未来が過去よりも輝きますように第1話
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入江萊(いりえ らい)は婚約者の姪に借金の返済を求めた。
翌日、婚約者の白鳥景恒(しらとり かげつね)は彼女に、これまで一度も見せたことのない帳簿を突きつけた。
そこには、二人が付き合っていた五年間のすべての支出が、詳細に記録されていた。
100円のアイスクリームのようなささやかな出費から、彼が贈った高級ブランドのバッグのような高額な支出まで。
果てはラブホテルやコンドームの費用に至るまで、余すことなく書かれていた。
「ラブホテル代は折半だ。志蘭が君に借りた200万を差し引いても、君の借金はまだ4160万円だ。
一ヶ月以内に、俺の口座に振り込め」
* * *
白鳥景恒(しらとり かげつね)はソファにもたれ、けだるげにワイングラスを揺らしながら、冷ややかな視線を入江萊(いりえ らい)に向けた。
その目の他人行儀な冷たさに、彼女の心はかすかに震えた。
「どうした?金がないのか?
志蘭から金を取り立てて、脅して侮辱したとき、彼女もお金がないってを気にしたか?」
個室は一瞬で静まり返り、すべての視線が萊に集中した。
次の瞬間、爆笑が沸き起こった。
「景恒さん、入江ってド貧乏だぜ。4000万なんて、どこにあるんだよ?」
「そもそも恥知らずにも景恒さんのベッドに入り込んだ女だぜ。今度は誰に体売って返すつもりだ?ははは!」
「たかが4000万だろ?入江、今夜俺を気持ちよくさせたら、5000万もやるよ」
……
景恒は小さく笑ったように見え、ワイングラスをくるくると回しながら言った。
「それは俺の知ったことじゃない。
入江、期日までに金を返さなかったら、訴えるからな」
その言葉を聞いた瞬間、萊の顔から血の気が引き、胸が鋭く突き刺されたような痛みに襲われ、うずくまりそうになった。
これが、初めてではない。
景恒が、帰国したばかりの姪の松田志蘭(まつだ しらん)のために、彼女を標的にしたことは何度もあった。
一度目は、志蘭への食事が遅れたという理由で、三日間絶食させられた。
二度目は、彼女のタブレットを誤って落として壊してしまい、手を骨折するまで殴られた。
三度目は、志蘭の機嫌が悪かったというだけで、ピエロの格好をさせられ、空手道のできない彼女は板割りのような芸までやらされた。そのせいで怪我はいっぱいできた。
……
今回は、ただ志蘭が泣きながら借りてきた200万を返してほしいと願っただけなのに……
景恒は彼女をこの場に引きずり出し、まるで公開処刑のようにさらし者にし、金持ちの若者たちに好き放題に侮辱させた。
その場にいた全員が、彼女の惨めな姿を見て笑っていた。
それでも、母の高額な医療費が脳裏をよぎり、萊は無理に笑顔を作って、景恒の隣にいた男に視線を向けた。
「あなたを満足させれば、本当に5000万くれるの?」
男は興味深げに顔を輝かせ、景恒が無言で容認しているのを見ると、ウェイターを呼び、強い酒を十本注文した。
「入江、今日この十本を全部飲み干したら、5000万やるよ」
萊は一瞬の迷いもなく、ボトルを掴んで一気に酒を流し込んだ。
高濃度のアルコールが胃を焼きつけるような激しい痛みをもたらし、眉間にしわを寄せながら冷や汗をかいた。
蔑むような視線が無数に彼女に注がれ、とりわけ景恒の目線は鋭く冷たかった。
だが萊は、まるで何も感じていないかのように、それを意に介さなかった。
彼女には金が必要だった。
金がなければ、何もできなかった。
彼女にとって尊厳など、金の前では何の価値もなかった。
十本の酒を飲み干す頃には、萊の目は真っ赤に充血していた。
彼女は男に手のひらを差し出した。
「……お金」
男は景恒の方に目を向けて、尋ねた。
「景恒さん、本当に渡していいのか?」
「やれよ」景恒は眉を上げて、うっすら笑った。
「はした金だ。物乞いにでも恵んだと思えばいいさ」
一枚のキャッシュカードが、萊の足元に投げられた。
彼女はそれを拾い上げ、その足で病院へと向かった。
この金があれば、母の手術ができる……
だが、病院で手術費用を支払った直後、医師は困惑したような顔で彼女に告げた。
「入江さん、社長の厳命で、当院はこれ以上お母様の治療を続けることができません。申し訳ありませんが、我々にはどうすることもできないのです」
世界が崩れ落ちたような感じがした。
萊は慌てて景恒に電話をかけ、どうか母を助けてほしいと懇願した。
だが、受話器の向こうから返ってきたのは、冷たい嘲笑だった。
「先週、手術したばかりだろ?一回くらい減っても死にはしないさ。
志蘭を泣かせた罰だと思え」
電話が切れた瞬間、病室には甲高い「ピー」という音が響き渡った。
モニターに映っていた波形が、突然ぴたりと止まった。
パチン――
携帯が床に落ちた。
萊の目は真っ赤に染まり、ベッドに飛びついた。
震える手で母の手を握ったが、その手は無力だった。
彼女はまるで深い闇に突き落とされたかのようだった。
「……母さん……
母さん!」
絶望の叫びが夜を裂いた。
萊は空ろな目で、そのまま一昼夜膝をついたまま、微動だにしなかった。
朝日が差し込むころ、彼女はようやく、母の死を現実として受け入れるしかなかった。
医師が重い表情で、一通の手紙を差し出した。
「入江さん、これはお母様が亡くなる直前に書かれたお手紙です。ご愁傷様です」
内容はとても短かった。
それでも、萊の涙は止まらなかった。
【萊、逃げなさい。あなたの人生は、まだまだ長いのだから】
母が最後に残してくれた贈り物……それは、自由だった。
すべてを失った萊は、母の葬儀を終えた後、何のためらいもなく国家医学研究院に電話をかけた。
「黄瀬先生、決めました。私、今回の研究プロジェクトに参加します」
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