拾った旦那は名門のスパダリ社長第3話
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だが、心にぽっかり穴が空いたような気がした。
自然とワインセラーへ足が向き、ボトルに手を伸ばす。
弾幕が横切る。
【???当て馬女、子供産みたくないならおろせばいいのに、わざと酒飲むとかサイコパスかよ】
【そういや当て馬妊娠してんじゃん。でもヒーロー知らないし、後半の展開に子供なんて出てこないから、絶対これ流産するフラグだわ】
私はピタリと動きを止めた。
無言でボトルを戻し、ワインセラーに鍵をかける。
ソファに腰を下ろし、この子をどうすべきか頭を悩ませていると、スマートフォンが短く震えた。
邦彦からのメッセージだ。
【晩ご飯はちゃんと食べること。空きっ腹で酒は飲まないように。暗いところでスマホは見ない。夜更かしもしないこと】
画面をじっと見つめる。
ふと、この子を堕ろすのがためらわれた。
*
一週間後、銀行から通知が届いた。
邦彦からの振り込みだ。
メッセージ欄には「半月分の給料。とりあえずこれで凌いでくれ」とある。
たいした額ではないが、一円単位の端数まで細かく振り込まれていた。
通知画面をぼんやりと見つめていると、瞬時に弾幕が画面を埋め尽くした。
【ヒーロー、マジでカップ麺すする金しか残してないやん!】
【自分の手は血豆だらけなのに、元妻の心配してんのか……泣ける】
私はソファからのっそりと立ち上がった。
まだ目立たないお腹をさすりながら、のんびりとした口調で呟く。
「赤ちゃん、パパ餓死しそうだよ」
そのままキッチンへ足を踏み入れた。
この三年間、ほとんど立ち入ったことのない領域だ。
以前は、邦彦が色とりどりの料理を振る舞ってくれていた。
私が作れるものといえば、インスタントラーメンくらい。それすらよく焦がす。
炊飯器の使い方もろくに分からず、熱々のご飯と格闘した挙句、塩加減もめちゃくちゃ。
二時間悪戦苦闘し、ようやく不格好な巨大おにぎりが三つ完成した。
弾幕で知った彼の手の怪我を思い出し、薬局へ走って消毒液と絆創膏を調達した。
弾幕から拾い集めた「城南エリアの再開発現場」というキーワードを頼りに、タクシーを拾って向かう。
現場は土埃が舞い上がっていた。
柔らかなルームワンピースにスリッパ、おまけにタッパーを持っている私の姿は、どう見ても場違いだ。
弾幕が容赦なく嘲笑う。
【当て馬女のこの格好、謎にちょっと可愛くて草】
キョロキョロと辺りを見回していると、一台の白いセダンが滑り込んできた。
降りてきたのは聖美だった。
その手には高級そうな三段重が抱えられている。
私の姿を認めるや、笑みが一瞬引きつったが、すぐに優雅な顔を取り繕った。
「堀江さん?」
歩み寄りながら言葉を投げる。
「どうしてこんな場所へ?」
彼女は私が持っているタッパーを一瞥し、鼻で笑った。
「邦彦にお弁当?なにその不格好な塊。彼、胃が弱いからそんな消化の悪そうなもの食べられないのよ」
私は自分の作ったおにぎりを真剣に見下ろした。
「見た目は悪いけど、ドカタには炭水化物と塩分が一番でしょ。ちゃんと塩は効かせたから」
聖美が一歩距離を詰め、声を潜める。
「堀江さん、分かってないみたいだから教えるわ。
邦彦は今、どん底なの。彼に必要なのは、再起を後押しできる女。おにぎりを作るしか能のない寄生虫じゃないのよ」
私は三秒ほど思考を巡らせた。
「でも彼、今はドカタやってるよね。ドカタに必要なのは体力であって、再起じゃないよ」
少し間を置き、さらに言葉を継ぐ。
「それに私、寄生虫じゃないし。自分でお金稼げるから……どうやって稼ぐかはまだ決めてないけど」
弾幕が言葉を失っている。
【初恋ヒロイン論破されてて草】
【当て馬女のロジック、相変わらず斜め上すぎて反論できないww】
空気が完全に凍りついていた。そこへ、工事現場から邦彦が姿を現した。
泥まみれの作業着に身を包み、手には絆創膏、額には汗が滲んでいる。
私たちの姿を目にし、明らかに足を止めた。
聖美がすかさず駆け寄る。
「邦彦、お弁当持ってきたわ……」
だが、彼は私の方へ真っ直ぐに向かってくると、眉間にシワを寄せた。
「どうして来た?ここは埃っぽいのに」
私がタッパーと薬局の袋を高く掲げる。
「おにぎり届けに来た。あと、薬も」
彼の瞳が微かに揺れた。
袋を受け取るその指先が、かすかに震えている。
それを見た聖美の顔から、サッと血の気が引いた。
「邦彦、私わざわざ……」
邦彦が彼女へ向き直る。その声は酷くよそよそしかった。
「黒木さん、お心遣いには感謝します。ですが、結構です。もう来ないでください」
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