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朝も夜も、もうあなたはいない第3話

この話は約2129字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

撮影に戻って間もなく、圭吾からメッセージが届いた。【会社の外にいる。少し顔を見せて】

外に出ると、彼は笑顔で手を振り、小さな箱を差し出した。「たまたま近くに来たから寄ったんだ。フルーツポンチ、買ってきたよ」

以前なら、こんなことで一日中嬉しくなれた。けれど今は違う。さっきまで美鈴と会っていたその足で、今度は自分に。彼女には高級なアフタヌーンティー、自分にはスーパーの割引フルーツ。

そういう扱いなのだろう。安い物をあげれば、それで満足する女――そう思われている。

「昼も夜も働いて、大変だったろ」労わる声に、優奈はかすかに笑い、淡々と返した。「清水さんの彼氏がさっき差し入れてくれたから、お腹いっぱい。これは自分で食べて」

背を向けて撮影所に戻ると、圭吾はしばらく立ち尽くした。

胸の奥に、理由の分からない不安が広がっていく。

その後の撮影は順調に進み、早ければ三日ほどで終わりそうだった。

夜、帰宅すると、向かいの奥さんが買い物帰りに声をかけてきた。「いい匂いがしてるわねぇ。あなたの彼氏、本当にいい人だね。背も高いし顔もいいし、毎日ご飯まで作って待っててくれるなんて」

優奈は微笑むだけで答え、玄関の扉を開けた。

中に入ると、勢いよく抱きついてくる影があった。「優奈!帰ってきたんだな!一学期ぶりだ、会いたかった!」

圭吾の弟・中村匠真(なかむら たくま)だ。彼は大学一年になったばかりの少年だった。

最初、彼は優奈を激しく嫌っていた。「厄病神」だと罵り、祖母や姉の不幸を全部彼女のせいにした。優奈を育てたおばあちゃんは早く亡くなり、優しくしてくれていたお姉さんまで病院に入ってしまって。そりゃ、生まれたときに捨てられてもおかしくないって。「金目当てで兄さんに近づいたんだろ」とまで言った。

そんな言葉にどれだけ傷ついたか。一人で泣いた夜も少なくなかった。

けれど、圭吾を愛していたから。彼が家族と自分の間で苦しむのを望まなかったから。全部黙って耐え、匠真の世話も続けた。二年前、圭吾が破産したと告げた時も。

「もう何もない。借金しか残ってない。なのに、どうして君はまだいるんだ?」そう問いかけられた時、優奈は笑って彼の顔を両手で包んだ。「バカだね。私が愛してるのはあなただもの。お金なんて関係ない。あの時、私が一番辛い時にそばにいてくれたのはあなた。だから今度は、私が一緒に返していく」

その言葉に、彼は人生で味わったことのない感情を抱いた。罪悪感、感謝、恐れ、そしてどうしようもないほどの愛。

その前までは、彼は優奈のことなんて気にも留めていなかった。弟が彼女をいじめているのを知っていても、見て見ぬふりをしていた。

それ以来、匠真に「優奈を馬鹿にするな」と強く言い渡した。もっとも、彼の態度はそれを待つまでもなく変わり、今では仲が良すぎるほどだ。

「おい、いい加減にしろ」帰宅した圭吾が弟を引きはがす。「呼び方は? 優奈じゃなくてお義姉さんだろ」

匠真は不満そうに口を尖らせた。「だってまだ結婚してないじゃん。それに兄さん、もう……」

兄の冷たい視線に射すくめられ、匠真は言葉を飲み込み、しぶしぶ言い直す。「……借金だらけで、結婚はまだまだ先でしょ」

そのやり取りを聞いて、優奈は心の底から笑いがこみ上げた。みんな知っていたのだ。自分だけが、信じきっていた。滑稽なくらいに。

「明日は兄さんの誕生日だし、三人で食事に行こうぜ!」匠真が無邪気に誘ってくる。

「二人で行って。私は仕事があるから」優奈は彼の手を振り払い、「もう寝る」とだけ言って部屋へ向かった。

その背中を見つめながら、圭吾の不安はますます募った。やっぱり、出張の件で怒っているのかもしれない。

安いプレゼントでも渡せば、機嫌は直るはずだ。いつもそうだったから。

翌日美鈴は現場に現れなかった。聞けば、彼氏の誕生日パーティーを準備しているらしい。

昼休み、千夏が気まぐれで「今日はご馳走しよう」とスタッフを五つ星ホテルへ連れていった。

ところが、入口で「本日は貸し切りです」と断られる。

帰ろうとしたその時、十数台のベンツやベントレーが横付けされ、黒服の警備員が一斉に整列した。降りてきたのは、きらびやかな若者たちだった。その中心に、圭吾と美鈴の姿があった。他の人は圭吾の友達みたいだ。「三年越しの初恋相手が戻ってきたんだ。今日の誕生日、最高だろ?」

「ほんとだな。あの三年間は寂しくて、代わりを連れてただけだもんな」

その言葉に、圭吾の目が一瞬鋭く光った。口を滑らせた友人はすぐに顔を伏せる。

張り詰めた空気を破ったのは、美鈴の笑い声だった。「いいのよ。この三年間、私はそばにいなかったんだから。彼が暇つぶしを見つけてたって、不思議じゃないわ」

人混みの中から、優奈は圭吾をじっと見つめていた。お願い、何か言って。私はただの遊びじゃない、正式な恋人だって。そう言ってほしかった。

だが、彼は美鈴の鼻先を指で軽くつつき、優しく微笑んだ。「そうさ。ただの暇つぶしだ。君が気にしないなら、それでいい」

「おおー!さすが奥さん、大人だ!」仲間たちは大声で盛り上がり、笑いが響き渡った。

その喧噪の中で、優奈は人目につかない片隅に身を寄せ、泣き笑いを繰り返していた。

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