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捨てた夫、今さら後悔?第3話

この話は約1394字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

胸の奥に、どっと疲れが広がった。もうこれ以上、彼に何かを説明する気にもなれない。

失望をにじませながら、私は口を開いた。

「司、私たち――離……」

そこまで言いかけたところで、不意に着信音が鳴り響いた。

表示された名前に目を落とす。

理紗。

思わず、小さく息を吐いて顔をそむけた。

司はちらりと私を見たあと、どこか気まずそうに視線を逸らす。

そして体を少し背け、そのまま電話に出た。

私に聞かせないつもりなのだろう。

けれど――理紗の声は、はっきり耳に届いた。

「司さん……こほっ……私、体調を崩しちゃって。来てくれませんか?」

その瞬間、司の表情が変わった。

「ひどいのか?」

「大丈夫です……そんなにひどくは……こほっ……」

受話器の向こうから、か細い咳混じりの声が聞こえてくる。

司は眉を強く寄せた。

「そんな咳してて大丈夫なわけないだろ。待ってろ、今すぐ行く」

通話を切ると、司は私を睨んだ。

「若菜。その話は帰ってからだ。あとでちゃんと説明してもらう」

そう言い残すと、もう私には目もくれず、足早に部屋を出ていった。

まるで逃げるみたいに去っていく背中を見ていると――

思わず笑いそうになった。

テーブルの上に置かれた、出来たばかりの離婚協議書に目を落とす。

もう終わりにしなきゃいけない。

翌朝になっても、司は帰ってこなかった。

仕方なく、離婚協議書を持って彼の会社へ向かった。

司のデスクは相変わらずきれいに整えられていて、必要最低限の仕事道具しか置かれていない。

けれど――椅子の上にだけ、小さなピンク色のブタのぬいぐるみがぽつんと置かれていた。

理紗がいたころ、彼女が司に買ったものだ。

オフィスが殺風景すぎるから、明るい色のぬいぐるみを置いて雰囲気を和らげたい――そんな理由だった。

司はもともと几帳面な性格で、オフィスに余計な物を置くのをいちばん嫌う人だった。

以前、私が観葉植物を置こうとしたときも、司は眉をひそめて言った。

「若菜。ここは仕事をする場所だろ。こういうのは好きじゃない。もう買ってこなくていい」

それなのに今は、そのこだわりも理紗の前ではあっさり覆されている。

思わず、口元に苦笑が浮かんだ。

ふと、デスクの上の財布が目に入った。

就職したばかりのころ、初めてまとまったお金で司に贈った財布だった。

司はそれを本当に大事にしていて、八年間ずっと持ち歩いていた。

あとからもっと高い物が買えるようになっても、替えようとはしなかった。

けれど――もう、何もかも変わってしまった。

私はその財布を手に取り、少しだけ昔を思いながら開いた。

中を見た瞬間――血の気が引いた。

内ポケットには、司と理紗のツーショット写真が挟まれていた。

写真の中で理紗は甘えるように司の肩に寄りかかり、司はわずかに顔を傾けながら、やさしい目で彼女を見て笑っている。

その写真を見た瞬間、胃の奥がむかっとした。

私が贈った財布の中に、司が理紗との写真を入れているなんて――どうしても信じたくなかった。

もう何度も失望させられてきたせいで、今さら何も感じないはずだったのに。

それでも今、はっきり残っていたのは――込み上げてくる吐き気だけだった。

こんな男に八年も費やしてしまったのかと思うと、ただやりきれなかった。

深く息を吸い、手の中の離婚協議書に視線を落とす。

――もう、司にきちんと話すときだ。

そのとき、外から足音が近づいてきた。

顔を上げ、はっきりと言った。

「司、話がある」

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