愛、雪のごとく消ゆ第3話
この話は約1712字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
「味見してみて。ぼくの腕前、落ちてないか心配なんだよ」
「君のために心を込めて作った朝ごはんだよ」
目を開けると、寝室にはふんわりとした香りが漂っていた。
白真がトレーを手に満面の期待を浮かべて私の前に立っていた。
まるでいつものように、私が両腕を広げて抱きつき、キスをねだるのを待っているかのように。
けれど私はただ淡々とうなずいただけだった。
「リビングで一緒に食べよう」
私のいつもと違う態度に戸惑っているところへ、菊地おばさんがスーツケースを提げて慌てて入ってきた。
「すみません奥様、海辺用の水着と日焼け止めは買えましたが、パラグライダーの装備は現地に在庫がないものが多くて......あと2日ほどかかりそうです」
「それで十分よ」
私は気にせず微笑んだ。
残りの装備は、予約してある海外のパラグライダー施設で高くても現地購入すればいい。
「水着?パラグライダー?......怜、最近会社が立て込んでて、ぼくは今はちょっと......」
慌てる白真の言葉を遮った。
「付き添いは要らないわ。私ひとりで行くから」
「そんなのダメだよ!君の足のこともあるし、一人で遠くに行かれるなんて心配で......」
そう言いながら彼は私を抱き寄せた。
「もう一週間だけ待ってくれないか?ちょうど会社の大きなプロジェクトが最終段階で、ぼくが海外で契約を結べば、時間が取れるから」
「そのときは、君の行きたいところならどこでも一緒に行くよ」
白真の熱い吐息が私の耳元をかすめた。
以前なら、その気配だけで身体がふわりと緩んでしまったはずなのに、今はただ、吐き気がするほど嫌悪感しかなかった。
昨夜、千紘が私に送信した。
【私の誕生日を祝うために、白真は一緒に海外で一週間過ごしてくれるって】
その一週間、私はただの足を引きずる女として後回しにされ、白真から哀れみのような愛をほんの少し恵んでもらっているだけ。
そんな愛、もういらない。
「わかった」
彼が白状しないのなら、私ももう深く追及しない。
彼ほど賢い男なら、私が去った後、すべてを悟るだろう。
この場で嫌悪を我慢して罵り合うよりも、流れに任せて彼らの愛がさらに燃え上がった頃に、さっと戻って離婚届にサインする方がずっといい。
「ありがとう。じゃあ、ごはん食べよう、ぼくが食べさせてあげる......」
白真は長く息を吐いて、ほっとした様子で私と一緒に朝食を終えた後、また会社へ行こうとしていた。
出かける前、菊地おばさんに厳しい口調で言った。
「これから怜が何か買いたいと言ったら、必ずぼくに報告して。外出する時は必ず付き添って、逐一状況を連絡するんだ。分かったか?」
菊地おばさんは初めて見る白真の厳しい態度に、慌ててうなずいた。
さらに、自主的に私の最近の買い物履歴を彼に報告し始めた。
「記念日のプレゼントとバルーンの飾り付け......?」
白真は一瞬動きを止め、顔色が真っ青になった。
瞳には後悔と罪悪感が滲み出ていた。
菊地おばさんは信じられないという表情で言った。
「川内様、あんなに奥様を大切にされているのに、記念日を忘れるなんて......昨日奥様、遅くまでお一人で待っていたんですよ」
白真は目を逸らし、拳を握りしめてしばらく沈黙した後、かすれた声でようやく答えた。
「君は君の仕事をちゃんとやってくれれば、それでいいんだ。奥様にはぼくが時間を取って、ちゃんと償うつもりだ」
「この会話のことは絶対に奥様に漏らすなよ。もしバレたら、川内家どころか京坂全体が、君の敵になるよ」
だが、その会話はすでに私は全部聞いていた。
少し開いたままだったドアをそっと閉めながら、私はようやく千紘の言葉を信じる気になった。
1年前、白真の方から飽きて私を裏切り、彼女に近づいた。
千紘はただ愛されたかっただけなのだ。
【白真の本心が見えたでしょ?私との買い物のために、家には30分もいなかったの】
【もう手放してあげて、怜さん。あなた自身にも白真にも、それが一番いいの。白真が幸せになれるなら、私だってあなたと一緒に身を引いてもいい】
そして、私は千紘に初めて返信を送った。
【私の方から出て行くよ】
【あなたは彼のことをちゃんと見てあげて。もう、彼に私へ関わらせないで】
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