月明かりだけが、あの日の二人の愛を知っている第1話
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丸山孝之(まるやま たかゆき)の初恋の人、上野美月(うえの みつき)が離婚した。
離婚の裁判は、すべて孝之の手配によるものだ。
その後、孝之は美月を、私たちの新居に連れ込んだ。そして美月が猫アレルギーだという理由で、私の飼い猫を捨てさせた。
挙句の果てに、妊娠中の私を凍りつくような冷水プールに突き飛ばし、美月のネックレスを拾わせたのだ。
私が流産して入院している間に、孝之は美月の妊娠検査結果を持って、今年初めてのインスタを更新した。
【桜が咲いた。君が春を連れてきてくれた】
心身ともにボロボロだった私は、ただ静かにその投稿に「いいね」を押した。
孝之はそんな私を嫌悪感たっぷりに一瞥し、唇の端を歪めて卑劣な笑みを浮かべた。
「里香(りか)、君みたいな人間は、子供がいなくなっても当然だよ。
そんなに子供が好きなら、君も一緒にあの世へ行けばいいんだ」
だが孝之は知らない。私の命があとわずかだということを。
* * *
上野美月(うえの みつき)が新居に越してきたあの日、彼女の荷物はリビングを埋め尽くしていた。まるで主導権を握ったと誇示するかのように。
丸山孝之(まるやま たかゆき)は美月の腰を抱き寄せ、優しくカーディガンを肩にかけてあげていた。
「美月は退院したばかりで、体調がすぐれないんだ。それに、今は行くあてがない。俺たちが面倒を見るべきだ。
美月はこれまでずっと身寄りがなく、辛い思いをしてきたんだ」
あまりの馬鹿げた言い分に、頭が一気に冷めた。
「孝之、ここは私たちの新居だよ……」
「里香(りか)、いつからそんなに心が狭くなったんだ。美月は行くあてがなくて、しばらくの間ここに置いてほしいだけなんだぞ。
美月は離婚したばかりで、今は誰かが支えてやらなきゃいけないんだ」
孝之は美月の手を丁寧に握り、約束した。
「美月、安心してくれ。俺がいる限り、誰にも追い出させはしない」
孝之は美月の部屋を用意し、美月が私のドレスを破いたり、大切にしていた絵を傷つけるのを黙って見ていた。
美月は私が飼っている愛猫の福ちゃんが自分を引っ掻いたと言いがかりをつけ、あろうことか木に吊り下げる真似までした。
私が言い返すと、戻ってきた孝之から鋭いビンタを食らった。
その一撃はちょうど目尻の傷痕を直撃し、さらに傷跡を醜く浮き上がらせた。
この傷跡のことは、今でもはっきりと覚えている。3年前の事故で残ったものだ。
弁護士の孝之は揉め事も多く、四方に敵を作っては命を狙われていた。
ある時、私が彼の身代わりとなって刺され、眼の縁だけでなく右手首にも傷が残った。
あの時孝之は、震える手で私を抱きしめ、私以上に涙を流して泣いていた。
「里香、本当にすまない。俺のせいで君の将来まで奪ってしまった」と言った。
私を愛しているし、自分が傷つくべきだったとも言っていた。
孝之は私の過去の苦しみを抱きしめ、傷痕に何度もキスをしてくれた。
なのに今、その傷に平手打ちをしたのは孝之自身だ。
孝之は、自分の手が実際に私の顔を捉えたことに動揺したような表情を浮かべた。
彼が頬に触れようとすると、美月の一言で遮られた。
「孝之、ごめんなさい。全部私のせいね。
私が来なければ、あなたたちも揉めなかったのに。
私がそんなに嫌なら、ここから出ていくわ……」
孝之は拳を握り締め、浮かべていた焦りの色が消え去った。
彼は立ち上がり、美月を抱きしめて言った。
「美月、里香はそういう意味で言ったんじゃない。誰にも君を追い出させはしないから安心しろ」
先ほどの罪悪感は、跡形もなく消えていた。
……
再び家に戻ってきた孝之はひどく冷たく、背後から抱きしめられるとタバコの臭いが漂った。
「里香、最近は忙しくておろそかにしていたな。わかってくれるだろう。
明日は健診だろ。付き添ってやるよ」
孝之が私に口づけをしようと顔を近づけ、腹部をさする手には隠しきれない欲望が滲んでいた。
私はキスをかわし、別の話題を切り出した。
「孝之、まだお腹に赤ちゃんがいるのよ」
孝之は拒絶されるとは思っていなかったのか、一瞬呆然としていた。
そのあと眉間にシワを寄せ、露骨に苛立ちを見せた。
「里香、また何か疑ってるのか。
美月はただの仕事の依頼人だ。彼女との間にはやましいことなど何もない……」
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