断罪の新生第3話
この話は約2133字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
医者の顔は真っ青になった。
私が今にも死にかけていることを悟り、すぐにまともな病院へ運ばなければならないと理解したのだ。
彼は慌ててヴィトの個人番号へ電話をかけた。
「ボス、緊急事態です!アレッシア様が重度の中毒症状を起こしています。すぐに治療が必要です!このままでは命が危ない!」
だが電話の向こうのヴィトの声は、苛立ちと怒りに満ちていた。
「アレッシア......ずいぶん大掛かりな芝居だな。逃げるだけじゃなく、うちの一番腕のいい医者まで買収したのか。
はっきり言っておくよ。どんな小細工をしても、俺は騙されない。お前のことはよく知っているからな。そんなくだらない真似はもうやめろ。
あの子は俺の血を引く子だ。自分の息子を見捨てたりはしない。だがスカーレットが出産するまで待て。
正直、ここまでやるとは思わなかった。だがこれ以上好き勝手するな。俺に逆らったらどうなるか、分かっているだろう」
通話はそこで一方的に切れた。
医者は携帯を見つめ、それから瀕死の私へ視線を落とした。
彼は歯を食いしばり、決断した。
「賭けになるが......クリニックへ連れていく」
だがまさか、スカーレットのクリニックへ連れて行かれるとは思っていなかった。
ガラスの自動ドアの向こうは明るく照らされ、スタッフが忙しく動き回っていた。
最先端の医療機器が整然と並んでいる。
本来なら、私の命を救うためのものだった機材だ。
医者は事情を説明し、院長へ必死に頼み込んだ。
だが彼女は冷たく首を振った。
「ボスの命令です。クリニックのすべての設備はスカーレット様専用。許可のない者は一切使用できません」
「でも彼女は死にかけているんですよ?!」
「それは私たちには関係ありません」
ヴィトの命令のせいで、私は痛み止め一つすら与えてもらえなかった。
その時、入口に一人の背の高い男が現れた。
ヴィトの右腕、マルコだった。
彼は血まみれの私を見て、顔色を失った。
すぐにヴィトのそばへ歩み寄る。
「ボス......外に血まみれの女性がいます。
見間違いでなければ......アレッシア様にそっくりです」
ヴィトは眉をひそめ、こめかみを押さえた。
「あり得ない」
彼は冷たく言った。
「彼女は妊娠しているだけだ。こんな場所まで来られるはずがない」
マルコは声を低くして言い直した。
「一度ご自身で確認された方がいいのでは。もし本当に彼女なら......お子様にも危険が及んでいるかもしれません」
ヴィトの怒りが頂点に達した。
彼は鋭くマルコを睨みつけた。
「あり得ないと言っただろう。聞こえないのか?
もし本当にアレッシアなら、お前が報告する必要があると思うか?とっくに自分でここへ乗り込んでいるはずだ。
見栄っ張りで、自分の外見ばかり気にする女だ。あんな姿を人に見せるわけがない。少しは頭を使え」
一方的な叱責のあと、マルコは力なく首を振るしかなかった。
彼は私の方を向き、静かに言った。
「すまない。俺じゃ助けられない......」
医者は閉ざされた治療室のドアを無力に見つめた。
その顔には深い罪悪感が浮かんでいた。
だが私は分かっていた。
彼はできる限りのことをしてくれたのだ。
「あなたのせいじゃない」と言いたかった。
でも、もう声を出す力すら残っていなかった。
大量出血。
ヘビの毒。
陣痛抑制剤。
そのすべてが、私の命を急速に削っていく。
遠くで医療スタッフたちの小声が聞こえた。
「スカーレット様、もうすぐ出産です。付き添いに戻りましょう」
「でもこの女性、かなり危険な状態よ。このままでは死ぬよ」
「毒が臓器に回り始めている。胎児の心拍も弱くなっている......」
「救急キットを持ってきて!」
その時、腹部に鋭い痛みが走った。
陣痛とは違う。
これは――死の痛みだった。
私の手は腹に置かれていた。
さっきまで大きく膨らんでいたお腹が、少しずつしぼんでいく。
心の中で叫んだ。
――ごめんね。ママが守ってあげられなくて......
最後の涙が頬を伝った。
そして、世界は暗闇に沈んだ。
――ヴィト視点――
ヴィトは分娩室の外を落ち着きなく歩き回っていた。
彼は一晩中、スカーレットのそばで待っていた。
やがてドアが開く。彼はすぐに中へ駆け込んだ。
「おめでとうございます、ボス!元気な男の子です!」
スカーレットの腕に抱かれた赤ん坊を見て、ヴィトの目は喜びで輝いた。
「かわいい」
彼は優しく言った。
「君にそっくりだ、スカーレット」
ついに、ファミリーの未来の後継者が生まれたのだ。
だがそのとき、ふと一つの考えが頭をよぎった。
アレッシアの子は、いったい誰に似るのだろう。
もし女の子なら、きっと母親に似るだろう。あの琥珀色の瞳を受け継いで。
赤ん坊を優しく寝かしつけたあと、ヴィトは立ち上がった。
長い一日がようやく終わった。
そしてその時になって、彼はようやく思い出した。
「スカーレットも子どもも無事だし......
マルコ、アレッシアを連れてこい。彼女にも出産していいと伝えろ」
だがマルコはその場から動かなかった。
体が震えている。
ヴィトには理解できないほどの恐怖に、全身が強張っていた。
長い沈黙のあと、彼はようやく言葉を絞り出した。
「ボス......」
声はかすれていた。
「......奥様とお子様はもう......亡くなりました」
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