捨てた私に、今さら家族面ですか?第1話
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毎月15日は、私・林彩乃(はやし あやの)と林彩花(はやし あやか)が暮らす家を入れ替える日だった。
18年前、病院の不手際で、体外受精によってできた私たちの受精卵が取り違えられ、それぞれ別の母親の子宮に移植された。
真相が明らかになると、実の両親も、育ての両親も彩花を手放したくないと言った。
そこで両家は、私たちをそれぞれの家で1か月ずつ暮らさせ、毎月15日に入れ替えることにした。
それ以来、私はどちらの家からも疎まれる厄介者になった。
彩花がいる家には、お菓子も飲み物も好きなだけ用意され、毎月何万円もの小遣いが与えられた。日当たりのいい部屋も、いつだって彩花のものだった。
一方、私が行った家で出されるのは粗末な食事ばかり。あてがわれる部屋も、日の差さない物置だった。
18年後、私は尿毒症と診断され、彩花とは腎移植の適合条件を満たしていることが分かった。
育ての両親は、治療を受けない旨の同意書を私の前に投げ出した。
「ここまで育ててやっただけでも十分だ。治療費なら実の親にもらえ。うちの娘の腎臓は、絶対に渡さない」
実の両親は私の前にひざまずき、額を床にこすりつけた。
「悪かったとは思ってる。でも、あなたが死んだら、それまででしょう。彩花は私たちの命なの!」
そのとき、病院から電話がかかってきた。
「申し訳ありません。お二人の情報を再び取り違えていました。尿毒症を患っているのは、林彩花さんのほうです」
その瞬間、すべてがどうでもよくなった。
私は祖母が残してくれた金のアクセサリーを売り、アクションカメラと旅の装備を買った。
これからは孤高の旅人として、どこまでも自由に生きていく。
* * *
「本当に申し訳ありません。お二人はどちらも珍しい血液型で、しかも、お二人だけでなく、それぞれのお母様のお名前までよく似ていたため、検査結果を登録する際に、取り違えがあったようです。訂正がまだ済んでおりませんので、ご家族にもお伝えいただけますか」
電話を切ると、育ての両親が険しい顔で私の検査結果を見ていた。
「あの……」
私が口を開きかけると、養父が勢いよくテーブルを叩いた。
「何を言うつもりだ。うちの娘に腎臓をよこせとでも言うのか?」
喉まで出かかった言葉をのみ込んだ。
ふと、18年間娘として暮らしてきた私が、この人たちにとってどれほどの存在なのか確かめたくなった。
「先生から、腎臓は片方を提供しても寿命にはほとんど影響せず、その後も健康に暮らせると聞いた」
養母は腹を立て、しきりに涙を拭った。
「どうしてそんなに自分勝手なの?どうして彩花の健康を犠牲にしてまで、自分だけ助かろうとするのよ。よその子を18年も育てた挙げ句、こんな恩知らずになるなんて。私がいったい何をしたっていうの!」
その言葉で、頬を張られたような痛みが走った。
それでも悔しさをこらえ、言葉を続けた。
「でも、私は死ぬかもしれない」
養父は鼻で笑った。
「死ぬなら勝手に死ね。どうせ、よその家の子だ。やっぱり人間の性根っていうのは、生まれつきなんだな。彩花が尿毒症になったとしても、お前みたいに恥知らずな真似をして他人の腎臓を欲しがったりはしない!」
養母は慌てて紙とペンを取り出し、そこに「臓器提供を求めない旨の同意書」と書いた。
「腎臓は渡さない。お金が欲しいなら実の親にもらいなさい。十数年もうちに寄生してきたんだから、少しでも恥を知っているなら、どこかから飛び降りて死になさいよ。それでようやく、育ててもらった恩を返せるでしょう」
養父はすぐ、知り合いの弁護士に電話をかけた。
「こんな雑な書面じゃ、あとで抜け道を使われるかもしれないだろ。18年も育ててきたんだから、こいつがどんな人間か分かってる。きちんとした書面にしておかないと、いずれ俺たちにしがみついてくるに決まってる!」
私はその紙を見つめ、爪が手のひらに食い込むほど強く拳を握り締めた。
けれど、この人たちは血のつながった親ではない。そう思えば、まだ諦めもついた。
では、実の両親ならどうするのだろう。
そう考えた私は、二人の家へ向かった。
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