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拾った旦那は名門のスパダリ社長第2話

この話は約1653字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

ナイトテーブルには、毎晩欠かさず読んでいたビジネス誌が置かれたまま。

洗面所には、二人の歯ブラシが仲良く並んでいる。

ベッドに横たわりながら、三年間を思い返す。

私が壊してしまったオルゴールを、彼は徹夜で直してくれた。

二日酔いで目を覚ますと、枕元には必ず白湯と二日酔いの薬があった。

彼が接待で遅く帰ってきた時は、酒臭さを気にして、どんなに遅くても必ずゲストルームでシャワーを浴びていた。

思い出に浸っていると、不意に胃の底から吐き気が込み上げてきた。

洗面所に駆け込み、胃液を吐き出す。

息を整えて、ようやく思い出した。

ああ、妊娠したこと、言い忘れてた。

突如、弾幕が激しく点滅を始めた。

【速報:ヒーローの初恋女が来たぞ!別荘の前にいる!】

窓辺へ向かう。

鉄扉の向こうに、真っ白なワンピースに身を包み、完璧なメイクを施した女が立っているのが見えた。

*

扉を開ける。

黒木聖美(くろき きよみ)は、私を上から下まで値踏みするように見ると、「やっぱりね」と言わんばかりの笑みを浮かべた。

「あなたが邦彦の奥さん?」

あえてそこで言葉を区切った。

「いや、元妻ね」

私はドア枠に寄りかかり、大あくびを一つ。

「誰?」

彼女は髪をかき上げ、仰々しく自己紹介を始めた。

言葉の端々に、邦彦とは幼馴染であるというマウントが透けて見える。

三年前、彼が泥酔していたのは自分の出国が原因だと。

自分が戻ってきた以上、離婚するのは当然の流れだという理屈らしい。

弾幕が流れる。

【初恋の女ガチ美人やん!】

【当て馬ざまぁwwwしっかりコンプ刺激されてんねぇ!】

【↑眼科行けw顔面偏差値はどう見ても当て馬の圧勝だ】

【キャットファイトやめろ。てかこの二人全然似てなくね?】

【それな。当て馬ってマジでただの身代わりなん?】

聖美はクラッチバッグから、一枚の写真を取り出した。

高校時代の、邦彦とのツーショットだ。

二人が並んで写っており、邦彦は笑ってこそいないものの、その目元は明らかに今よりずっと柔らかい。

彼女は猫のようになめらかな声を出したが、その瞳には棘があった。

「あの人は一度だってあなたを愛したことなんてないわ。あなたはただの代用品に過ぎないのよ」

私は写真を三秒ほど見つめた。

「この頃、今よりちょっとぽっちゃりしてるね。顔が丸い」

聖美は絶句した。

私は構わず続ける。

「わざわざ教えてくれてありがとう。じゃないと、彼が高校時代どんな顔してたか一生知らないままだったわ。

この写真、もらえない?記念に取っておきたいんだけど」

弾幕がお祭り騒ぎだ。

【ファッ!?そこ!?www】

【当て馬の思考回路が斜め上すぎて草】

【なぜか謎の爽快感あって草】

【初恋ちゃんフリーズしてて草】

聖美は顔色を変え、冷ややかな声を放った。

「随分と変わった人ね。まあいいわ、どうせあの人は私を選んだんだから。

なぜ別荘を譲ったか分かる?彼、もうすぐ私の家に引っ越してくるのよ」

私は小首を傾げて少し考えた。

「へえ、それなら良かった。工事現場で寝泊まりせずに済むね。ドカタって体力勝負だし」

嫉妬など微塵も混じらない、心の底からの本心だった。

聖美は完全に言葉を失った。

きびすを返し、立ち去り際に吐き捨てる。

「あなたみたいな人間、捨てられて当然よ」

扉が閉まる。

ドアに背を預け、ゆっくりとしゃがみ込んだ。

悲しくないわけではない。

ただ、私には悲しみの到来が、人より少し遅いだけだ。

まだ平らなお腹をそっと撫でる。

「赤ちゃん」

ぽつりと呟く。

「パパ、よその子のパパになっちゃうみたい」

しばらく呆然とした後、スマートフォンを手に取った。

妊娠したことだけでも伝えよう。

ロックを解除した瞬間、弾幕が滝のように流れ始めた。

【ファッ!?笹原社長、マジでドカタやってんじゃん!】

【手に血豆できとるやん……てか後半だと国家買えるレベルの大富豪じゃなかったっけ?誰か解説よろ】

【クレクレすんな、こっちが知りたいわ】

【速報:初恋ちゃんがヒーローの居場所聞き出して今車で現場急行中!】

画面の文字を追ううちに、自分が何をしようとしていたか忘れてしまった。

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