月明かりだけが、あの日の二人の愛を知っている第2話
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必死に言い訳をする孝之を見て、胸が締め付けられた。
「孝之、私の方こそ美月のことなんて一度も言っていないわ」
孝之の表情が硬直し、沈黙したのち、逆ギレし始めた。
「里香、二度と俺に戻ってきてくれなんて言うなよ」
それから数日、孝之は帰宅しなかった。
彼は美月の離婚裁判を引き受け、彼女のために奔走していたのだ。
美月が情緒不安定になれば、夜通し車を飛ばして他県に住む美月の友人を連れてくる始末だ。
さらに、美月を喜ばせようと赤信号を無視してまで、大好物の菓子を買いに走る。
あれはあくまで美月への借りを返すためと言い訳しているが、彼女が戻ってきた日の晩、酒に酔って一晩中美月の名前を呼び続けていたのは誰だろうか。
男というものは、こうも素直になれないのか。
美月が離婚した日、孝之は朝まで飲んでいた。
私が家に帰ると、孝之はソファで酔い潰れ、ボロボロになった人形を抱えて呆れたような顔で笑っていた。
あの人形なら見覚えがある。美月が孝之に贈ったものだ。
とっくに捨てたと思っていたのに、実は大事にしまっていたなんて。
孝之は静かに人形を見つめ、何度も美月の名前を呼ぶ。
必死に彼を支え起こすと、逆に抱きしめられてしまった。
「美月、戻ってきたんだね。
俺を見捨てるわけないって分かってたよ」
私を美月だと勘違いし、孝之は一向に離そうとしない。
私はじっと孝之を見つめ、あの日カラオケの個室で彼が同じ様子だったことを思い出した。
ベロベロに酔って、友達にすべてを打ち明けていたのだ。
「亮太(りょうた)、俺は一番好きな女とは結婚できなかった。里香は美月に似てるけど、所詮は美月じゃない。今は里香が妊娠して、父親になるっていうのに、少しも嬉しくないなんてな……」
あの時、どんな思いで店を後にしたか分からない。
足が重く、涙で視界が歪んだことしか記憶にない。
その日、私は交通事故に遭った。駆けつけた時、孝之はまだ電話中だった。
受話器の向こうからは美月の声、そして何かが割れる音と悲鳴が聞こえてきた。
「里香、バカなのか?こんな広い道路で車とぶつかるなんて。
俺は弁護士だぞ、医者じゃない。君の面倒くさい事態にかかわる暇はない」
孝之は冷酷に立ち去ったのに、通話に戻るとまた優しく穏やかな彼に戻っていた。
昔は、私にもそんな親しい口調で話してくれたことがあったのに。
私に会うために、大雨の中をマンションの下まで駆けつけてくれたこともあった。
私はみなしごで、拾われて育った。
孝之は祖母に、私を一生大切にすると誓ってくれた。
それなのに、約束を破ったようだ。
酔った孝之は、いつもの冷徹さではなく、不覚にもあの素直な少年を思い出させる。
絶望の中にいた私の人生に、光となって現れたあの少年だ。
愛していると、家族になろうと言ったあの少年。
結局、それは私が美月に似ていただけだったのか。
孝之は私越しに美月を見て、結婚を決めたのもそう。
一番好きな人ではない以上、相手は誰でもよかったのだ。
鼻がツンとして、涙が止まらなくなった。しかし、私は決めた。
いいよ。孝之、もう許してあげる。
……
弁護士に離婚協議書を準備させたが、孝之とは1週間以上も顔を合わせていない。
孝之は美月とばかりいて、まるで誰もが羨むカップルのようだった。
ある集まりで、美月が私を呼び止めた。人目がないのを確認すると、ネックレスをプールに放り投げ、悪趣味に笑う。
「ねえ、孝之はどっちを信じると思う?」
そして孝之が来る直前、わざと転んでか弱いふりをした。
「孝之、里香を怒らないで。きっと不注意でプールに落としちゃっただけよ」
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