春になったらまた会おうね第3話
この話は約1677字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
病院に見舞いに来たおじいちゃんとおばあちゃんは、私の耳元でこっそりと、さんざん悪口を言ったものだ。
「厄介者だ……嫌われ者だ……」
病を抱えている私はただの金食い虫だって。
またこう言うのだった――私のせいで、家中が泥棒が入ったみたいにめちゃめちゃだって。
でも、うち、泥棒なんて来てないのに。
あとになってようやく知った。私の病気を治すために、パパとママは全財産を使い果たしていたのだ。
神にすがり仏に祈るなど、ありとあらゆる手を尽くして。
そんな中、おじいちゃんとおばあちゃんは、私の治療を打ち切って、代わりに弟を産むべきだと言い出した。
けれど両親は、ためらうことなく断った。
「父さん、母さん、私たちには千尋だけで十分。
それに、私たちはすでに避妊手術を受けた。この話はもう二度としないで」
それからというもの。
父の髪は日増しに白みを増した。私の看病に加え、本業が終わると今度は相乗りサービスの運転で生計を支えているのだ。
ママはすべてのエステの会員カードを解約し、新しい服など一着も買わなくなった。
ふたりの顔からは、私のせいで微笑みが少しずつ消えていった。
自分が生きている意味が、分からない。
その問いを口にしたとき、ママの顔に、ふと花が咲くような笑みが浮かんだ。
女優なんかより、ずっとずっと美しい笑顔だった。
「千尋、あなたがいてくれること。それだけで、パパとママにとっては、この人生で一番の奇跡なんだよ」
ママ、もう泣かないで。
泣いたら、きれいじゃなくなっちゃう。
千尋は、やっぱりママの笑っている顔がいちばん好き。
ママの涙をぬぐってあげたかった。けれど、私にはできなかった。
その瞬間、幼い小さな手がまるで幻のように私を通り抜け、ママの頬にそっと触れた。「ママ、泣かないで……」
ママは園子をぎゅっと抱きしめ、顔を上げてパパを見つめた。
「あなた、園子を連れてって、アート写真でも撮りに行ってあげない?ねぇ、いいでしょ?
園子は、ずっと千尋の写真の壁を羨ましそうに眺めてたの。今日はその子の夢、叶えてあげようか?」
パパはためらうことなくうなずき、薬と一粒のキャンディーを用意して、私の枕元にそっと置いた。
そして、一枚のメモを書き、丁寧にふりがなまで添えてくれた。
「千尋、園子を連れて少し出かけてくるね。ちゃんとお薬を飲んでいてね」
パパはふくらんだ布団を見つめ、掛け布団の端を直そうと手を伸ばした。
けれど、その手は園子の呼ぶ声に引き止められた。
「パパ、まだなの?」
私はパパの手が宙に止まり、そのまま背を向けて去っていくのを、ただ見つめることしかできなかった。
ちぇっ!
このバカ妹!
あと一秒!たった一秒あれば、パパは私が部屋にいないことに気づいたはずなのに!
私は小さくため息をつき、ちょこちょこと後を追って外の様子を見に行こうと思った。
生まれてからというもの、家と病院を行き来する車の中でしか、外の景色を見たことがない。
ずっと家の中に閉じ込められていて、友達一人もいなかった。
……いや、一人だけいた。
窓の下にツバメが巣を作っていて、私は毎日、窓辺に張りついて彼女たちのちゅんちゅんという声を聞いていた。
ママはツバメを指差しながら、こんな歌を教えてくれた。
「ツバメさん、ツバメさん、毎年春になるとここへ来るのよ」
やがてツバメたちは旅立っていった。
ママは、次の春になればまた会えるよって言った。
私は、目に見えない壁に閉ざされたまま、この家の中に取り残されていた。
ごめんね、ツバメさん。来年、あなたが戻ってきても、もう私はここにはいないの。
私、約束を破ってしまった。
唇をぎゅっと結び、部屋の中をぐるぐると歩き回る。
このベッドサイドの人形、妹は何度もねだったんだ。
帰ったら、そろそろ彼女にあげよう。
パパの誕生日ももうすぐだ。
枕の下には、こっそり隠してある数粒の飴。前からずっと、渡そうと思っていた。
パパ、甘いもの好きだったっけ?
はぁ、と小さく息をついて、そっと棺の上に腰を掛け、頬杖をついた。
ママには、何を贈ろうか。
花瓶に活けられた、妹が摘んできた野花を見つめ、ふとひらめいた。
あっ、そうだ!
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