攻略失敗後、死を望んだ私に攻略対象が狂い出す第1話
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死んだはずの私、西園寺莉緒(さいおんじ りお)は、攻略ゲームの世界に入り込んだ。
元の世界へ戻って生き返る条件は、システムが用意した三人の男のうち、誰か一人を攻略すること。
私は彼らに合わせて攻略シナリオを組み、何度も距離を縮めようとした。
けれど彼らが選んだのは、私ではない。
この世界で誰からも愛されるヒロインだった。
疑われ、罵られ、消えてしまえばいいとでも言うような目を向けられ続けた私は、ついに攻略に失敗する。
そして、システムによって抹消された。
彼らの望みどおりに。
けれど私が本当に死んだ途端、彼らはそろって後悔し始める。
神にすがってでも、私を取り戻そうとするほどに。
* * *
【マスター、システム判定によりミッション失敗が確認されました。攻略に失敗したため、これより抹消処理を実行します】
システムの声で、物陰から結婚式を盗み見ていた私――西園寺莉緒(さいおんじ りお)は我に返った。
礼拝堂の中では、一条遥真(いちじょう はるま)と七瀬眞白(ななせ ましろ)が見つめ合って笑い、参列者たちの祝福の拍手に包まれながら口づけを交わしていた。
これが、システムが私に用意してくれた最後のチャンスだった。
けれど今となっては、それも失敗に終わったらしい。
かつて私は、三歳児の体に入り込み、システムと契約を交わした。二十年以内に三人の攻略対象のうち誰か一人でも攻略できれば、元の世界へ戻れるという契約だった。
けれど、二十年が過ぎた今、攻略できた相手は一人もいない。
もしかすると、これがいちばんいい結末なのかもしれない。
私はその場を離れ、大通りにかかる歩道橋へ向かった。
システムの話では、攻略ミッションに失敗した場合、まず上位システムへ状況を報告し、それから私を抹消するらしい。
橋の下を流れていく車を見下ろしていると、この二十年のあいだ、三人の攻略対象が私に向けてきた冷たい目ばかりが思い出された。
彼らは皆、同じ一人の女――眞白のために、私へ容赦ない言葉を浴びせた。
彼女は、この攻略世界で誰からも愛されるヒロインだ。
彼女にはヒロイン補正があるから、攻略対象たちはどうしても彼女に惹かれてしまうのだと、システムは私を慰めていた。
私は曇り空を見上げた。
私はこの世界に迷い込んだ異物で、ヒロインを引き立てるための悪役令嬢。だから、こんな結末を迎えるしかなかったのだろうか。
もういい。
ここまで来て考えたところで、何も変わらない。
どうせ私は死ぬのだから。
私はふらふらと車道へ出た。
誰にも気づかれないまま抹消されるくらいなら、いっそ無惨な死体を彼らに見せつけてやりたい。
どれほど私を嫌っていても、最後くらいは、私を葬るしかなくなるはずだ。
次の瞬間、耳をつんざくようなブレーキ音が響いた。
聞き慣れた荒々しい声が飛んでくる。
「莉緒、死ぬなら人目のないところで勝手に死ね。こんな場所で醜態をさらすな」
顔を上げると、そこにいたのは西園寺蓮也(さいおんじ れんや)だった。
この世界で、私の異父兄にあたる人だ。
彼は、私に残されたたった一人の身内だった。
この世界で頼れる相手のいなかった私に、彼だけは何かと手を差し伸べてくれた。だから私は、蓮也だけは味方だと信じていた。この世界でたった一人、私を家族として扱ってくれる人なのだと。
けれど、いつの間にか彼の目に映るのは眞白だけになっていた。
眞白が「莉緒にいじめられていた」と一言こぼしただけで、蓮也は何も確かめずに信じ込んだ。その日から、私を見る彼の目は変わった。
蓮也は私を車に押し込むと、人通りのない道端で乱暴に引きずり下ろし、迷いもなく頬を打った。
「死にたいなら、誰もいないところで死ね。死んだあとまで他人に迷惑をかけるな。
場所なら選んでやった。死ぬ気があるなら、今ここで死ね。俺の時間を無駄にするな」
頬を打たれた衝撃で、耳の奥がきんと鳴った。膝から力が抜けかけたが、私はどうにか倒れずにこらえた。
蓮也の前で死のうとしたのは、これが初めてではなかった。
あの頃の私は、本気で死にたかったわけじゃない。眞白しか見えなくなった蓮也に、まだ私の声が届くのか知りたかった。ただ、それだけだった。
だから彼には、今回も同じに見えているのだろう。
私はどうせ、死ねない女なのだと。
「兄さん、どうしてここに?
さっきまで、眞白の結婚式にいたんじゃないの?
私を、心配してくれたの?」
私は蓮也を見上げた。
もう期待なんてしたくなかった。
それでも、式場にいたはずの彼がここにいる理由を、そう受け取りたかった。
何度突き放されても、私はまだ、蓮也だけは信じていたかった。
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