時の流れに消えた夢第3話
この話は約1356字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
「だまれっ!」佳奈はかっとなり顔を上げ、若葉に殴りかかる。
しかし、仁が若葉を庇い、佳奈はボディーガードによって、床に押さえつけられた。
「離して!仁、あなたに人の心ってものはないの?」
仁は、いらだちを隠さずに眉をひそめた。「人の心だと?お前がそれを俺に聞くのか?」
「岩崎さんがさっきなんて言ったか、あなたは聞いてなかったの?」佳奈は涙をこらえきれず、追い詰められた獣のように呻く。「私は親がいないんじゃない!私の両親は……」
しかし、佳奈ははっとし言葉を飲み込んだ。
言うわけにはいかない。
もしここで正体がばれたら、今までの苦労が水の泡になってしまう。
「両親が何なんだって?言ってみろよ」
仁は佳奈の前に立ち、その鋭い目でじっと見つめる。「若葉は、ただ事実を言っただけだ」
その言葉は、まるでなまくらな刃物のように、彼女の最後の期待をゆっくりと切り裂いていった。
若葉は満足そうに口の端を上げると、仁の腕にからみつく。「仁。この女、さっき私を殴ろうとしたのよ。私の代わりに仕返しして?」
仁は一瞬黙ったが、ボディーガードに淡々と告げる。
「思い知らせてやれ」
そう言うと、仁は若葉の腰を抱いて少し離れたボックス席に座り、佳奈が二人のボディーガードに羽交い締めにされるのを冷ややかに見ているのだった。
バチンッ――
最初の一発は、ものすごい力だった。佳奈はよろめき、後ろにあったテーブルの角に体をぶつけた。
頬がじりじりと熱く痛み、口の端からは血が滲む。
しかし、すぐさま反対の頬にも二発目が飛んできた。耳の奥でキーンと鋭い音が鳴り響く。
三発、四発……ボディーガードが冷たい声で回数を数えている。その力は少しもゆるまない。
何か言おうと口を開いても、鉄の味がする血がこみ上げてくるだけだった。
視界がだんだんとかすんでいく。頭の中で考えているのは、ただひとつのことだけ。佳奈、耐えるんだ。任務が成功する、その瞬間まで……
それから、どれくらいの時間がたっただろうか。意識が霧のように薄れていく最後の瞬間に、仁がボディーガードに尋ねる声が聞こえた。「何発だ?」
「社長、99発です。まだ続けますか?」
ようやく佳奈に目を向けた仁は、ほんのわずかに眉をひそめた。
しかし、すぐに顔をそむけると、冷たい声で言った。「もう一発だ。きりのいい数で終われ」
バチンッ――無慈悲な音が、ホールに響きわたる。
ボディーガードの手が離れると、佳奈は最後の力を振り絞ってその場になんとか立ち留まる。口からは血がぽたぽたと滴り落ちていた。
若葉のあざけるような笑みを最後にちらりと見て、佳奈はついに耐えきれず、完全に意識を失ってしまった。
目が覚めると、そこは病院のベッドの上だった。
鼻をつく消毒液のにおいがする。佳奈が頬にそっと触れると、そこから耐えがたい痛みが走った。
突然、スマホが鳴った。上司の純一からの着信だった。
「25364番、新しい情報だ」電話の向こうの声はなんだか切羽詰まっている。「君のお兄さんは生きている!松尾家の郊外にある射撃場に捕らわれていることは分かったんだが、まだ場所の詳細は特定できていない」
佳奈はがばっと体を起こした。そのせいで傷が痛み、思わず「うっ」と呻き声を漏らす。
「25364番、どうした?行けるか?」
「はい、問題ありません。すぐに向かいます!」
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