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朝夕、別れを語る第1話

この話は約2122字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

【九条奥さん、十日後に放火で偽装死をご計画の件、弊社への正式なご依頼ということで、よろしいでしょうか?】

このメッセージに、清水梨花(しみず りか)はしばらく言葉を失い、返答しようとしたその時、急にビデオ通話がかかってきた。

「梨花さん、見て!辰昭さんがまたあなたのために大奮発してるよ!」

画面に映し出されたのは、今まさに進行中のオークション会場だった。

前列に座る、気品と見栄えを兼ね備えた一人の貴公子が、何のためらいもなく、次々と数億の骨董品を落札している。

会場内は早くも沸き立っていた。

「九条家の御曹司、奥さんに本当に尽くしてるな。笑顔が見たいだけで、こんなに骨董を買うなんて」

「八十億なんて、彼にとっちゃ端金さね。聞いた話だと、九条さんは奥さんのために梨花荘って邸宅まで建てたらしいぞ。名前だけで、どれだけ奥さんを愛してるか、伝わってくるよな」

その隣で、一人の富豪が鼻で笑った。

「見せかけだけだよ。どうせ裏じゃ、女遊びしてるんだろう」

その一言に、すぐに非難の声が飛び交った。

誰もが九条家の御曹司の溺愛ぶりを語っている。

その囁きに耳を傾けながら、梨花はふっと苦笑した。

* * *

【九条奥さん、十日後に放火で偽装死をご計画の件、弊社への正式なご依頼ということで、よろしいでしょうか?】

このメッセージに、清水梨花(しみず りか)はしばらく言葉を失い、返答しようとしたその時、急にビデオ通話がかかってきた。

「梨花さん、見て!辰昭さんがまたあなたのために大奮発してるよ!」

画面に映し出されたのは、今まさに進行中のオークション会場だった。

前列に座る、気品と見栄えを兼ね備えた一人の貴公子が、何のためらいもなく、次々と数億の骨董品を落札している。

会場内は早くも沸き立っていた。

「九条家の御曹司、奥さんに本当に尽くしてるな。笑顔が見たいだけで、こんなに骨董を買うなんて」

「八十億なんて、彼にとっちゃ端金さね。聞いた話だと、九条さんは奥さんのために梨花荘って邸宅まで建てたらしいぞ。名前だけで、どれだけ奥さんを愛してるか、伝わってくるよな」

その隣で、一人の富豪が鼻で笑った。

「見せかけだけだよ。どうせ裏じゃ、女遊びしてるんだろう」

その一言に、すぐに非難の声が飛び交った。

誰もが九条家の御曹司の溺愛ぶりを語っている。

「この世界で、まだ愛が存在すると信じられるカップルがいるとしたら、それはあの二人だけだよ」

「九条さんって、若くして名を馳せた天才画家だろ。でも一躍有名になったのは、あの『梨花』って作品だったよな。あれ、九条奥さんをモデルに描いたんだって。

彼は奥さんを全てのインスピレーションの源だと言った。彼の絵から、奥さんに対しての想いが伝わってくるよ」

その囁きに耳を傾けながら、梨花はふっと苦笑した。

彼女と九条辰昭(くじょう たつあき)の結婚は、典型的な政略結婚だった。

初めて会ったのは、婚姻届を提出した日だった。

実家で十分な愛情を受けられなかった彼女は、結婚生活に何一つも期待していなかった。

だが意外にも、辰昭から特別な優しさをもらってしまった。

彼は、彼女がピーナッツアレルギーであることを覚えてくれていた。

乳糖不耐症のことも、気遣ってくれていた。

誕生日には、高価で美しいプレゼントを用意してくれた。

梨花の心は、少しずつ、彼の方へ傾いていった。

彼を亡き母の墓まで連れて行った。

その場で辰昭は、厳かにこう誓ったのだ。

「お義母さん、どうかご安心ください。梨花は僕にとって、何よりも尊い大切な存在です。今生をかけて、梨花を必ず幸せにします。もし僕が梨花を裏切るようなことがあったら、一生、愛する人を失う罰を受けよう」

昔のシーンを思い出すと、梨花は自嘲するようにもう一度笑った。

いつから、すべてが変わってしまったのだろう。

おそらく、辰昭はもうあの世に去った初恋の妹・望月唯稚子(もちづき いちこ)を家に迎え入れ、大切にしていた時から。

あるいは、唯稚子が帰国した日、唯稚子が彼の胸に飛び込んだ……しかし彼がそれを止めなかった、あの瞬間から。

または、彼のシャツについた口紅の痕、鎖骨の下に残るかすかな歯形を見た、あの時からかもしれない。

梨花はもう、自分をごまかし続けることはできなかった。

「九条さん、これらすべて、奥さんへのお誕生日プレゼントですか?」

ビデオの声に、意識を引き戻された。

画面の中で、辰昭の澄んだ声が響いた。

「違います。ただのちょっとした物です。妻の誕生日には、もっと良いものを用意してます」

その一言に、またしても令嬢たちの羨望のため息が漏れた。

梨花が通話を切ろうとしたその時、かすかにこんな声が聞こえた。

「辰昭さん、本当に十日後、梨花さんに盛大な結婚式をやり直すつもり?」

「もちろんだ。梨花のことは最優先だ、しっかり準備しろよ」

「了解。じゃあ……明日の夜、唯稚子の打ち上げパーティー、梨花さんも誘う?」

「いや、彼女には知らせるな」

辰昭がまだ何か言っているが、梨花にはもう、それが聞こえなかった。

彼女は、静かに通話を切った。

そして、先ほど届いた最終確認のメッセージをじっと見つめながら……ゆっくりと、けど確かな動きで文字を打った。

【承知しました。お願いいたします】

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