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憂いを払いし春風第3話

この話は約2108字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

晴香の胸には、幾つもの疑問が渦を巻いていた。

駿の両親は、自分を責めるのではないか。絵理は、自分を憎んでいるのではないか。――問いただしたいことは山ほどあったが、そのすべては、突如押し寄せた喜びにかき消された。

彼女は駿の手を取ると、満面の笑みを浮かべ、振り返って荷造りに取りかかった。

その様子を見て、駿はようやく絵理に悪意がないと悟り、表情を和らげる。

「さっきは悪かった。君が晴香を傷つけるんじゃないかと思って……」

――駿の機嫌は、常に晴香次第だった。

かつて晴香がしつこく絡んできたとき、彼は苛立ちながらも絵理のもとへ駆け込み、わざと困った顔を作って「正妻」としての宣言を促したものだ。

「絵理、ちゃんと言ってやれよ。俺は君だけのものだって。強めにな」

しかめ面で凶悪な表情を真似てみせ、最後には二人して笑い転げ、ソファでじゃれ合った。

――しかし、駿はもう絵理のものではない。

絵理は口元を引き締め、二人を連れて神崎家へ戻った。

駿の両親はわずかに落胆の色を見せたが、すぐに表情を整え、過去の人間関係や出来事を彼に語り始めた。

絵理を紹介する段になると、二人は一瞬ためらった。

「私は、あなたと一緒に育った幼なじみで、かつては妹のように可愛がってくれたのよ」

絵理は自ら口を開き、わざと甘えるような調子で愚痴る。

「私に相手を紹介するって言ってたのに、記憶を失くしてから、ずっと先延ばしなんだから」

事情を知る両親は複雑な表情を浮かべたが、駿は疑うことなく謝り、冗談めかして返す。

「わかった。この件が落ち着いたら、すぐに手配するよ」

そして自然な手つきで絵理の頭を撫で、その馴染み深い感触に、彼自身も一瞬驚いた。

だが、昔から妹のように思っていたのだと考えれば、それ以上は気に留めなかった。

しかし、部屋に散らばる二人の過去の品々を目にすると、心の奥底に微かな違和感が芽生えた。

その感覚を押し殺し、無意識に晴香には見せたくないと思い、すべてを庭へ運び出して燃やそうと決意した。

炎の光で、眠っていた絵理は目を覚ました。

上着を羽織って外に出ると、彼女と駿の思い出の品々が、炎の中で勢いよく燃えていた。

幼い頃の写真、コンテストの賞状、食べ残しのキャンディーの包み紙まで――一つ一つがパチパチと音を立て、灰へと変わっていく。

炎が駿の横顔を明滅させ、月光に照らされた冷たい輪郭が、揺らめく火の中で際立っていた。

絵理の胸は、不意に鋭く締めつけられるように痛んだ。

生まれ変わってからの彼女は、日々を予定で埋め、次々と事に没頭することで心を麻痺させ、感情を封じ込めてきた。

だが、ふと隙が生じれば、抑え込んだ痛みが一気に押し寄せる。

彼女は手のひらを強く握りしめ、駿に気づかれまいと必死で耐えた。

そのとき、駿が振り返り、絵理に気づくと柔らかく微笑んだ。

「昔は互いに独身で、近くにいても問題ないと思ってた」

少し間を置き、真剣な声で続けた。

「でも今は晴香が一緒に住んでる。これを見たら、きっと悲しむだろうと思って燃やしたんだ。気にしないで」

絵理は首を振り、地面に転がる半焼けの木彫り人形を拾い上げた。

それは二人で村里を訪れたとき、彼が崖っぷちで手に入れた「幸福をもたらすお守り」だった。

言い伝えによれば――愛し合う者がそれぞれ一つずつ持てば、幾度生まれ変わっても加護は続くと。

だが、彼がそれを思い出す日は、もう来ないだろう。

「いいのよ」

絵理は静かに言った。

「ちょうどいいわ。私の部屋の人形も、一緒に燃やしましょう」

火の熱が立ち上る中、彼女の体は、まるで氷水に浸したかのように冷えきっていた。

すべての旧い品を燃やし終えると、絵理は背を向けて去ろうとしたが、駿に手首を掴まれた。

無力さを抱えた瞳で、彼は静かに問いかけた。

「ちょっと手伝ってくれないか?」

やがて絵理は、その意図を悟る。

庭では使用人たちが、花火を神崎家の隣の空き地へ運んでいた。

駿も加わり、最後の一山を運び終えると、汗を拭う彼の瞳は夜闇の中でひときわ輝いていた。

「晴香は俺と一緒に戻ってきたばかりで、ずっと緊張してた。一日中慰めてたら、花火を見たいって言い出したんだ」

そして彼は花火を指差した。

「あとで順番に打ち上げると、空に文字が浮かぶんだ。使用人に任せると失敗しそうだから、君に順番を確認してほしい」

絵理は一瞬、呆然と立ち尽くした。

自分を何だと思っているのか――そう問い詰めそうになったが、言葉を発する前に、駿が続けた。

「君を見ると、何だか落ち着くんだ。昔はきっと、君のことを相当信用していたんだろう」

彼の真っ直ぐな眼差しに射抜かれ、「手伝ってくれるかな?」と問われる。

静寂の中、絵理は苦しげにうなずいた。

駿は笑みを浮かべ、手元の袋を差し出した。

「これ、お礼の線香花火だ」

そして、手慣れた仕草で絵理の頭を撫で、大股で立ち去った。

その足取りはせわしなく、待ちきれない様子だった。

花火が一つ、また一つと夜空で花開き、耳をつんざく音が響く。

絵理は見上げ、空に浮かび上がる文字を読み取った。

【朝焼けを仰ぎ、夕雲を眺める。どんな時も、胸には君しかいない】

【花咲く春も、雪舞う冬も。寝て覚めても、愛しいのは君ひとり】

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