攻略失敗、彼は私の遺骨と籍を入れた第3話
この話は約1809字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
柊真は一瞬呆然とし、すぐに眉をひそめた。
検査薬を手に取ろうともせず、私が思い描いていたような喜びも、驚きも、微塵も見せなかった。
ただ、訝しむような目で私を値踏みしている。
「夢、たかが籍を入れるために、ここまでやるのか?偽の検査薬を使って俺を騙してまで?」
言葉を継ぐごとに彼の声は怒りを帯び、私に弁明の隙さえ与えなかった。
「母さんの言う通りだ。お前みたいな育ちの女は、結局、目先の欲しか見えていない」
そう吐き捨てると、冷酷に私の手を振り払った。
妊娠検査薬が、カタンと床に落ちる。
砕け散った私の心のように。
思わず身をかがめて拾おうとしたが、溢れ出しそうな涙を必死に堪えて顔を上げた。
鼻をすすり、唇を噛み締めながら、明かりの下に立つ男を見つめる。
「あなたは、私を信じてはくれなかったのね。あなたの目に映る私は、虚栄心の塊で、ただ金目当ての女でしかなかった。
だから、自分に妻も子供もいることを五年間も隠し続けて、私を騙していたのに、少しも悪びれないのね。
あなたが『たかが紙切れ一枚』と呼ぶものは、私にとっては二つの命、二つの人生そのものなのよ。五年間の想いと、お腹の子供のために必死に足掻いて、いったい何が悪いの?
柊真、あなたは私をこんな風に踏みにじってはいけないわ」
泣きたくなんかなかったのに。
それでも堪えきれなかった。
頬を伝い、口の中に広がる涙の味は、元の世界で事故死した時の絶望よりも、ずっと苦かった。
私は床の検査薬を強く握りしめ、薄暗い照明の中に立つ男を睨みつけた。
光の加減は昔と変わらない。彼の姿も変わらない。
ただその顔には、かつての底なしの優しさは消え失せ、底知れぬ呆れと軽蔑だけが浮かんでいた。
口をついて出る言葉にも、容赦のない非難が滲んでいる。
「夢、何を大げさなことを言っているんだ?命だの、人生だの。
怒る気持ちは分かる。だが俺は選択肢を与え、君自身もこの関係を続けると同意したはずだ。今更どういうつもりだ?
偽の検査薬で俺を騙そうとするなんて。次は偽造した診断書でも出してくるつもりか?」
そう言いながら彼が辺りを見回すと、案の定、ドレッサーの上に置かれた一枚の診断書が目に入った。
柊真は私を乱暴に押しのけて足早に歩み寄ると、診断書を手に取り、中身に目を通すことすらなく――
ビリビリと粉々に引き裂いた。
宙を舞う無残な紙片。男の苛立ちに満ちた声だけが部屋に響く。
「この二日間、一人で頭を冷やせ!」
バンッ、とドアを叩きつける音。そして、遠ざかっていく足音。
私は検査薬を握りしめたまま、ただ立ち尽くしていた。
窓の外には、煌びやかな街の明かり。
窓の内側には、粉々に引き裂かれた私の子供の診断書が散らばっている。
ゆっくりとしゃがみ込み、床に散らばった紙屑を一枚一枚拾い集め、どうにか繋ぎ合わせようとした。
けれど、紙屑はあまりにも細かすぎた。
どれほどかき集めても、決して元には戻らない。
私と柊真の関係のように。彼がどんなに取り繕おうとも、偽りの愛で私を騙し続けていたという事実は、もう変えられない。
そして、私とお腹の子のように。私がどれほど足掻こうとも、実の父親に見捨てられ、あとわずかな時間で共に消えゆくという結末は、もう変えられないのだ。
死んだように静まり返った部屋で、スマートフォンだけがしきりに震え続けていた。
柊真から、何通も立て続けにメッセージが届いている。
【すまない夢、さっきは怒りで取り乱した。謝る】
【だが、もうあんな狂言は聞きたくない。君はただ待っていればいい。明後日、綺麗に着飾って、俺の妻になればいいんだ】
【ドレスも指輪も用意してある。招待状もすでに送った。メディアも百社以上呼んである。明後日、君をこの街で一番幸せな花嫁にしてやる】
そしてほぼ同時に、見知らぬ番号からも数通のメッセージが届いていた。
【桜井夢、あなたって本当に哀れね】
【私が寝た男のお下がりってだけでも惨めなのに、ドレスも指輪も、私が捨てたお古なのよ。明後日が何の日か知ってる?私の息子の誕生日よ】
【あなたの偽物の晴れ舞台で、私の息子の誕生祝いをするなんて。柊真も本当に粋な計らいをするわよね】
画面に並ぶその数行の文字を、私は十分以上もただ見つめていた。
もっと悲しくなって、泣き叫ぶかと思っていた。
でも、心の底にはただ、冷たく麻痺したような感覚しか残っていなかった。
柊真、あなたのその「気遣い」には、私からも最高の贈り物を返してあげるわ。
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