誇る花のように明るく輝いていた。ただ、その笑顔は私に向けられたものではなかった。
乃愛は、私が以前のように時安を問い詰め、彼女自身が清純な被害者を演じて彼に守られるという、お決まりの筋書きを期待しているのだろう。
だが、それは期待外れに終わる。相手にする気力さえ湧かなかった私は、そのままシャワーを浴びて早々に眠りについた。
翌朝、私は原田恩美(はらだ めぐみ)からの電話で叩き起こされた。まだ眠気の残る声で、私は冗談めかして応じた。
「恩美、朝っぱらからそんなに私に会いたくなっちゃったの?勘弁してよ」
電話越しに恩美が叫んだ。「ちょっと一花!目を覚ましなさい!あなた、完全に足をすくわれたわよ!泥棒猫に横取りされたの!」
正直なところ、彼女の声は本当に鼓膜に響くほど大きい。
「横取り?何の話よ。あなた、悪い夢でも見たんじゃない?」
私は狐につままれたような気分だった。朝っぱらから着信の嵐を浴びせてきたかと思えば、いきなり横取りだなんて。恩美は正気を失ったのではないかと本気で疑った。
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