月が沈む夜に訪れた別れ第3話
この話は約1495字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
ぞくりと全身に寒気が走った。震える手で骨壺を開けると、中には何も入っていなかった。
「雪乃……何をしたの?莉子の遺骨はどこ?」
音羽が苦しむ様子を、雪乃は愉しげに眺めていた。
「ゴミなんて、埋めたって土地の無駄でしょ。だから化学実験に使ったの。あの子が役に立つとしたら、それくらいじゃない?そうそう、莉子ちゃんをスーツケースに閉じ込めるよう悠真に言ったのも私。私がひと言言えば、悠真は実の娘だって平気で殺せるのよ。音羽、それでも私に勝てると思ってる?」
そう言って、雪乃は薬指の指輪を見せつけた。
淡いピンクのダイヤは、少し前に悠真が高値で落札したものだった。世界に一つしかないその石を、誰もが音羽への贈り物だと思っていた。
それが今、雪乃の薬指にある。
「悠真の妻だからって何?ダイヤの指輪、買ってもらったことある?結婚写真は?新婚旅行は?あんたどころか、あんたが産んだあのガキだって――」
最後まで言わせず、音羽は雪乃の頬を打った。そのまま髪をつかんで床へ押し倒し、馬乗りになって何度も平手を浴びせる。
「これは莉子を死なせた分!これは人の家庭を壊した分!それからこれは、8年間散々、私たちの仲をかき回してきた分よ!雪乃、あんたなんか死ねばいい。殺してやる!」
怒りに任せて雪乃の首を締め上げても、その顔から勝ち誇った笑みは消えなかった。
その瞬間、飛んできた花瓶が音羽の頭を直撃し、眉のあたりから血が流れた。
「音羽、何やってるんだ!」
駆け込んできた悠真は、血まみれの雪乃を見るなり激怒し、連れていたボディーガードたちに音羽を取り押さえさせた。
床に押さえつけられた音羽は、声を上げた。
「放して!悠真、雪乃が莉子を殺したのよ!遺骨まで実験に使ったの!」
「もういい。俺を馬鹿にするな。莉子は、お前が戻ってからずっといないそうじゃないか。雪乃に謝りたくなくて隠したんだろ?死んだなんて嘘までついて……母親がすることか?」
母親がすることか――
莉子が言葉を覚え、歩き始め、学校で字を書くようになるまで、音羽はその成長をずっと見守ってきた。そして最後の葬儀も、音羽が見送った。
その一方で悠真は、娘の名前を覚えるだけで3年もかかり、莉子が死んだことさえ知らない。そんな悠真に、責められる筋合いなどなかった。
張り詰めた空気の中、雪乃が泣きながら口を挟んだ。
「悠真、音羽さん、もうやめて。私、今日は謝りに来ただけなの。音羽さんにも莉子ちゃんにも、本当に申し訳ないと思ってる。できる限り償いたいの」
その白々しさに音羽が言い返そうとしたとき、悠真が先に口を開いた。
「雪乃は何も悪くない。悪いのはあいつら母娘だ。自業自得だろ。雪乃が謝る必要も、償う必要もない」
悠真は雪乃には優しくそう言うと、音羽へ向き直った。
「それと音羽。莉子をしつけられないなら、こっちでしつける。お前も、このままで済むと思うな。雪乃を殴った分だけ、きっちり返してもらうぞ」
嫌な予感がした。
「悠真、何を――」
頬を打つ乾いた音が、言葉を遮った。
音羽が身構える間もなく、左右から容赦なく平手が飛んできた。何度も頬を打たれ、両頬はみるみる腫れ上がり、口の中は血でいっぱいになり、歯まで何本か抜け落ちた。ようやく手が止まると、音羽はぐったりと床に投げ出された。
それを見ても、悠真はまばたきひとつしなかった。
「音羽、お前最近どうしたんだよ。8年間ずっといい妻ぶってたじゃないか。祖母からもらう金じゃ足りないのか?何が不満か知らないが、今日みたいな真似は二度とするな。くだらないことで騒ぐな」
悠真は雪乃を抱き寄せると、床に倒れた音羽には目もくれず、そのまま病室を出ていった。
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)
第4話は公式アプリで
当サイトでの試し読みはここまでです。アプリをインストールし、下のアプリ用コードを入力すると、この作品の第4話からそのまま読み進められます。
S83150- 下のボタンから公式アプリをインストールします(無料)。
- アプリを開き、「コードを入力」にこのコードを入れると、この作品が本棚に入ります。
作品ページへ戻る 当サイトに掲載しているのは試し読みの章だけです。