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拾った旦那は名門のスパダリ社長第3話

この話は約1817字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

だが、心にぽっかり穴が空いたような気がした。

自然とワインセラーへ足が向き、ボトルに手を伸ばす。

弾幕が横切る。

【???当て馬女、子供産みたくないならおろせばいいのに、わざと酒飲むとかサイコパスかよ】

【そういや当て馬妊娠してんじゃん。でもヒーロー知らないし、後半の展開に子供なんて出てこないから、絶対これ流産するフラグだわ】

私はピタリと動きを止めた。

無言でボトルを戻し、ワインセラーに鍵をかける。

ソファに腰を下ろし、この子をどうすべきか頭を悩ませていると、スマートフォンが短く震えた。

邦彦からのメッセージだ。

【晩ご飯はちゃんと食べること。空きっ腹で酒は飲まないように。暗いところでスマホは見ない。夜更かしもしないこと】

画面をじっと見つめる。

ふと、この子を堕ろすのがためらわれた。

*

一週間後、銀行から通知が届いた。

邦彦からの振り込みだ。

メッセージ欄には「半月分の給料。とりあえずこれで凌いでくれ」とある。

たいした額ではないが、一円単位の端数まで細かく振り込まれていた。

通知画面をぼんやりと見つめていると、瞬時に弾幕が画面を埋め尽くした。

【ヒーロー、マジでカップ麺すする金しか残してないやん!】

【自分の手は血豆だらけなのに、元妻の心配してんのか……泣ける】

私はソファからのっそりと立ち上がった。

まだ目立たないお腹をさすりながら、のんびりとした口調で呟く。

「赤ちゃん、パパ餓死しそうだよ」

そのままキッチンへ足を踏み入れた。

この三年間、ほとんど立ち入ったことのない領域だ。

以前は、邦彦が色とりどりの料理を振る舞ってくれていた。

私が作れるものといえば、インスタントラーメンくらい。それすらよく焦がす。

炊飯器の使い方もろくに分からず、熱々のご飯と格闘した挙句、塩加減もめちゃくちゃ。

二時間悪戦苦闘し、ようやく不格好な巨大おにぎりが三つ完成した。

弾幕で知った彼の手の怪我を思い出し、薬局へ走って消毒液と絆創膏を調達した。

弾幕から拾い集めた「城南エリアの再開発現場」というキーワードを頼りに、タクシーを拾って向かう。

現場は土埃が舞い上がっていた。

柔らかなルームワンピースにスリッパ、おまけにタッパーを持っている私の姿は、どう見ても場違いだ。

弾幕が容赦なく嘲笑う。

【当て馬女のこの格好、謎にちょっと可愛くて草】

キョロキョロと辺りを見回していると、一台の白いセダンが滑り込んできた。

降りてきたのは聖美だった。

その手には高級そうな三段重が抱えられている。

私の姿を認めるや、笑みが一瞬引きつったが、すぐに優雅な顔を取り繕った。

「堀江さん?」

歩み寄りながら言葉を投げる。

「どうしてこんな場所へ?」

彼女は私が持っているタッパーを一瞥し、鼻で笑った。

「邦彦にお弁当?なにその不格好な塊。彼、胃が弱いからそんな消化の悪そうなもの食べられないのよ」

私は自分の作ったおにぎりを真剣に見下ろした。

「見た目は悪いけど、ドカタには炭水化物と塩分が一番でしょ。ちゃんと塩は効かせたから」

聖美が一歩距離を詰め、声を潜める。

「堀江さん、分かってないみたいだから教えるわ。

邦彦は今、どん底なの。彼に必要なのは、再起を後押しできる女。おにぎりを作るしか能のない寄生虫じゃないのよ」

私は三秒ほど思考を巡らせた。

「でも彼、今はドカタやってるよね。ドカタに必要なのは体力であって、再起じゃないよ」

少し間を置き、さらに言葉を継ぐ。

「それに私、寄生虫じゃないし。自分でお金稼げるから……どうやって稼ぐかはまだ決めてないけど」

弾幕が言葉を失っている。

【初恋ヒロイン論破されてて草】

【当て馬女のロジック、相変わらず斜め上すぎて反論できないww】

空気が完全に凍りついていた。そこへ、工事現場から邦彦が姿を現した。

泥まみれの作業着に身を包み、手には絆創膏、額には汗が滲んでいる。

私たちの姿を目にし、明らかに足を止めた。

聖美がすかさず駆け寄る。

「邦彦、お弁当持ってきたわ……」

だが、彼は私の方へ真っ直ぐに向かってくると、眉間にシワを寄せた。

「どうして来た?ここは埃っぽいのに」

私がタッパーと薬局の袋を高く掲げる。

「おにぎり届けに来た。あと、薬も」

彼の瞳が微かに揺れた。

袋を受け取るその指先が、かすかに震えている。

それを見た聖美の顔から、サッと血の気が引いた。

「邦彦、私わざわざ……」

邦彦が彼女へ向き直る。その声は酷くよそよそしかった。

「黒木さん、お心遣いには感謝します。ですが、結構です。もう来ないでください」

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