捨てた夫、今さら後悔?第2話
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その光景が、胸の奥に鋭く突き刺さった。
気づけば、目の奥がじんと熱くなっていた。
彩加は心配そうに私を見て、吐き出すように言った。
「司って、本当に最低」
私は無理に笑ってみせた。
「行こう」
そう言った、そのときだった。
司が私に気づいた。
慌てて理紗の手を離し、そのままこちらへ駆け寄ってくる。
「若菜、違うんだ。話を聞いてくれ。俺たちはただ買い物に来てただけで、本当に何でもない」
そこへ理紗も近づいてきて、私の腕をつかんだ。
「若菜さん、私と司さん、本当に偶然会っただけなんです」
さっき切ったばかりの傷に触れられて、鋭い痛みが走る。
思わず眉が寄った。
私は息をひとつ吸い込んで、何も言わず、小さくうなずくだけにした。
すると理紗は急に目に涙をためて、今にも泣き出しそうな顔で言った。
「ごめんなさい、若菜さん。私のことがお嫌いなのはわかっています。でも安心してください。もう若菜さんの前には現れませんから……」
司はそんな理紗を気遣うように見てから、今度は私を睨みつけた。
「若菜、いい加減にしろよ。理紗だって別に強く掴んだわけでもないだろ。
それに俺たちは何でもないって言ってるのに、その態度は何なんだよ。ほんと面倒くさいな。
少しは理紗を見習ったらどうなんだ」
こめかみがずきずきして、もう相手をする気にもなれなかった。
私は彩加の手を引いて、その場を離れようとした。
けれど司が腕をつかんできて、低い声で言った。
「若菜。そんなに人前で俺に恥をかかせたいのか?」
傷がじんじんと痛んだ。
でも、もう彼と言い争う気力は残っていなかった。
そのまま前へ歩き出す。
背中のほうで、司が苛立った声で私の名前を呼んでいる。
それでも私は、聞こえないふりをした。
彩加とモールを歩き回って、家に帰るころにはすっかり夜になっていた。
その夜、理紗がインスタを更新していた。
なんとなく開いてみた。
一枚の写真が投稿されていて、その下にはこう書かれていた。
【誕生日。大切な人と一緒に過ごせました】
写真の中で、理紗は幸せそうに目を閉じて願いごとをしていた。その隣で、ひとりの男が横顔のまま、彼女にパーティーハットをかぶせている。
その横顔には、見覚えがありすぎた。
八年間、ずっと私の隣で眠ってきた人だから。
ぼやけた横顔しか写っていない。それでも、司が理紗を見る目がやけに優しくて、どこか特別なものを感じた。
昔は、司もあんなふうに私の誕生日を祝ってくれた。
どんなに忙しくても、わざわざ時間を作って帰ってきてくれて、私にも同じように、パーティーハットをかぶせてくれた。
そして、私が目を閉じて願いごとをしている隙に、ポケットからプレゼントを取り出して驚かせてくれたのだ。
それなのに今は――司は別の女の誕生日を祝っていて、家にいる私はひとりきりだった。
そう思った瞬間、胸の奥がぎゅっと締めつけられて、息が詰まりそうになった。
もう見ていられなくて、私はインスタを閉じた。
するとその直後、理紗からメッセージが届いた。
【若菜さん、おうちでひとりなんて寂しくありませんか?だって今、司さんは私のそばにいますから……】
胸の奥を鋭く抉られたみたいだった。
うまく息ができなくなって、大きく息を吸っては吐いてを繰り返しながら、しばらく動けなかった。
それでもなんとか落ち着いてから、私はスマホを手に取って、以前から相談していた弁護士の唐沢宗一郎(からさわ そういちろう)に電話をかけた。
「もしもし、唐沢先生。離婚協議書の内容について、少しご相談したいんですが」
返事をもらってようやく力が抜け、そのままベッドに倒れ込むようにして眠りについた。
翌日、宗一郎と離婚協議書の内容を一通り確認し終えて、私は玄関まで見送りに出た。
そのとき、司が突然帰ってきた。
ちょうど玄関を出ていく宗一郎の背中を見て、司の表情が一瞬だけ曇った。
「若菜、あいつ誰だ?まさか浮気してるのか?」
何も確かめもせず言い放たれたその言葉に、胸の奥がすっと冷えた。
「司、もういい加減にして」
そのひと言で、司の顔つきが一気に険しくなる。
「それはこっちのセリフだろ。俺がどれだけお前のためにしてきたと思ってるんだ。
毎日疑ってばっかだったくせに、自分はどうなんだよ。男を家に連れ込むなんて、いい度胸してるじゃないか」
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