拾った旦那は名門のスパダリ社長第2話
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ナイトテーブルには、毎晩欠かさず読んでいたビジネス誌が置かれたまま。
洗面所には、二人の歯ブラシが仲良く並んでいる。
ベッドに横たわりながら、三年間を思い返す。
私が壊してしまったオルゴールを、彼は徹夜で直してくれた。
二日酔いで目を覚ますと、枕元には必ず白湯と二日酔いの薬があった。
彼が接待で遅く帰ってきた時は、酒臭さを気にして、どんなに遅くても必ずゲストルームでシャワーを浴びていた。
思い出に浸っていると、不意に胃の底から吐き気が込み上げてきた。
洗面所に駆け込み、胃液を吐き出す。
息を整えて、ようやく思い出した。
ああ、妊娠したこと、言い忘れてた。
突如、弾幕が激しく点滅を始めた。
【速報:ヒーローの初恋女が来たぞ!別荘の前にいる!】
窓辺へ向かう。
鉄扉の向こうに、真っ白なワンピースに身を包み、完璧なメイクを施した女が立っているのが見えた。
*
扉を開ける。
黒木聖美(くろき きよみ)は、私を上から下まで値踏みするように見ると、「やっぱりね」と言わんばかりの笑みを浮かべた。
「あなたが邦彦の奥さん?」
あえてそこで言葉を区切った。
「いや、元妻ね」
私はドア枠に寄りかかり、大あくびを一つ。
「誰?」
彼女は髪をかき上げ、仰々しく自己紹介を始めた。
言葉の端々に、邦彦とは幼馴染であるというマウントが透けて見える。
三年前、彼が泥酔していたのは自分の出国が原因だと。
自分が戻ってきた以上、離婚するのは当然の流れだという理屈らしい。
弾幕が流れる。
【初恋の女ガチ美人やん!】
【当て馬ざまぁwwwしっかりコンプ刺激されてんねぇ!】
【↑眼科行けw顔面偏差値はどう見ても当て馬の圧勝だ】
【キャットファイトやめろ。てかこの二人全然似てなくね?】
【それな。当て馬ってマジでただの身代わりなん?】
聖美はクラッチバッグから、一枚の写真を取り出した。
高校時代の、邦彦とのツーショットだ。
二人が並んで写っており、邦彦は笑ってこそいないものの、その目元は明らかに今よりずっと柔らかい。
彼女は猫のようになめらかな声を出したが、その瞳には棘があった。
「あの人は一度だってあなたを愛したことなんてないわ。あなたはただの代用品に過ぎないのよ」
私は写真を三秒ほど見つめた。
「この頃、今よりちょっとぽっちゃりしてるね。顔が丸い」
聖美は絶句した。
私は構わず続ける。
「わざわざ教えてくれてありがとう。じゃないと、彼が高校時代どんな顔してたか一生知らないままだったわ。
この写真、もらえない?記念に取っておきたいんだけど」
弾幕がお祭り騒ぎだ。
【ファッ!?そこ!?www】
【当て馬の思考回路が斜め上すぎて草】
【なぜか謎の爽快感あって草】
【初恋ちゃんフリーズしてて草】
聖美は顔色を変え、冷ややかな声を放った。
「随分と変わった人ね。まあいいわ、どうせあの人は私を選んだんだから。
なぜ別荘を譲ったか分かる?彼、もうすぐ私の家に引っ越してくるのよ」
私は小首を傾げて少し考えた。
「へえ、それなら良かった。工事現場で寝泊まりせずに済むね。ドカタって体力勝負だし」
嫉妬など微塵も混じらない、心の底からの本心だった。
聖美は完全に言葉を失った。
きびすを返し、立ち去り際に吐き捨てる。
「あなたみたいな人間、捨てられて当然よ」
扉が閉まる。
ドアに背を預け、ゆっくりとしゃがみ込んだ。
悲しくないわけではない。
ただ、私には悲しみの到来が、人より少し遅いだけだ。
まだ平らなお腹をそっと撫でる。
「赤ちゃん」
ぽつりと呟く。
「パパ、よその子のパパになっちゃうみたい」
しばらく呆然とした後、スマートフォンを手に取った。
妊娠したことだけでも伝えよう。
ロックを解除した瞬間、弾幕が滝のように流れ始めた。
【ファッ!?笹原社長、マジでドカタやってんじゃん!】
【手に血豆できとるやん……てか後半だと国家買えるレベルの大富豪じゃなかったっけ?誰か解説よろ】
【クレクレすんな、こっちが知りたいわ】
【速報:初恋ちゃんがヒーローの居場所聞き出して今車で現場急行中!】
画面の文字を追ううちに、自分が何をしようとしていたか忘れてしまった。
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