愛人親子のために実娘を殺しかけた夫第3話
この話は約1771字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
もともとは三人で写っていた家族写真なのに、今は彼のいた部分だけがなくなっていた。
それを見た智哉の胸に、ふいに苛立ちがこみ上げた。怒ろうとして振り向いた彼は、そこでようやく私の頭の傷に気づいた。
目に後悔の色がよぎり、手を伸ばしかけたが、私は立ち上がってその手を避けた。
智哉の手は宙に止まったまま、私を見る目だけが暗く揺れていた。
私はもう、以前のように彼を気づかうことはしなかった。
そして、私はゲストルームを指して言った。
「そこで寝て。嫌なら自分の家に帰って」
そう言って、そのまま寝室へ入った。
けれどドアを閉めようとした瞬間、智哉が無理やり中へ入ってきた。熱を帯びた身体が、焦れたように押しつけられる。
私が抵抗してもおかまいなしだった。まるで、私がまだ昔のまま、求められるまま応じるであるかのように。
けれど私は彼を強く突き放し、そのまま平手を打った。
智哉はその一撃に呆然とした。怒りかけたが、次の瞬間には私の手をつかみ、目を見開いたまま尋ねた。
「指輪……どうして外した?」
私たちの結婚指輪は、ごく普通の銀の指輪だった。
あの頃は貧しくて、ほかにお金を回す余裕なんてなかった。それでも私は、よろこんで身につけていた。
成功してからというもの、智哉は埋め合わせるように、私にいくつものダイヤの指輪を買い与えた。
でも私は一度もつけなかった。彼も、この指輪が私にとってどれほど大切か知っていた。
結婚して十年。何があっても、私は一度たりとも外したことがなかった。
それなのに今、私は何も言わずにそれを外していた。
智哉の鼓動が急に速くなった。生まれて初めて、本気の恐れに襲われたようだった。
「明日、また籍を戻そう」
私は冷たく手を振りほどいた。
母はもういない。娘の親権も私にある。
彼はもう、何ひとつ私を脅せない。
「帰って」
智哉はその場で固まった。
自分の耳を疑うという顔だった。
「……どういう意味だ?」
私は彼と距離を取り、静かに答えた。
「あなたが思っている通りの意味よ」
部屋の中に数秒、重い沈黙が落ちた。
やがて智哉の目つきがすっと暗くなり、この瞬間、すべてを勝手に理解したらしかった。
智哉が震える声で言う。
「わざとだろ。離婚を持ち出して、俺に朱音と別れさせるつもりだったんだな!」
思わず笑いそうになった。
ここまできてもなお、私がまだ彼を気にしていると思っているのだろうか。
けれど黙ったままの私を見て、彼はそれを肯定と受け取った。
「いいぞ、よくやったな」
智哉は私の頭を指さして言い放った。
「そのうち後悔して、泣きついてくるのを待ってるからな!」
そう吐き捨てると、顔を真っ青にしたままドアを乱暴に閉めて出ていった。
その物音で娘が目を覚まし、眠そうにしながら部屋から出てきた。
私はすぐに娘を抱き上げ、また静かに寝かしつけた。穏やかな寝顔を見ていると、胸の中に残ったのは満たされた思いだけだった。
翌朝、授業参観があるため、私はいつもより早く起きた。
娘を連れて教室に入ると、そこには智哉と朱音、そして心春がすでに座っていた。
三人は親しげに寄り添い、本当の家族のように見えた。
娘が生まれてから七年。智哉は一度だって授業参観に来たことがない。
陰で片親の子と罵られても、物分かり良く、その辛さを何度も飲み込んで誰にも言わなかった。
けれど、目の前の光景を見た瞬間、もう自分をごまかせなくなったのだろう。
娘は目に涙をためたまま顔を伏せ、その場から駆け出していった。
智哉は申し訳なさそうな顔をして、追いかけようと立ち上がりかけた。
だが朱音が彼を引き留めた。
私は一瞬、足を止めた。胸が苦しく鳴り、すぐに踵を返して娘を追った。
すると角を曲がったところで、朱音が取り巻きの女たちを連れて追いついてきた。
彼女は私の頬を思いきり打ち、不遜な声で言った。
「汐里さん、いい加減にしなさいよ。離婚したんだから、もう子どもを使って智哉を縛ろうとしないで」
周りの女たちもすぐに囃し立てた。
「ほんとよ。母親が恥知らずなら、娘まで恥知らずになるのね。泣くふりまでして、白々しい」
「これぞ親子ってやつでしょ。母親が母親なら、娘も娘ってこと。あははは!」
「黙って!」
怒りで身体が震えた。
けれど娘が心配で、こんな連中に構っている余裕はなかった。
そのまま娘を追おうと足を踏み出した瞬間――
朱音が、後ろから私の髪をつかんだ。
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