和紙文捨てた夫、今さら後悔? · 第2話設定≡

捨てた夫、今さら後悔?第2話

この話は約1737字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

その光景が、胸の奥に鋭く突き刺さった。

気づけば、目の奥がじんと熱くなっていた。

彩加は心配そうに私を見て、吐き出すように言った。

「司って、本当に最低」

私は無理に笑ってみせた。

「行こう」

そう言った、そのときだった。

司が私に気づいた。

慌てて理紗の手を離し、そのままこちらへ駆け寄ってくる。

「若菜、違うんだ。話を聞いてくれ。俺たちはただ買い物に来てただけで、本当に何でもない」

そこへ理紗も近づいてきて、私の腕をつかんだ。

「若菜さん、私と司さん、本当に偶然会っただけなんです」

さっき切ったばかりの傷に触れられて、鋭い痛みが走る。

思わず眉が寄った。

私は息をひとつ吸い込んで、何も言わず、小さくうなずくだけにした。

すると理紗は急に目に涙をためて、今にも泣き出しそうな顔で言った。

「ごめんなさい、若菜さん。私のことがお嫌いなのはわかっています。でも安心してください。もう若菜さんの前には現れませんから……」

司はそんな理紗を気遣うように見てから、今度は私を睨みつけた。

「若菜、いい加減にしろよ。理紗だって別に強く掴んだわけでもないだろ。

それに俺たちは何でもないって言ってるのに、その態度は何なんだよ。ほんと面倒くさいな。

少しは理紗を見習ったらどうなんだ」

こめかみがずきずきして、もう相手をする気にもなれなかった。

私は彩加の手を引いて、その場を離れようとした。

けれど司が腕をつかんできて、低い声で言った。

「若菜。そんなに人前で俺に恥をかかせたいのか?」

傷がじんじんと痛んだ。

でも、もう彼と言い争う気力は残っていなかった。

そのまま前へ歩き出す。

背中のほうで、司が苛立った声で私の名前を呼んでいる。

それでも私は、聞こえないふりをした。

彩加とモールを歩き回って、家に帰るころにはすっかり夜になっていた。

その夜、理紗がインスタを更新していた。

なんとなく開いてみた。

一枚の写真が投稿されていて、その下にはこう書かれていた。

【誕生日。大切な人と一緒に過ごせました】

写真の中で、理紗は幸せそうに目を閉じて願いごとをしていた。その隣で、ひとりの男が横顔のまま、彼女にパーティーハットをかぶせている。

その横顔には、見覚えがありすぎた。

八年間、ずっと私の隣で眠ってきた人だから。

ぼやけた横顔しか写っていない。それでも、司が理紗を見る目がやけに優しくて、どこか特別なものを感じた。

昔は、司もあんなふうに私の誕生日を祝ってくれた。

どんなに忙しくても、わざわざ時間を作って帰ってきてくれて、私にも同じように、パーティーハットをかぶせてくれた。

そして、私が目を閉じて願いごとをしている隙に、ポケットからプレゼントを取り出して驚かせてくれたのだ。

それなのに今は――司は別の女の誕生日を祝っていて、家にいる私はひとりきりだった。

そう思った瞬間、胸の奥がぎゅっと締めつけられて、息が詰まりそうになった。

もう見ていられなくて、私はインスタを閉じた。

するとその直後、理紗からメッセージが届いた。

【若菜さん、おうちでひとりなんて寂しくありませんか?だって今、司さんは私のそばにいますから……】

胸の奥を鋭く抉られたみたいだった。

うまく息ができなくなって、大きく息を吸っては吐いてを繰り返しながら、しばらく動けなかった。

それでもなんとか落ち着いてから、私はスマホを手に取って、以前から相談していた弁護士の唐沢宗一郎(からさわ そういちろう)に電話をかけた。

「もしもし、唐沢先生。離婚協議書の内容について、少しご相談したいんですが」

返事をもらってようやく力が抜け、そのままベッドに倒れ込むようにして眠りについた。

翌日、宗一郎と離婚協議書の内容を一通り確認し終えて、私は玄関まで見送りに出た。

そのとき、司が突然帰ってきた。

ちょうど玄関を出ていく宗一郎の背中を見て、司の表情が一瞬だけ曇った。

「若菜、あいつ誰だ?まさか浮気してるのか?」

何も確かめもせず言い放たれたその言葉に、胸の奥がすっと冷えた。

「司、もういい加減にして」

そのひと言で、司の顔つきが一気に険しくなる。

「それはこっちのセリフだろ。俺がどれだけお前のためにしてきたと思ってるんだ。

毎日疑ってばっかだったくせに、自分はどうなんだよ。男を家に連れ込むなんて、いい度胸してるじゃないか」

縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)