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新婚旅行、即離婚第1話

この話は約2975字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

入籍した翌日、私・黒沢文乃(くろさわ あやの)は二枚の航空券を握りしめ、空港で新婚の夫・黒沢修也(くろさわ しゅうや)を待っていた。

やがて彼が姿を現した。……ただし、一人ではなかった。

修也のすぐ後ろには、幼なじみの西村雨音(にしむら あまね)が立っていた。

「文乃……雨音がさ、つい最近失恋したばかりで」

修也は私の顔色をうかがいながら、言い訳めいた口調で続ける。

「一人で落ち込んでるみたいだから、気分転換に一緒に連れて行ってやりたくて」

雨音は、私とまったく同じデザインのビーチワンピースを身にまとい、申し訳なさそうに微笑んだ。

「文乃さん、ご迷惑じゃないですか?ただ、新婚さんの幸せ、少しだけ分けてもらえたらなって……」

その瞬間、修也の手に握られている航空券が目に入った。それは、私の隣の席のものらしかった。

座席番号は――16B。

私が16A、修也が16C。

つまり、彼は雨音を、私たち夫婦の間に座らせるつもりだったのだ。

その場に立ち尽くしたまま、足元から一気に怒りがこみ上げ、頭の奥がじりじりと熱くなる。

私は修也の腕をつかみ、人目を避けるように脇へ引き寄せ、声を落とした。

「……その子を、今すぐ帰して。それが無理なら――私が帰る」

修也は露骨に困った表情を浮かべ、ため息混じりに言った。「文乃、そんな言い方するなよ。ちょっと大人になれって。

雨音がさ、一人で家にいるのが怖いって言うんだ。だから俺たちと一緒にいれば、少しは気が紛れるかなって……

それに、俺と雨音は小さい頃からの付き合いだし、旅行くらい――」

「もういい」

私はきっぱりと遮った。

「帰ってもらわないなら、今すぐ離婚届を出しに行く」

* * *

入籍した翌日、私・黒沢文乃(くろさわ あやの)は二枚の航空券を握りしめ、空港で新婚の夫・黒沢修也(くろさわ しゅうや)を待っていた。

やがて彼が姿を現した。……ただし、一人ではなかった。

修也のすぐ後ろには、幼なじみの西村雨音(にしむら あまね)が立っていた。

「文乃……雨音がさ、つい最近失恋したばかりで」

修也は私の顔色をうかがいながら、言い訳めいた口調で続ける。

「一人で落ち込んでるみたいだから、気分転換に一緒に連れて行ってやりたくて」

雨音は、私とまったく同じデザインのビーチワンピースを身にまとい、申し訳なさそうに微笑んだ。

「文乃さん、ご迷惑じゃないですか?ただ、新婚さんの幸せ、少しだけ分けてもらえたらなって……」

その瞬間、修也の手に握られている航空券が目に入った。それは、私の隣の席のものらしかった。

座席番号は――16B。

私が16A、修也が16C。

つまり、彼は雨音を、私たち夫婦の間に座らせるつもりだったのだ。

その場に立ち尽くしたまま、足元から一気に怒りがこみ上げ、頭の奥がじりじりと熱くなる。

私は修也の腕をつかみ、人目を避けるように脇へ引き寄せ、声を落とした。

「……その子を、今すぐ帰して。それが無理なら――私が帰る」

修也は露骨に困った表情を浮かべ、ため息混じりに言った。「文乃、そんな言い方するなよ。ちょっと大人になれって。

雨音がさ、一人で家にいるのが怖いって言うんだ。だから俺たちと一緒にいれば、少しは気が紛れるかなって……

それに、俺と雨音は小さい頃からの付き合いだし、旅行くらい――」

「もういい」

私はきっぱりと遮った。

「帰ってもらわないなら、今すぐ離婚届を出しに行く」

修也が慌てて手を伸ばしてくる。私は半歩下がり、その手を避けた。

「こんなことで本気になるなよ。な?」

声だけは優しく、宥めるように落としてくる。

でも、私は何も答えなかった。ただ冷え切った目で、まっすぐに彼を見つめる。

その視線に耐えきれなくなったのか、修也は小さく息を吐いた。

「……わかった。雨音には俺から言う。帰ってもらうよ」

両手を軽く上げ、降参だと言わんばかりの仕草をする。

「文乃が一番大事だ。……これで、いいだろ?」

そう言い残し、修也は踵を返して雨音のもとへ歩いていった。周囲に聞こえないよう、声を落として。

雨音の肩が、みるみるうちに力なく落ちる。

顔を上げた瞬間、目元が一気に潤んだ。

「修也……もしかして、文乃さんが私のこと嫌い?

私、何か悪いことした?失恋したばかりで気持ちが沈んでて……ただ、二人の幸せにあやかりたかっただけなのに」

そう言いながら、彼女はちらりと私を見た。けれどすぐに視線を修也へ戻し、彼の腕に縋りつく。

「修也、文乃さん……私たちのこと、誤解してるんだよね。

ちゃんと説明してくれたんでしょう?それでも……文乃さんは、修也のこと、信じてくれないの?」

――また、その顔。

――また、その言い方。

頭の奥で、ぶつりと何かが切れた。

二か月前のことが、鮮明によみがえる。

雨音は大きなスーツケースを二つ引きずり、私と修也の新居の前に立っていた。

あのときも、今と同じ表情だった。

修也は私を抱き寄せたまま、痛ましそうに彼女を見つめていた。

「文乃、雨音、別れたばかりなんだ。しかも大家に追い出されてさ。この街で一人なんて、可哀想だろ。

仕事と部屋が見つかるまで、うちにいさせよう。見つかったら、すぐ出ていくって」

……結果はどうだった?

住み始めてから、彼女が出ていくと言ったことは、一度もない。

それから、入籍の半月前。結婚前のパーティー。

雨音は皆の前で目を潤ませ、修也を見上げた。

「文乃さんが羨ましい。修也みたいな、こんなに素敵な人と結婚できるなんて。

前に付き合ってた人なんて……修也が私にしてくれたことの、半分もしてくれなかった」

場の空気が、一瞬だけ妙にざわついた。

友だちが無責任に囃し立てる。

「ほらほら、一緒に飲めよ!」

「お祝いなんだから、いいじゃん!」

修也はグラスを手にしたまま、わずかにためらった。

……けれど。

雨音は当然のように彼の腕に絡みついた。

「いいじゃん、修也。新婚前のお祝いだよ。ほんの一杯だけ」

逃げ場を失ったみたいに、彼は周囲の空気に押されるまま、渋々グラスを傾けた。

そのあと、集合写真を撮ることになった。

次の瞬間、雨音は私を押しのけるように前へ出て、修也の隣にぴったりと身体を寄せた。

その夜、私たちはこれまでで一番激しい喧嘩をした。

「修也……距離感ってものが分からないの?」

「文乃、変に考えすぎだって。ふざけてただけだろ。昔から、俺たちこんな感じじゃないか」

その言葉に、身体の奥が怒りで震えた。

それから一週間、私たちはほとんど口を利かなかった。

冷え切った空気の中で、私は静かに荷物をまとめ、この関係を終わらせる覚悟を固めていた。

入籍前夜になって、ようやく修也が私を抱きしめ、頭を下げた。

「文乃、ごめん。俺が悪かった。これからは、ちゃんと距離を取る。

約束する。……もう、これが最後だ」

充血した彼の目を見て、私はその言葉を、信じてしまった。

――けれど今。

この空港のロビーで、その約束は、冗談みたいに軽い。

修也が雨音を見る目には、ただひたすらな痛ましさだけが滲んでいる。

その優しさは、私に向けられたものじゃない。

やがて彼は、私のほうへ戻ってきた。顔には、疲労がべったりと張りついている。

「文乃……ほら……雨音があんなに泣いてるし。だったら……」

最後まで聞く気にもなれず、私はそのまま出口へ向かって歩き出した。

「じゃあ、私は帰る」

振り返らずに、言い捨てる。

「二人で新婚旅行でも行けば?」

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