時の流れに消えた夢第1話
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横山佳奈(よこやま かな)と松尾仁(まつお じん)は、かつて学園中の視線を集める、誰もが羨む恋人同士だった。
太陽のように明るく、いつも笑顔を絶やさない学園のアイドル。その佳奈は、裏社会に生きる名家の跡取りである仁が、誰にも触れさせず、大切に守り続けてきた存在だった。
佳奈のために、仁は危険な世界から身を引く決意をする。彼女を、もう暗い場所に縛りつけたくなかった。ただ、光の中で当たり前の幸せを手にしてほしかったのだ。
だが、ようやく未来が見えはじめたそのとき、佳奈は別れを告げた。
激しい雨の中、仁は三日三晩、地面に膝をついて思いを訴え続けた。やがて力尽きて倒れても、佳奈は一度も振り返らなかった。
それから三年後。再び仁の前に現れた佳奈は、かつてとは違っていた。今度は、愛される側ではなく、愛を乞う立場で。人前には出られない、名前のない関係でもいいと、自ら影に身を置き、彼のそばにいようとしたのだった。
* * *
横山佳奈(よこやま かな)と松尾仁(まつお じん)は、かつて学園中の視線を集める、誰もが羨む恋人同士だった。
太陽のように明るく、いつも笑顔を絶やさない学園のアイドル。その佳奈は、裏社会に生きる名家の跡取りである仁が、誰にも触れさせず、大切に守り続けてきた存在だった。
佳奈のために、仁は危険な世界から身を引く決意をする。彼女を、もう暗い場所に縛りつけたくなかった。ただ、光の中で当たり前の幸せを手にしてほしかったのだ。
だが、ようやく未来が見えはじめたそのとき、佳奈は別れを告げた。
激しい雨の中、仁は三日三晩、地面に膝をついて思いを訴え続けた。やがて力尽きて倒れても、佳奈は一度も振り返らなかった。
それから三年後。再び仁の前に現れた佳奈は、かつてとは違っていた。今度は、愛される側ではなく、愛を乞う立場で。人前には出られない、名前のない関係でもいいと、自ら影に身を置き、彼のそばにいようとしたのだった。
……
ある夜のこと。マンションの最上階には妖艶な雰囲気が漂っていた。
佳奈は目を覚ました。全身の骨が外れてしまうのではないかと思うほど、体が痛い。
だいぶ慣れたと思っていたのだが、やはり仁の人並外れた体力に付き合うのは容易じゃないようだ。
ベランダに立つ仁が、ゆっくりと煙の輪を吐き出している。その首筋に残るたくさんのキスマークに、佳奈は思わず見とれた。
でも、次の瞬間。仁の言葉が、雷のように彼女を打ちのめす。
「来週、婚約することになった」
仁の声はどこか気だるげだった。でも、その声は佳奈の骨の髄まで染み込んでくるように冷たく響いた。「若葉と」
佳奈の体が、かすかにこわばる。
岩崎若葉(いわさき わかば)とは、仁の幼馴染かつ、この街で一番大きな組の令嬢だった。
佳奈はなんとかいつもの妖艶な笑みを浮かべ、特になんでもないようなふりをして言う。「松尾社長、冗談でしょ?この前は、私が一番だって言ってくれたのに。婚約するぐらい、私とは遊び飽きちゃったの?」
仁は口の端をゆがめ、氷のような目つきで佳奈を見る。「家の暗証番号は変えたから、もうここへは来るなよ。
若葉は嫉妬深いんだ」
今度ばかりは冗談ではないと、佳奈にもわかった。
佳奈が唖然としているのに気づいた仁は、彼女の顎をぐいとつかむ。そして、突き刺すように冷たい声で言った。
「どうした?俺が他の女と結婚するのが、そんなにショックなのか?
『愛人でもいい』って、最初に言い寄ってきたのはお前の方だろ?」
彼はふっと鼻で笑いながら、指の腹で佳奈の唇をなぞる。「元カノと関係を持つのも、そのへんの女と関係を持つのも大して変わらないな。結局同じだ。しつこくて面倒くさい」
心臓がどきりと跳ねた。佳奈の胸に、なんとも言えない、酸っぱくて切ない気持ちがじわりと広がっていく。
しかし彼女は「別に」と、すぐに表情を消し、仁のネクタイに指をひっかけた。「けど、松尾社長なら、手切れ金くらいはくれるでしょ?だって……一緒にいる間、私、けっこうがんばったし」
そう言いながら笑う佳奈の目尻のほくろがしっとりと光り、なんともいえない色気を放つ。
仁は息をのみ、彼女の手首を骨が砕けてしまいそうなほどの力で強く掴んだ。
「やっぱりお前はそういう女だったんだな。金のことしか考えてない」
そう言い捨てると、彼は汚いものでも払うように手を放した。「金庫の番号は3357だ。金を取ったら、10分以内にここから消えろ」
「ありがとう」
佳奈は言葉にならない切なさを飲み込み、足早に書斎へ向かった。
壁にはめ込まれた黒い金庫。これまで三度も試したが、暗証番号はわからなかった。
彼女は深く息を吸い込んで、教えられた番号を入力する。「カチャ」という音とともに扉が開き、中を覗くと、金庫の隅のあるものが目に入った。
佳奈は金庫の中の現金をかき集めるふりをしながら、さりげなくそれを手のひらに握り込む。
そして、佳奈は満足げに立ち上がり、現金でパンパンに膨れたバッグを軽く撫でる。
「もう済んだのか?」仁が佳奈を見ていた。「最初からこうなるって、わかってたみたいだな」
「だって、もらえるものはもらっておかないと、でしょ?」佳奈は宝石をちらつかせ、にっこり笑う。「松尾社長は気前がいいのね。どうもありがとう。また何かあったら、いつでも呼んでね!」
仁は目をすっと細め、唇を固く結んだ。「取るもん取ったんだったら、さっさと消えろ」
マンションを出て5分もしないうちに、佳奈のスマホが鳴った。彼女はすぐに電話に出る。
「報告します。目標の鍵を入手しました。任務完了です」
電話の向こうから、上司である三浦純一(みうら じゅんいち)の声が聞こえてくる。「よくやった、25364番。指示通り、ただちに撤退しろ!横山家はもう十分、警察のために動いてくれた。それに君も、お父さんの番号を継いだばかり。君の安全は絶対に確保するからな。それから……」
彼は少し間を空けてから、続けた。「本部からたった今連絡があったんだが、君のお兄さん……まだ生きている可能性があるそうだ」
佳奈の体がびくりと固まる。お兄ちゃんが、生きている?
彼女は目頭を熱くしたが、こみ上げる気持ちを必死に抑える。「三浦さん、1週間くれませんか?兄を助け出したら、すぐに撤退しますから」
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