愛、雪のごとく消ゆ第1話
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学生の頃、川内白真(かわうち はくま)に恋をした。
大学入試の日、彼のために喧嘩して愚かにも足を怪我し、片足で歩くようになった。
彼は名門大学に進学し、私はろくに進路も考えず社会に出て働いた。
結婚の時、彼の家族は誰も私を認めてくれなかった。
ただ白真だけが、「一生君の面倒を見る」と断言してくれた。
その後、酒を一滴も飲めなかった彼が、酒に溺れるようになった。
酔った彼は私を抱きしめて、涙を流しながら言った。
「恩返しのつもりで、一生彼女を大切にできると思ってた。でもみんな、ぼくが足の悪い女を娶ったって笑うんだ」
「他の男たちは、パーティーに優雅で綺麗な女性を連れて行く。でもぼくは、恥ずかしい女を連れて行って、しかも彼女を愛してるふりをしなきゃいけない」
「でも、君がいてくれてよかったよ、千紘」
「ぼくの人生に君がいてくれて、本当によかった......」
その瞬間、私は完全に無防備な心を打ち抜かれ、ただぼう然とその場に立ち尽くしたまま、一晩中動けなかった。
一宮千紘(いちみや ちひろ)。
それは、彼の女性秘書の名前だった。
* * *
学生の頃、川内白真(かわうち はくま)に恋をした。
大学入試の日、彼のために喧嘩して愚かにも足を怪我し、片足で歩くようになった。
彼は名門大学に進学し、私はろくに進路も考えず社会に出て働いた。
結婚の時、彼の家族は誰も私を認めてくれなかった。
ただ白真だけが、「一生君の面倒を見る」と断言してくれた。
その後、酒を一滴も飲めなかった彼が、酒に溺れるようになった。
酔った彼は私を抱きしめて、涙を流しながら言った。
「恩返しのつもりで、一生彼女を大切にできると思ってた。でもみんな、ぼくが足の悪い女を娶ったって笑うんだ」
「他の男たちは、パーティーに優雅で綺麗な女性を連れて行く。でもぼくは、恥ずかしい女を連れて行って、しかも彼女を愛してるふりをしなきゃいけない」
「でも、君がいてくれてよかったよ、千紘」
「ぼくの人生に君がいてくれて、本当によかった......」
その瞬間、私は完全に無防備な心を打ち抜かれ、ただぼう然とその場に立ち尽くしたまま、一晩中動けなかった。
一宮千紘(いちみや ちひろ)。
それは、彼の女性秘書の名前だった。
……
「今日は早いんだね」
「仕事があるわけでもないんだから、もっと寝てていいのに。菊地おばさんに朝ごはん作ってもらうから、できたら呼ぶよ」
朝の光が部屋を満たし、白真が後ろから私を抱きしめる。
その声は優しかった。
彼の笑顔に陽光が差し込み、昨夜の出来事がまるで私の妄想だったかのように思えて、現実感を失いそうになる。
「黙ってて、どうしたの?」
彼は私の額に深くキスをして、私を抱き上げて洗面所へ連れて行く。
歯磨きや洗顔の仕草ひとつひとつが、優しく丁寧だった。
スマホから着信音が鳴るまで、
その奇妙な夢のような時間から抜け出せなかった。
そして、そのメッセージがすべての偽りを残酷に打ち砕いた。
【怜さん、白真が酔って全部言っちゃったみたいだけど、彼を許してあげて?彼、本当に限界なんだよ。毎日辛すぎて、お酒なしじゃやってられないの】
【今日はやっと休みが取れて、私と出かける約束してるの。お願いだから、もう彼に電話して縛り付けないで......】
送信者は、千紘だった。
私はすぐに、彼女のあの艶やかで可愛らしい顔を思い出した。
一年前、彼女は白真の会社に入社し、秘書になった。
その頃から、酒が飲めなかったはずの夫が酒に溺れるようになった。
夜中まで帰ってこないことが増え、たまに帰ってきても、いつも酔い潰れた姿だった。
そしてこの一年、彼は私を一度もパーティーに連れて行かなかった。
最初は無関係に思えた一つ一つの出来事が、この時になって黒い網のように絡まり合い、私の魂を締め付け、息ができなくなるほどだった。
体が勝手に震え始めた。
「どうした、怜?」
「また足が痛むの?」
白真は怯えた声でそう言い、泣きそうになりながら私を抱えてベッドに運び、そっと私の義足の靴を脱がせた。
昨夜、私は一晩中立ち尽くしていた。
今や足の甲は腫れ上がり、青く変色していた。
彼は慌てて薬箱を取り出し、私に軟膏を塗りながら言った。
「なんでこんなに無理するの?何度言ったら分かるんだ?疲れたらちゃんと休んで、無理して歩き回らないでって!」
私はまばたきをして、結婚したばかりの頃を思い出した。
当時、私は毎日無理して一万歩歩き、ほぼ奇跡に近いリハビリの可能性に賭けていた。
健康になりたかったわけじゃない。
ただ、白真に相応しい存在になりたくて、彼の家族に見下されたくなかった。
あの頃、彼は怒り狂い、私をベッドに押し倒し、三日三晩そばを離れなかった。
「何度でも言うよ、怜。ぼくが愛してるのは君そのものなんだ。君のすべてを、不完全さも含めて。ぼくは絶対に、見捨てたりしない」
「だから、もう自分を苦しめないで。そんな君を見てると、つらいんだ」
私は信じた。
少しずつ自分の劣等感を手放し、彼に迷惑をかけたくないという思いも捨てて、穏やかな幸せを一緒に築いていけると信じていた。
でも、以前なら私の足の状態が悪化すればすべてを放り出して病院へ連れて行ってくれた白真は、今日は薬を塗り終えると、すぐに電話を取り出して出て行った。
戻ってきた時、彼の目には期待と喜びが浮かんでいたが、それを必死で隠していた。
「会社で急な用事が入った。どうしても今日行かないといけないんだ。いい子にして、家で休んでて」
私は分かっていた。
彼が千紘に会いに行くのだと。
そして、今夜はきっと帰ってこない。
彼が別の女のもとへ向かっていく姿が遠ざかるのを見て、私は必死でベッドから立ち上がり、後を追った。
「白真!」
彼は振り返った。
目に見えるのは、わずかな苛立ちを含んだ笑みだった。
「なに?早く戻りなよ」
私は勝手に言葉を続けた。
「もし、私が嫌になったなら、はっきり言ってくれればいいの。私、補償も哀れみもいらない。ただ、私たちの間にある感情だけは、綺麗なままであってほしいの......」
「それだけでいいから」
彼は一瞬きょとんとして、言葉に詰まりながらも、結局は薄ら笑いを浮かべた。
「最近、ぼくが忙しくてかまってあげられなかったから、変なこと考えちゃったのかな?」
「いい子にしてて。仕事が片付いたら、一緒にパラグライダーしに行こう。海も見に行こうな?」
そう言って、彼は急いで鞄を取り、あわただしく靴を履いて家を出ていった。
二分後、千紘から新しい写真が送られてきた。
二人でストローを差し合い、一本の豆乳を飲んでいた。笑顔は、この上ない幸せに満ちていた。
菊地おばさんがお粥を作り終えた時、彼女はこう言った。
「川内様って本当にいいご主人ですね。奥様をここまで大事にする人なんて、そうそういませんよ」
私は苦笑して、海外留学のチケットを予約した。
なぜなら、この愛情は、もう私だけのものじゃなくなっていたから。
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